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一章 漫画家志望の猫山先輩
漫画家志望の猫山先輩 6
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「拓斗くん、お届け物よ」
ドアをノックする音と大家の声で目が覚めた。
部屋は完全に暗くなっている。
上半身を起こした拓斗は見慣れない部屋に一瞬ドキリとしたが、すぐにシェアハウスにいることを思い出した。
リモコンで部屋の電気をつけてからドアを開ける。
「すみません、待ちました? 寝てしまったようで」
「あら、起こしちゃったのね。こちらこそごめんなさい。ご両親が来て玄関に段ボール箱を置いていったから、部屋に運んでね」
「両親が?」
「ええ。もう帰ったけれど」
声もかけずに帰ったのか。淋しいような、ほっとしたような、複雑な気分だ。
礼を言って部屋を出る。廊下の角を曲がると玄関が見えた。確かに段ボールが三つ積んである。
段ボールを持ち上げると、二つは軽いが一つがやけに重かった。荷物を運びながら、二階の部屋を選ばなくてよかったと思う。
自室で段ボールを開けると、軽いものには服やタオル、歯ブラシ、ドライヤーなどの日用品が入っていた。それを収納スペースに入れていく。
そして重い段ボールには、予想に違わずギッシリと楽譜が入っていた。
「余計なものを」
拓斗は眉をひそめ、そのまま蓋を閉めて部屋の隅に押しやった。そしてまたベッドに横になる。さすがにもう眠くはならない。スマートフォンで時間を確認すると、夜の八時になっていた。
「これからどうしよう。食欲はないしな……」
朝からなにも食べていないのに、腹がすかない。精神的なものかもしれない。
やることもないので、風呂に入ることにする。
入浴セットを手にして部屋を出と、廊下には誰もおらず、しんと静まり返っていた。
脱衣所のドアを開けて中をのぞくと、誰もいない。浴室に耳をすませてみても特に人の気配がしなかった。ほっとして脱衣所に入ると、拓斗は服を脱ぎ始める。先客がいたら出直そうと思っていた。
脱衣所には三段の棚があり、高さのあるかごが置いてある。入れた服が見えないようにする配慮だろうか。反対の壁は鏡付きの洗面台が三つ並んでいて、床はござのようになっている。エアコンはないが扇風機が首を振っていた。
Yシャツを脱ぐと、裸の上半身が鏡に映った。元々肉付きがいい方ではないが、はっきりとあばらが浮いている。明日は体力がつきそうなものを食べようと拓斗は思った。
ボディタオルとボディソープ類を手にして風呂場のドアを開けると、むわりと水蒸気が押し寄せてきた。拓斗は軽く目を細める。
「よお、拓斗か」
「えっ」
驚いた拓斗は、思わず持っていたボディタオルで身体を隠した。湯船には猫山が浸かっていた。
「は? なにやってんだよ、おまえ男だろ」
「男だって恥ずかしいですよ」
とっさの行動に拓斗は赤面した。とはいえ、わざわざタオルを外す気にもならなかった。そそくさと近場の椅子に座って身体を洗い始める。猫山のいる湯船から、一番遠い場所だ。しかし、そこまで広い風呂場ではないので視線が気になってしまう。
「ははあ。さてはおまえ、小さいんだな。あるよな、そういうコンプレックス。貧弱な身体してるしな」
猫山はウンウンとうなずいて、わかったような顔をする。
じっと観察されているわけでもないだろうが、いたたまれなくなった拓斗は身体を洗うのもそこそこに、さっさと湯船に入ることにした。それなら裸体を晒さずにすむ。
「お邪魔します」
「おう」
声をかけて湯船に入った。優に五人は入れる広さがある。拓斗が入ると浴槽から湯が溢れた。
ドアをノックする音と大家の声で目が覚めた。
部屋は完全に暗くなっている。
上半身を起こした拓斗は見慣れない部屋に一瞬ドキリとしたが、すぐにシェアハウスにいることを思い出した。
リモコンで部屋の電気をつけてからドアを開ける。
「すみません、待ちました? 寝てしまったようで」
「あら、起こしちゃったのね。こちらこそごめんなさい。ご両親が来て玄関に段ボール箱を置いていったから、部屋に運んでね」
「両親が?」
「ええ。もう帰ったけれど」
声もかけずに帰ったのか。淋しいような、ほっとしたような、複雑な気分だ。
礼を言って部屋を出る。廊下の角を曲がると玄関が見えた。確かに段ボールが三つ積んである。
段ボールを持ち上げると、二つは軽いが一つがやけに重かった。荷物を運びながら、二階の部屋を選ばなくてよかったと思う。
自室で段ボールを開けると、軽いものには服やタオル、歯ブラシ、ドライヤーなどの日用品が入っていた。それを収納スペースに入れていく。
そして重い段ボールには、予想に違わずギッシリと楽譜が入っていた。
「余計なものを」
拓斗は眉をひそめ、そのまま蓋を閉めて部屋の隅に押しやった。そしてまたベッドに横になる。さすがにもう眠くはならない。スマートフォンで時間を確認すると、夜の八時になっていた。
「これからどうしよう。食欲はないしな……」
朝からなにも食べていないのに、腹がすかない。精神的なものかもしれない。
やることもないので、風呂に入ることにする。
入浴セットを手にして部屋を出と、廊下には誰もおらず、しんと静まり返っていた。
脱衣所のドアを開けて中をのぞくと、誰もいない。浴室に耳をすませてみても特に人の気配がしなかった。ほっとして脱衣所に入ると、拓斗は服を脱ぎ始める。先客がいたら出直そうと思っていた。
脱衣所には三段の棚があり、高さのあるかごが置いてある。入れた服が見えないようにする配慮だろうか。反対の壁は鏡付きの洗面台が三つ並んでいて、床はござのようになっている。エアコンはないが扇風機が首を振っていた。
Yシャツを脱ぐと、裸の上半身が鏡に映った。元々肉付きがいい方ではないが、はっきりとあばらが浮いている。明日は体力がつきそうなものを食べようと拓斗は思った。
ボディタオルとボディソープ類を手にして風呂場のドアを開けると、むわりと水蒸気が押し寄せてきた。拓斗は軽く目を細める。
「よお、拓斗か」
「えっ」
驚いた拓斗は、思わず持っていたボディタオルで身体を隠した。湯船には猫山が浸かっていた。
「は? なにやってんだよ、おまえ男だろ」
「男だって恥ずかしいですよ」
とっさの行動に拓斗は赤面した。とはいえ、わざわざタオルを外す気にもならなかった。そそくさと近場の椅子に座って身体を洗い始める。猫山のいる湯船から、一番遠い場所だ。しかし、そこまで広い風呂場ではないので視線が気になってしまう。
「ははあ。さてはおまえ、小さいんだな。あるよな、そういうコンプレックス。貧弱な身体してるしな」
猫山はウンウンとうなずいて、わかったような顔をする。
じっと観察されているわけでもないだろうが、いたたまれなくなった拓斗は身体を洗うのもそこそこに、さっさと湯船に入ることにした。それなら裸体を晒さずにすむ。
「お邪魔します」
「おう」
声をかけて湯船に入った。優に五人は入れる広さがある。拓斗が入ると浴槽から湯が溢れた。
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