【完結】神柱小町妖異譚

じゅん

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一章 水神の怒りと人柱(始まりの物語)

一章 12

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「おっとう、おっかあ。先に死んでごめんなさい」
 小藤は申し訳なくなり、涙が込み上げた。
「小藤、行こう」
 光仙に声をかけられて、茶の間に菊がいないことに気づいた。
 菊は奥の座敷に寝ていた。体の弱い菊のことだ、昨夜の衝撃で寝込んでしまったのかもしれない。
「話しかけてごらん」
 光仙に言われて、小藤は菊の枕元に座り「お菊」と声をかけた。
 何度か繰り返していると、菊は上半身を起こした。その姿は半透明だった。寝ている菊と、身を起こした菊の二人いる。
 身を起こした菊は枕元の小藤に気がついて瞠目し、涙を浮かべた。
「姉ちゃん!」
 菊は姉に抱きついた。
「会いたかった、よかった、生きていたんだね」
 小藤は菊の背中を擦ってやり、ゆっくり身体を離した。
「残念だけど、私の身はこの世にないの。だからあなたに大切なことを伝えに来た」
「姉ちゃん、やっぱり死んじゃったの?」
 菊の顔がゆがむ。小藤は黙って微笑んだ。
「姉ちゃん、ごめんなさい! 私が人柱になるはずだったのに。私みたいな役立たずが行くべきだったのに、あの時は怖くて言えなかった。私が行くとどうしても口にできなかった。ごめんなさい姉ちゃん」
 菊は泣き崩れた。落ち着くまで小藤は背中を擦ってやる。
「いいのよお菊。これからはお菊が家族を守るのよ」
 菊は泣きながらも頷いた。
「私ね、姉ちゃんが行ってから胸が苦しくなくなったの。身体も嘘みたいに軽くなった。急に身体が丈夫になったんだ。姉ちゃんが神様に祈ってくれたおかげだ」
 小藤が光仙を見ると、瞳だけで小さく微笑んだ。小藤の願いを叶えてくれたのだろう。
「私は姉ちゃんが羨ましかった。なんでもできて、優しくて、みんなに好かれてた。私も姉ちゃんみたいに、人の役に立てるようになりたい」
 小藤は菊の頭をなでた。
「私みたいにならなくていいよ。お菊はお菊らしくいればいい」
 小藤も兄のようになろうとしていたが、身を犠牲にするような連鎖は、もうあってはならないと思う。まずは自分を大切にしてほしい。
「姉ちゃん……」
 また菊はぽろぽろと涙を流した。
「ほらお菊、そんなに泣かないの。姉ちゃんはお菊に大事な話があって来たと言ったでしょう」
 小藤は菊の涙をぬぐってやって、菊の手を握った。
「水神様はご神体を盗られたことを怒っていなさる。盗人は水神様の社からそう離れていない雨をしのげる場所にいる。そしてもう一つお怒りなのは、みんなが水神様の社をないがしろにしていたことよ。村長さんたちによく伝えて」
「わかったよ姉ちゃん」
「さあ、行って」
 菊は力強く頷いた。
 それから菊の瞼がだんだんと下がっていく。そして横たわっている菊の身体に重なっていった。
「大好きよ、お菊。おっとうとおっかあにも、悲しまないでと伝えてね」
 小藤は菊の額を優しくなでた。
 眠っている菊の瞳から、一筋涙がこぼれた。
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