【完結】神柱小町妖異譚

じゅん

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一章 水神の怒りと人柱(始まりの物語)

一章 11

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「では私、そのことを村長さんに伝えてきます」
「待て小藤」
 走り出そうとしている小藤を光仙は呼び止めた。
「今のおまえは、人には見えん」
「……あっ! 私、死んでるんだった……」
 小藤はその場にへたりこむ。
「どうやって伝えればいいんだろう。一刻を争うのに」
 小藤は泣きたくなってきた。
「方法はいくらでもある」
「教えてください!」
 小藤は光仙の前で再び正座した。
「例えばわたしが神託を授けるときに使う方法だ」
「神様がお告げをくださるとき」
 聖職者や預言者、占い師などに神託がくだるという。方法は口寄せであったり占いであったり夢であったりする。
 村人たちの中には、予言や占いができるような特殊能力を持つ者はいない。
 ならば、神託を受ける方法は限られる。
「もしかして、私が夢枕に立てばいいのですか?」
「そうだ。おまえにとって親しい者ほど、呼びかけに応えやすくなる」
「そして、目覚めた時にただの夢だと思わない人がいいですよね」
 小藤は妹の菊が適任だと思った。
「ありがとうございました。行ってきます」
「わたしも行こう。阿光、吽光、留守を頼む」
 光仙は二人の少年を膝からおろして立ち上がった。
「神様、行っちゃうのか? 早く帰ってきて」
「行ってらっしゃい、ごゆっくり。留守は任せてください」
 同じ顔をした二人は正反対のことを言った。しかし耳をたらして淋しげにしっぽを振っているのは同じだ。「留守は任せて」と言った吽光も、阿光と同じ気持ちなのだろう。
「ごめんね、光仙さまを借りちゃうね」
 申し訳なく思った小藤は二人の頭をなでた。
 今のような状況になってから小藤は初めての外出だ。神が来てくれるというなら、これ以上心強いことはない。
 小藤と光仙は神社を出て、小藤の家に向かった。
 今日は寺の鐘を一度も聞いていなかったが、周囲の明るさからいって昼前の朝四ツ頃だと小藤は予想する。
 雨が身体を素通りして濡れない感覚を不思議に思いながら歩いていると、
「人と神とは生きる次元が違うのだ。同じものであって同じものでない。見えるようで見えていない」
 光仙はそう説明した。やはり半分も理解できずに小藤は首を傾げた。
 橋の近くを通りかかった。まだ橋はなんとか持ちこたえている。しかし昨夜よりも水位は更に上がっていて橋桁に届きそうだ。そうなれば激流に耐え切れずに橋は崩壊するだろう。やはり一刻も早く雨を止めなければと小藤は思う。
 しばらく歩くと、見慣れた茅葺屋根の家が見えてきた。
 小藤が戸を開けると、戸が二重に見えた。
 開いている戸と、閉まっている戸だ。
 驚いている小藤の肩に、光仙は手をのせた。
「だから言っただろう。人と神とは生きる次元が違うのだ」
「少し、わかった気がします」
 開けた戸を閉めると、戸は一つに重なった。
 小藤の家族はいつものように、茶の間の囲炉裏を囲っていた。ただ誰一人口を開かず、憔悴した面持ちで囲炉裏ではぜる薪をみつめていた。
「おっとう、おっかあ。先に死んでごめんなさい」
 小藤は申し訳なくなり、涙が込み上げた。
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