【完結】神柱小町妖異譚

じゅん

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二章 双子沼(ホラーもの)

二章 6

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 水面を突き上げ大きな水柱が上がった。その柱の上には人骨がのっていた。
 水柱がおさまると人骨だけが空に浮き、阿光の手の誘導により三人の近くの地面におろされた。
 ――あたしの名前は春。助けてくれてありがとう。
 人骨から白い靄のようなものが現れ、人の形になっていく。
 それは花柄のついた桃色の着物を着て、赤い帯を締めていた。裕福な町人の娘なのだろう、髪型は前と両側を軽く膨らませて結う桃割れだ。精巧で鮮やかなつまみ細工のかんざしをつけている。
 十歳くらいだろうか。つるりと丸い滑らかな頬に大きな瞳。唇はほんのりと色づいて、とても可愛らしい。
「よかったな。おまえの骨がここにあることを村人に伝えて、連れ帰ってもらおう」
 そう言った阿光に、春は頭を下げた。
 ――苦しかった。痛かった。
 ――沼に落ちて、あたしの身体は膨らんだ。
 ――魚についばまれて、あたしは骨になった。
 ――泥に埋もれて動けなくなった。
 春は袖を目元に当ててさめざめと泣く。少女が不憫で小藤の胸は痛んだ。
 ――あたしを食べた魚は、みんな死んだ。
 ――沼の生き物は、全て殺してやった。
 少女の様子が変わった。
「お春ちゃん……」
 小藤は眉をひそめて口を覆った。
 餅のようだった白くふっくらとした頬がどす黒く変色し、どろどろと溶けて地面にぽたぽたと垂れた。眼球は腐り落ち、頭皮もずるりと下がって髪が散った。
 春は人としての原型をとどめていなかった。

 ――ありがとう。
 ――あたしはやっと自由になった!

 少女だったものは高笑いをして、腐った肉を落としながら飛び立った。
「しまった、悪い気配は感じなかったのに」
 阿光が臍をかんだ。
「ボクもわからなかったから同罪です。反省するのは後にして、彼女を追いかけましょう」
「そうだな、あれはなにかするつもりのようだ。放っておくわけにはいかない」
 三人は春を追いかけた。春は近くの町に向かっていた。
 町は南北を貫く街道を挟んで長さは百三十間余あり、繁盛する商店で賑わっていた。のれんには屋号が染め抜かれ、重厚な家構えで二階には黒塗りの櫛形窓が並んでいる。
 店の建ち並ぶ一角を越えて、春は銅葺き屋根の大きな屋敷の敷地に入った。
「きゃあ」
 屋敷から悲鳴があがった。幼い娘の声だ。
 三人が整えられた庭園に回ると、腰を抜かしたように地べた座り込む少女と、腐った肉を垂れ流す春がいた。
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