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四章 父親の記憶(やや不条理)
四章 13
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「さて小藤」
「は、はい」
光仙の声が改まったので、思わず小藤は背筋を伸ばした。
「この件、わたしは放っておけと言ったはずだが」
「すみません。私が浅はかでした」
小藤は足を止めて深く頭を下げた。
光仙には「手を貸したくなるのは美徳でもあり、時として欠点でもある。見守ることも大切だ」と言われていた。
初めから答えが出ていたのに、小藤は待てなかったのだ。
見守ることの難しさと重要性を実感する。
「来なさい、小藤」
呼ばれて顔を上げると、光仙は優しい笑みを浮かべていた。小藤はおずおずと近寄った。
光仙は歩調をゆるめ、小藤に並んで歩く。
「何度もおまえには手を焼かされているが……」
「すみません」
光仙の言葉を遮って、慌てて小藤は頭を下げた。光仙は苦笑して小藤の頭に手をのせる。
「人のために尽くそうと考え、行動に移す気概は買っている。誰にでもできることではない。その気持ちはなくさないようにしなさい。そのための尻拭いは苦ではない。手のかかる子ほど可愛いとも言う」
「……ありがとうございます」
褒められたのか貶されたのか。小藤は無難に礼を言った。
そうして頭を下げた際、小藤はめまいがした。倒れそうになるのを光仙に受け止められる。
「大丈夫か、小藤」
「いつものことです。しばらくすれば治ります。またご迷惑をかけてしまってすみません」
光仙の腕の中にいると安らかな気持ちになる。なぜだろう、神様だからだろうか。
「抱えていこう」
小藤は光仙に横抱きに抱えられた。突然の浮遊感に慌てる。
「えっ、いえ、歩けます。しばらくすればめまいは治るんです」
「では、治るまで運んでやろう」
光仙はおろす気がなさそうだ。暴れるほうが負担になると思い、小藤は緊張しながらも大人しくした。
整いすぎた光仙の顔が間近にあった。この角度で光仙を見るのは、人柱になった直後以来だ。
小藤が人柱にならなければ、こうして光仙に出会うこともなかった。縁とは不思議なものだ。
「小藤、つらくはないか」
光仙は憂うような表情で小藤を見つめた。
「はい、めまいもだんだんおさまってきました」
めまいと鉛が入っているかのような身体の重み。
それは生きていた頃と、なにかと変わってしまった諸々の環境が原因だと小藤は考えていた。そのうち慣れてなくなるだろう。
「すまない、おまえの体調不良はわたしのせいだ」
「……え?」
予想外の言葉に、小藤は瞠目して光仙を見た。
「明日説明をしよう。今日はもう遅い。ゆっくり寝なさい」
そう言われても、気になって眠れるはずがなかった。
「私の体調不良と光仙さまに、なんの関係があるんだろう」
寝具に入っても目が冴えていた。
うとうとし始めたのは、外が薄明るくなってからだった。
「は、はい」
光仙の声が改まったので、思わず小藤は背筋を伸ばした。
「この件、わたしは放っておけと言ったはずだが」
「すみません。私が浅はかでした」
小藤は足を止めて深く頭を下げた。
光仙には「手を貸したくなるのは美徳でもあり、時として欠点でもある。見守ることも大切だ」と言われていた。
初めから答えが出ていたのに、小藤は待てなかったのだ。
見守ることの難しさと重要性を実感する。
「来なさい、小藤」
呼ばれて顔を上げると、光仙は優しい笑みを浮かべていた。小藤はおずおずと近寄った。
光仙は歩調をゆるめ、小藤に並んで歩く。
「何度もおまえには手を焼かされているが……」
「すみません」
光仙の言葉を遮って、慌てて小藤は頭を下げた。光仙は苦笑して小藤の頭に手をのせる。
「人のために尽くそうと考え、行動に移す気概は買っている。誰にでもできることではない。その気持ちはなくさないようにしなさい。そのための尻拭いは苦ではない。手のかかる子ほど可愛いとも言う」
「……ありがとうございます」
褒められたのか貶されたのか。小藤は無難に礼を言った。
そうして頭を下げた際、小藤はめまいがした。倒れそうになるのを光仙に受け止められる。
「大丈夫か、小藤」
「いつものことです。しばらくすれば治ります。またご迷惑をかけてしまってすみません」
光仙の腕の中にいると安らかな気持ちになる。なぜだろう、神様だからだろうか。
「抱えていこう」
小藤は光仙に横抱きに抱えられた。突然の浮遊感に慌てる。
「えっ、いえ、歩けます。しばらくすればめまいは治るんです」
「では、治るまで運んでやろう」
光仙はおろす気がなさそうだ。暴れるほうが負担になると思い、小藤は緊張しながらも大人しくした。
整いすぎた光仙の顔が間近にあった。この角度で光仙を見るのは、人柱になった直後以来だ。
小藤が人柱にならなければ、こうして光仙に出会うこともなかった。縁とは不思議なものだ。
「小藤、つらくはないか」
光仙は憂うような表情で小藤を見つめた。
「はい、めまいもだんだんおさまってきました」
めまいと鉛が入っているかのような身体の重み。
それは生きていた頃と、なにかと変わってしまった諸々の環境が原因だと小藤は考えていた。そのうち慣れてなくなるだろう。
「すまない、おまえの体調不良はわたしのせいだ」
「……え?」
予想外の言葉に、小藤は瞠目して光仙を見た。
「明日説明をしよう。今日はもう遅い。ゆっくり寝なさい」
そう言われても、気になって眠れるはずがなかった。
「私の体調不良と光仙さまに、なんの関係があるんだろう」
寝具に入っても目が冴えていた。
うとうとし始めたのは、外が薄明るくなってからだった。
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