【完結】神柱小町妖異譚

じゅん

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二章 双子沼(ホラーもの)

二章 11

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「姉さまの勝ちだよ。父さまも母さまも、姉さまのもの」
 姉の亡き後、冬は両親の愛を独り占めできるものと思っていた。
 しかし、違った。
 いくら時間が経っても、両親はふさぎ込んでいた。
「お春はどこに消えてしまったんだ」
「まさか、自ら命を絶ってしまったのでは……」
「ならばわたしたちの責任だ。このところお春を遠ざけていた。親として失格だ」
「そうですね。あの子には足りないところがありました。それを補うよう努力するのが、本来の親の務めです。躯になっているとしても探し続けましょう」
 口にするのは春のことばかりだった。
 日が経つにつれて、両親のなかで春はどんどんと美化されていった。冷遇してしまった罪悪感も拍車をかけているのだろう。
 もはや両親の瞳には冬は映っていなかった。いや、映さないようにしていた。同じ顔の冬を見るたび、春に責められている気持ちになるのだ。
「姉さまは命と引き換えに、父さまと母さまの心を永遠に取り込むことに成功したのです」
 冬は姉に両手を伸ばした。
 肌寒い季節にもかかわらず、冬の額には汗が浮いている。緊張のせいなのか、さきほど奉公人が言っていた体調不良のせいなのか。
「来て姉さま。この身体は姉さまにあげる」
「娘、本気なのか。おまえはそれでいいのか」
 阿光が冬の肩を掴んで揺する。冬は阿光を視線だけで流し見た。
「いいの。あたしは姉さまに貶められた時、頭に血がのぼっていました。姉さまを敵だと思ってしまったのです。でも今は違います」
 冬は愛おしそうな眼差しで姉を見る。
「あたしたちはただの姉妹ではありません。双子です。魂の片割れです。あたしたちは二人で一つなのです。なぜそれを見失っていたのでしょう」
 改めて、冬は姉を迎え入れる体勢となる。
「さあ、姉さま」
 本人の意思では、阿光も止めることができない。
 ――いい心がけね。その身体、もらい受ける。
 悪霊となった春が冬の身体に重なった。小さく呻いて、冬はその場に倒れそうになるのを阿光が受け止めた。
「……おい、娘」
 阿光が呼びかけると、少女は瞼を痙攣させて大きな瞳をのぞかせた。
「あ……」
 少女は周囲を見回し、自分の両手をみつめて何度か指を動かす。そして阿光から身を離した。
「やった。生き返った。生身の身体だ」
 そして少女は歓喜の叫びをあげた。それは春の魂の声だった。
「まったく同じ造りでも、やはり他人ね、身体が重くて動きにくい。まあそのうち慣れるでしょう」
 少女は身体の関節などを確かめるようにして歩き出した。
「お冬様」
「どうかされましたか」
「くせものですか」
 奉公人が庭に集まってくる。慌てて阿光は人の姿を解いた。侵入者だと思われてはたまらない。
「なんでもないよ。気分がいいから、ちょっと叫びたくなっただけ。心配させてごめんね」
 冬の身体に入った春は、屋敷の縁側に立ち振り返った。
「あら、この姿でも四人とも見えるのね。じゃあね」
 満面の笑みを浮かべて、少女は屋敷の中に姿を消した。
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