【完結】神柱小町妖異譚

じゅん

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二章 双子沼(ホラーもの)

二章 4

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「……阿光、気づいていますか?」
「ああ。悪いあやかしが活発になってきてるな。普段は人の踏み込まない森の中だから無理もない」
 小藤が二人に目を向ける。
「あやかしって、妖怪とか幽霊ってこと?」
「そうです」
 吽光は頷いた。小藤は顔をしかめる。
「そもそも神社には神気が集中しています。人に血脈があるように、土地にも地脈というものがあり、重要な場所に神社が立てられるからです。そしてその場所に土地神様がいるからこそ、土地の平安が保たれます」
「土地神様がいなくなると土地が荒れて不作になったり災害が起きたりする。流行り病が起こるのも、土地の気が乱れるからだ」
「この地は今、一時的とはいえ土地神様が留守にしています。神様が抑えていた悪いものが動き出すのです」
「だったら光仙さまは、少しだって土地から離れちゃいけないじゃない」
 小藤は不安になり、胸の前で手を組んだ。光仙は土地に存在すること自体が重要だったのだ。
「少しなら大きな影響はない。そのためにオレたちがいるわけだしな」
「ここのあやかしたちだって、急に人里に出てきたりはしませんよ。長期間、神様が不在になれば話は別ですが」
 そうだとしても、この森に悪いあやかしがいることは間違いないのだ。小藤は怖くなってきた。
「ね、手をつないでもらってもいい?」
「いいぜ」
「いいですよ」
 どちらか一人でよかったのだが、小藤は二人と手をつなぐことになった。
 二人は十歳ほどの見た目で、背は小藤の胸辺りまでしかない。見た目も可愛らしい子供の姿だが、さすがに神の使いだけあって頼もしかった。
 小藤は今年七歳になる弟を思い出した。弟は小藤がつい世話を焼きすぎたせいか甘えん坊だった。阿光や吽光のようにしっかり者に育ってほしい。
「二人とも、ありがとう」
 両方の手のひらから温もりが伝わってくる。それだけで不安が霧散するようだ。これがもっと開けた森林で景色も空気も楽しめるようならば、散歩のようで最高なのにと小藤は思う。
 現実は暗くて空気も淀んでいる、闇を溶かしこんだような不気味な森だった。
「この辺りの景色、夢で見覚えがあるな」
「それに、なにか聞こえます」
 吽光は耳をぴくりと動かす。
 さらに森の奥に進むと木々が開け、黄土色の沼が見えてきた。
 広さは田んぼでいえば一畝分、歩数なら三十歩ほどでそれほど大きくはない。水はどんよりと濁っていてほんの先も見通せず、水深は不明だ。なにかが腐ったような臭いもする。 群生したヨシに囲まれ、水藻が浮いていた。
 沼はしんと静まり返っていた。
 沼といえば魚などが生息しているはずだが、波紋ひとつ立たない。この場には風すら届かないのか。少しも動かない水面は、まるで水を模した板張りの床のようだ。
 いつの間にか、小鳥のさえずりまで聞こえなくなっていた。
「いますね」
「いるな」
 目的の沼を見つけたようだ。
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