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二章 双子沼(ホラーもの)
二章 3
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吽光は「ともかく」と話を戻す。
「今回の悪夢の場合は、双子が同じ夢を見ているのは以心伝心でも偶然でもなく、何者か、おそらく沼の底に沈んだ死者が、双子にばかり夢を見せているのです」
「オレたちもそんな夢は見たくないし、被害者も多いからどうにかしないのかって神様に訊いたんだけど、何度尋ねても『放っておけ』って言われちゃうんだ。神様は忙しいからなあ」
吽光の言葉を引きついだ阿光は、閃いたとでもいうように眉をあげた。
「そうだ、オレたちで沼の場所を見つけようぜ!」
「阿光、なにを言っているのですか。神様が触れるなと言っていたではありませんか」
「場所を特定するだけだよ。神様がやる気になった時、すぐわかるようにさ。ほら行くぞ」
阿光は袴をひるがえして走り出した。
「だめですって、待ちなさい」
吽光は阿光を追いかける。
「えっと、じゃあ私も」
小藤も二人について行くことにした。
「なんか、こっちな気がするんだよな。なあ吽光」
阿光は周囲を見回しながら言った。
その森は小藤の住む村からは遠く、隣町に隣接してる山にあった。手入れはされていないものの、人や獣が何度も通って踏みなさられたらしい道を歩く。勾配は少ないが足場は悪い。
森にはヒノキやスギ、クスノキなどの常緑樹が生い茂っており、地面まで光が届かない。そろそろ春だというのにひんやりとしていて、昼間なのに暗かった。
地面は枯草などが重なって柔らかく、湿っている。小藤はたびたび転びそうになった。
「そうですね」
ため息交じりに吽光は返事をした。
どうしても沼を特定したいという阿光を力づくで戻すことは不可能なので、吽光はさっさと沼を見つけて帰る作戦に切り替えたようだ。
吽光にしても、絶対に阿光を止めるというほどの気概を感じなかった。阿光も吽光も、よほど悪夢が堪えているのかもしれない。
「そういえば、さっき阿光が言っていた“神使”ってなに? 光仙さまも二人のことを神使って呼んでた」
二人は目を丸くした。その表情は「歩くためには右足の次にどちらの足を出せばいいのか」と尋ねた時のような顔だった。
「そんなことも知らないのか」
「ボクたちのことはとっくにご存じかと思っていました」
「あの、ごめんなさい」
小藤は申し訳ない気持ちになった。
「神使ってのは、文字どおり神の使いってことだ。オレたちは光仙様とその神社を守るのが使命なんだ。オレたちにとって神様は光仙様しかいないから、普段はただ“神様”って呼んでるけどな」
「ボクたちは拝殿の前にいる狛犬ですよ」
「えっ、狛犬だったの? ああ、だから名前が阿光と吽光なんだ」
狛犬は基本的に、口を開けた阿形と口を閉じた吽形が一対となっている像だ。神社によっては角があったり獅子であったりと違いはあるが、総じて狛犬と呼ぶことが多い。
阿形と吽形は、光仙から一文字もらって、阿光、吽光と名付けられたのだろう。
「それで犬みたいな耳と尻尾があったのね」
「犬じゃない、狛犬だ」
「犬とはまったく別の生き物です」
「ごめんなさい」
失礼だと言わんばかりの二人に、小藤はまた謝った。
「……阿光、気づいていますか?」
「ああ。悪いあやかしが活発になってきてるな。普段は人の踏み込まない森の中だから無理もない」
「今回の悪夢の場合は、双子が同じ夢を見ているのは以心伝心でも偶然でもなく、何者か、おそらく沼の底に沈んだ死者が、双子にばかり夢を見せているのです」
「オレたちもそんな夢は見たくないし、被害者も多いからどうにかしないのかって神様に訊いたんだけど、何度尋ねても『放っておけ』って言われちゃうんだ。神様は忙しいからなあ」
吽光の言葉を引きついだ阿光は、閃いたとでもいうように眉をあげた。
「そうだ、オレたちで沼の場所を見つけようぜ!」
「阿光、なにを言っているのですか。神様が触れるなと言っていたではありませんか」
「場所を特定するだけだよ。神様がやる気になった時、すぐわかるようにさ。ほら行くぞ」
阿光は袴をひるがえして走り出した。
「だめですって、待ちなさい」
吽光は阿光を追いかける。
「えっと、じゃあ私も」
小藤も二人について行くことにした。
「なんか、こっちな気がするんだよな。なあ吽光」
阿光は周囲を見回しながら言った。
その森は小藤の住む村からは遠く、隣町に隣接してる山にあった。手入れはされていないものの、人や獣が何度も通って踏みなさられたらしい道を歩く。勾配は少ないが足場は悪い。
森にはヒノキやスギ、クスノキなどの常緑樹が生い茂っており、地面まで光が届かない。そろそろ春だというのにひんやりとしていて、昼間なのに暗かった。
地面は枯草などが重なって柔らかく、湿っている。小藤はたびたび転びそうになった。
「そうですね」
ため息交じりに吽光は返事をした。
どうしても沼を特定したいという阿光を力づくで戻すことは不可能なので、吽光はさっさと沼を見つけて帰る作戦に切り替えたようだ。
吽光にしても、絶対に阿光を止めるというほどの気概を感じなかった。阿光も吽光も、よほど悪夢が堪えているのかもしれない。
「そういえば、さっき阿光が言っていた“神使”ってなに? 光仙さまも二人のことを神使って呼んでた」
二人は目を丸くした。その表情は「歩くためには右足の次にどちらの足を出せばいいのか」と尋ねた時のような顔だった。
「そんなことも知らないのか」
「ボクたちのことはとっくにご存じかと思っていました」
「あの、ごめんなさい」
小藤は申し訳ない気持ちになった。
「神使ってのは、文字どおり神の使いってことだ。オレたちは光仙様とその神社を守るのが使命なんだ。オレたちにとって神様は光仙様しかいないから、普段はただ“神様”って呼んでるけどな」
「ボクたちは拝殿の前にいる狛犬ですよ」
「えっ、狛犬だったの? ああ、だから名前が阿光と吽光なんだ」
狛犬は基本的に、口を開けた阿形と口を閉じた吽形が一対となっている像だ。神社によっては角があったり獅子であったりと違いはあるが、総じて狛犬と呼ぶことが多い。
阿形と吽形は、光仙から一文字もらって、阿光、吽光と名付けられたのだろう。
「それで犬みたいな耳と尻尾があったのね」
「犬じゃない、狛犬だ」
「犬とはまったく別の生き物です」
「ごめんなさい」
失礼だと言わんばかりの二人に、小藤はまた謝った。
「……阿光、気づいていますか?」
「ああ。悪いあやかしが活発になってきてるな。普段は人の踏み込まない森の中だから無理もない」
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