【完結】夢追い人のシェアハウス ~あなたに捧げるチアソング~

じゅん

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一章 漫画家志望の猫山先輩

漫画家志望の猫山先輩 16

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「全色盲であることは格好悪いことではありません。好きでもない漫画を無理矢理描いているほうが格好悪いです」
「なっ……んで」
 猫山の目が限界まで開かれた。
「色覚異常になったのは、後天的だったんじゃないですか? それまではおそらく、油絵かアクリルで重厚な風景画を描いていたんじゃないでしょうか」
 猫山は鋭い視線だけで話の先を促してくる。
「ぼくから見たら、水墨画も素晴らしかった。でも合わないという言い方をしていたから、水彩画のような“にじみ”や“ぼかし”をいかした絵を描いていたのではないだろうと思ったんです」
「なんだよ、おまえは探偵かよ」
 猫山は自嘲しながら窓枠から降りて、乱暴にソファーに座った。
「そうだよ、俺は二年前まで油絵を描いていた。在学中に個展を開いて話題になるくらいは才能があったんだ。油絵で食っていける。そう思った矢先に……」
 猫山が横断歩道を渡っている時、信号無視をしたバイクが突っ込んできた。
「俺はとっさに手をかばった。無意識だったけど、万が一足がなくなったとしても、手さえあれば絵が描ける。そう思ったんだろうな。まともにバイクに轢かれて、気づいたら病院だった。目が覚めて、オレはすぐに指が動くかを確認した。問題なく動いた。思わず声を出してガッツポーズをしたよ。足は骨折してたんだけどな」
 しかし、すぐに違和感を覚えた。
 天井は白。
 カーテンも白。
 ベッドのシーツもカバーも白。
 だがそれは、猫山のよく知る“白”とは少し違った。それらが白いのは当たり前だと言い聞かせても、胸が締め付けられて、嫌な予感に鼓動が早くなった。
 手を見て、服を見て、そして窓の外を見て絶望した。
 猫山は突然、灰色だけの、グレースケールの世界に投げ出されてしまった。
「脳に異変があったらしい。治療して治るようなものじゃないって言われてさ」

 ふざけんなよ、おまえ医者だろ、治せよ!
 オレは画家なんだぞ! 色彩なくしてどう生きていけばいいんだよ!
 あのバイクのヤツ連れて来い! そいつの金で、世界一の名医を連れて来いよ。オレの目を返せ!
 頼むよ……オレ、なんでもするからさ……。

 猫山は怒り、暴れ、泣いて懇願しても無駄だった。今の医療ではどうにもならないのだ。
 退院してからも、猫山はなにもする気が起きなかった。暗い部屋で、ただ生きていた。
 死のうとも思ったが、死ぬ気力もなくなっていた。
 ――しばらく経ったある日。
 死ぬ気になれば、なにかできるのではないかと考えた。
 そこまで気持ちが回復するまでに、一年以上経過していた。
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