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二章 双子沼(ホラーもの)
二章 8
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黙っていれば双子はどちらかわからないので、目印になるように着物の色は別々のものを身につけさせた。
春は桃色、冬は薄藍だ。
しかしいつのころからか、少しずつ両親の反応に差がついた。
姉の春ばかり可愛がり始めたのだ。
それに気づいて冬は両親に尋ねてみたが、冷たくあしらわれるだけだった。
「どうしてなの」
冬は戸惑い、悲しくなった。
なにも悪いことはしていないのに。むしろ自分のほうが、言われたとおりに裁縫や礼儀作法に真剣に取り組んで、結果も出しているのに理不尽だ。ふらふらと遊びまわっている春のほうが大事にされるのはなぜなのか。
堪えきれなくなった冬は、年齢が近く仲良くしている女中に声をかけ、心当たりがないか訊いた。
女中は困った顔をする。事情を知っている様子だった。
「お願い、教えて。あたしに悪いところがあったら直すから」
女中はしぶしぶと口を開いた。
「お冬様は、お春様に暴力をふるっていなさいますか?」
「あたしが姉さまに? そんなことはしません」
「へえ、そうでしょう。おかしいとは思いつつ、ことが内容だけに確かめるわけにもまいりませんでした」
「つまり、あたしが姉さまに乱暴をしていることになっているのね」
「へえ」
女中が申し訳なさそうに頷いた。
「誰がそんなことを広めているのですか?」
冬は憤った。そんな話を両親が聞けば、冬に冷たくなるのも道理だ。
「それが……」
また女中は言いよどんだ。
「あなたが教えてくれたことは誰にも言わないから」
冬は急かした。
「それは、お春様ご本人でございます」
「えっ……姉さまが?」
冬は驚きすぎて言葉を失った。春は少し抜けているぶん、嘘はつかないと皆に思われている節がある。冬もその一人だった。
「あたし、やってない」
冬は強く首を振った。
「どうして姉さまは嘘をつくの?」
「わかりません。お冬様がされていないのなら、どなたかをかばっているのか、ご自分で傷をつけていなさるのでしょう」
「そんな……。母さまたちも、なぜ姉さまの言葉を鵜呑みになさるの。あたしは一度も確認されたことがない」
冬は涙ぐんだ。
不憫そうに冬を見つめる女中は迷うようなそぶりをしたが、思い切ったように先を続けた。
「お春様は旦那様がたに、こう言ったそうです」
――父さま、母さま、このことは秘密にしてちょうだい。
――隠すのがつらくて言ってしまったけど、告げ口をしたとお冬に知られたら、もっと乱暴をされる。姉妹仲が更に悪くなる。
――あたしはきっと、お冬に殺されてしまう。
「ひどい。あたしはそんなことしない」
とうとう冬は泣きだした。
「ほかにもあります」
毒を食らわば皿までといった心境なのか、沈痛な面持ちながら、女中は全て吐き出すつもりのようだ。
「店の売り上げをお冬様がくすねていると噂になっています」
「あたしは盗んでない」
「店の間の帳場から、お冬様が逃げ出す姿を複数の奉公人が目撃しているのです」
「あたしの姿を?」
「へえ。同じ顔、同じ着物、同じ桃割れでございます」
「……あぁ、そういうことか……」
やっと冬は理解した。
春は桃色、冬は薄藍だ。
しかしいつのころからか、少しずつ両親の反応に差がついた。
姉の春ばかり可愛がり始めたのだ。
それに気づいて冬は両親に尋ねてみたが、冷たくあしらわれるだけだった。
「どうしてなの」
冬は戸惑い、悲しくなった。
なにも悪いことはしていないのに。むしろ自分のほうが、言われたとおりに裁縫や礼儀作法に真剣に取り組んで、結果も出しているのに理不尽だ。ふらふらと遊びまわっている春のほうが大事にされるのはなぜなのか。
堪えきれなくなった冬は、年齢が近く仲良くしている女中に声をかけ、心当たりがないか訊いた。
女中は困った顔をする。事情を知っている様子だった。
「お願い、教えて。あたしに悪いところがあったら直すから」
女中はしぶしぶと口を開いた。
「お冬様は、お春様に暴力をふるっていなさいますか?」
「あたしが姉さまに? そんなことはしません」
「へえ、そうでしょう。おかしいとは思いつつ、ことが内容だけに確かめるわけにもまいりませんでした」
「つまり、あたしが姉さまに乱暴をしていることになっているのね」
「へえ」
女中が申し訳なさそうに頷いた。
「誰がそんなことを広めているのですか?」
冬は憤った。そんな話を両親が聞けば、冬に冷たくなるのも道理だ。
「それが……」
また女中は言いよどんだ。
「あなたが教えてくれたことは誰にも言わないから」
冬は急かした。
「それは、お春様ご本人でございます」
「えっ……姉さまが?」
冬は驚きすぎて言葉を失った。春は少し抜けているぶん、嘘はつかないと皆に思われている節がある。冬もその一人だった。
「あたし、やってない」
冬は強く首を振った。
「どうして姉さまは嘘をつくの?」
「わかりません。お冬様がされていないのなら、どなたかをかばっているのか、ご自分で傷をつけていなさるのでしょう」
「そんな……。母さまたちも、なぜ姉さまの言葉を鵜呑みになさるの。あたしは一度も確認されたことがない」
冬は涙ぐんだ。
不憫そうに冬を見つめる女中は迷うようなそぶりをしたが、思い切ったように先を続けた。
「お春様は旦那様がたに、こう言ったそうです」
――父さま、母さま、このことは秘密にしてちょうだい。
――隠すのがつらくて言ってしまったけど、告げ口をしたとお冬に知られたら、もっと乱暴をされる。姉妹仲が更に悪くなる。
――あたしはきっと、お冬に殺されてしまう。
「ひどい。あたしはそんなことしない」
とうとう冬は泣きだした。
「ほかにもあります」
毒を食らわば皿までといった心境なのか、沈痛な面持ちながら、女中は全て吐き出すつもりのようだ。
「店の売り上げをお冬様がくすねていると噂になっています」
「あたしは盗んでない」
「店の間の帳場から、お冬様が逃げ出す姿を複数の奉公人が目撃しているのです」
「あたしの姿を?」
「へえ。同じ顔、同じ着物、同じ桃割れでございます」
「……あぁ、そういうことか……」
やっと冬は理解した。
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