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三章 家族で仲良く暮らしたい、城島啓太
家族で仲良く暮らしたい、城島啓太 8
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「くだらないって言葉でごまかさないでください。ちゃんと陽子さんと向き合ってこなかったから、陽子さんが本気で別れようとしていることに気がつかなかったんじゃないですか」
隆はむっつりと黙り込んだ。
「夕涼み会のお願いだって、一日仕事を休めと言われたわけじゃないでしょ。啓太くんの見せ場の時間だけでも仕事を抜け出せなかったんですか。ここから世田谷なんでそう離れていません。来なければ離婚するって宣言されていたんですよね。そんなピンチに、助けてくれる同僚は一人もいないんですか?」
「……うるさいな、あいつが離婚なんてできるはずがないんだよ」
拓斗は立ち上がった。怒髪天を衝いた。
「隆さん、今日は何時に帰宅するんですか」
「さあ、今日も帰れないかもな」
「夜、一時間くらいなら仕事を抜けられますよね。都合のいい時間を教えてください」
「そんな時間があれば仕事を終わらせて帰るよ」
「だったらもう何時でもいいですね。今日の夜七時に、世田谷のシェアハウスに来てください。啓太くんがあなたに聞かせるはずだった歌の準備をして待っています。夕涼み会のやり直しです。来てくれたら、陽子さんの溜飲が少しは下がるかもしれません」
「だから、そんな時間はないんだよ」
隆が苛立ったように吐き捨てる。
「来なくても構いませんよ。一秒でも遅れたら、ぼくたちはすぐに陽子さんを連れて弁護士事務所に向かうだけです」
拓斗は両手をテーブルにつけて、ぐいっと身を乗り出した。
「帰ってこないことを淋しがるのも、浮気を心配するのも、陽子さんが隆さんのことを思っているからじゃないですか。それを迷惑だとしか考えないなんて最低です。次はお望みどりに、夫が帰ってこなくてもまったく気にしない、ATM扱いしてくれる女性と結婚してください。行こう、雄一郎」
拓斗は呆然というように自分を見上げている雄一郎を促して店を出た。コーヒー代の未払いが気になったが、隆は高給取りだと言っていたし、こちらは大いに不快な気分にさせられたのだから、この際いいだろうと開き直る。
「やっぱり陽子さんから聞いたとおりの、いやそれ以上にひどい夫じゃないか。来なきゃよかったね」
「そうでもないさ。隆さんが離婚を望まないなら、なんとしてでも七時までにシェアハウスに来るよ。本心を確かめられるという点では、夕涼み会のやり直しはいい案だ。啓太も父親に見てもらいたかっただろうしな。住所は念のため陽子さん経由で隆さんに知らせておく」
「役に立ったなら、ついて来たかいがあるけどね」
「それにしても」
雄一郎は思い出し笑いをする。
「おまえが啖呵を切るなんて珍しいな」
「だってなんか、あの人ひどいよ」
「俺たちにはわからない既婚者の事情ってのもあるんじゃねえの」
「そうかなあ。言い訳にしか聞こえなかったけど。あの調子じゃ、職場でも人望なさそうだよね。仕事を抜け出したくても、誰も協力してくれなかったりして」
「仕事人間が職場で人望もなかったらアウトだろ」
雄一郎が苦笑する。それからふと真顔になった。
「おまえがもしピンチになったらさ、遠慮せずに連絡をよこせよ。地球の裏側にいても助けに行ってやるから」
「なんだよそれ、大げさだな」
拓斗は笑いながらも、雄一郎なら本当に来てくれそうだと思った。
隆はむっつりと黙り込んだ。
「夕涼み会のお願いだって、一日仕事を休めと言われたわけじゃないでしょ。啓太くんの見せ場の時間だけでも仕事を抜け出せなかったんですか。ここから世田谷なんでそう離れていません。来なければ離婚するって宣言されていたんですよね。そんなピンチに、助けてくれる同僚は一人もいないんですか?」
「……うるさいな、あいつが離婚なんてできるはずがないんだよ」
拓斗は立ち上がった。怒髪天を衝いた。
「隆さん、今日は何時に帰宅するんですか」
「さあ、今日も帰れないかもな」
「夜、一時間くらいなら仕事を抜けられますよね。都合のいい時間を教えてください」
「そんな時間があれば仕事を終わらせて帰るよ」
「だったらもう何時でもいいですね。今日の夜七時に、世田谷のシェアハウスに来てください。啓太くんがあなたに聞かせるはずだった歌の準備をして待っています。夕涼み会のやり直しです。来てくれたら、陽子さんの溜飲が少しは下がるかもしれません」
「だから、そんな時間はないんだよ」
隆が苛立ったように吐き捨てる。
「来なくても構いませんよ。一秒でも遅れたら、ぼくたちはすぐに陽子さんを連れて弁護士事務所に向かうだけです」
拓斗は両手をテーブルにつけて、ぐいっと身を乗り出した。
「帰ってこないことを淋しがるのも、浮気を心配するのも、陽子さんが隆さんのことを思っているからじゃないですか。それを迷惑だとしか考えないなんて最低です。次はお望みどりに、夫が帰ってこなくてもまったく気にしない、ATM扱いしてくれる女性と結婚してください。行こう、雄一郎」
拓斗は呆然というように自分を見上げている雄一郎を促して店を出た。コーヒー代の未払いが気になったが、隆は高給取りだと言っていたし、こちらは大いに不快な気分にさせられたのだから、この際いいだろうと開き直る。
「やっぱり陽子さんから聞いたとおりの、いやそれ以上にひどい夫じゃないか。来なきゃよかったね」
「そうでもないさ。隆さんが離婚を望まないなら、なんとしてでも七時までにシェアハウスに来るよ。本心を確かめられるという点では、夕涼み会のやり直しはいい案だ。啓太も父親に見てもらいたかっただろうしな。住所は念のため陽子さん経由で隆さんに知らせておく」
「役に立ったなら、ついて来たかいがあるけどね」
「それにしても」
雄一郎は思い出し笑いをする。
「おまえが啖呵を切るなんて珍しいな」
「だってなんか、あの人ひどいよ」
「俺たちにはわからない既婚者の事情ってのもあるんじゃねえの」
「そうかなあ。言い訳にしか聞こえなかったけど。あの調子じゃ、職場でも人望なさそうだよね。仕事を抜け出したくても、誰も協力してくれなかったりして」
「仕事人間が職場で人望もなかったらアウトだろ」
雄一郎が苦笑する。それからふと真顔になった。
「おまえがもしピンチになったらさ、遠慮せずに連絡をよこせよ。地球の裏側にいても助けに行ってやるから」
「なんだよそれ、大げさだな」
拓斗は笑いながらも、雄一郎なら本当に来てくれそうだと思った。
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