隠され姫のキスは魔道士たちを惑わせる

じゅん

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四章 それぞれの決意

それぞれの決意 2

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「じゃあ、再会のキスをしとくか」
「それは嫌っ。あと、私は好きなんて言ってないし、マゾでもないから」
「いつもの調子が戻ってきたじゃねえか」
 ヘッドドレスの上からザックに優しく頭をなでられた。
(条件反射で反発しちゃったわ。いちいち聞かないで、黙ってキスしてくれたらよかったのに)
 そう思ったアレクサンドラは、自分の考えに赤面した。
(私ったら、なんてことを)
 アレクサンドラは片手で熱くなった頬を包んだ。
「アレクサンドラ、ドレス似合ってる」
 そうザックに言われて、自分が着飾っていたことを思い出した。
 ザックに会えたことが嬉しくて、服装まで目に入っていなかった。改めてザックを見ると、いつもの胸のはだけたシャツではなく、きっちりと締めた襟にはクラヴァットが巻かれ、金糸がほどよく入った、上品な白いダブレットを着ていた。
「ザックも」
 初めて会ったときから容姿には文句のつけようがないと思っていたが、こうして改めて見ると、天才的な彫刻家があらゆる技巧を注いで生み出した貴公子のようだった。
 アレクサンドラは頬を染め、うっとりと眺める。
「さあお姫様、お手をどうぞ」
 ザックはアレクサンドラに手を差し出した。その大きな手の上に、白い手を重ねる。
「そろそろ会場に行くとするか。今日はパーティーを楽しもうぜ。舞踏会はお前にとって、最初で最後になるかもしれねえからな」
「どういうこと?」
「そのうち分る」
 ザックはニヤリと笑ってウインクした。
 二人が会場に到着すると、大歓声で迎えられた。アレクサンドラにとって良かったのは、二メートルルールが行き渡っており、距離を置いて挨拶されることだ。見知らぬ紳士淑女に接触されずにすんで、精神的に楽だった。
 会場内は魔力で無数の光の粒子が飛来していて、幻想的で美しかった。階段状の台にバイオリンやホルン、フルートなどの楽器だけが並べられ、フルオーケストラが自動演奏されている。壁際に盛られた料理の数々は量が減ると自動的に料理が補充され、ワインなどの飲み物が置かれた無人のワゴンが会場をゆっくりと周回し、こちらもグラスが取られると新しいグラスが出現した。
「綺麗で便利。全部マナの力なのね」
「百年ほど前までは、少なくても上流階級の生活は、どの国もこれが当たり前だった」
 会場を歩いていると、アレクサンドラはざわめく貴婦人たちの集団を見つけた。なんだろうと視線を追うと、見知った顔を見つけた。
「オスカーさん、フランシスさん」
 二人は見慣れた黒いジュストコールではなく、金色のリーフが付いた白い礼服を着ていた。全身黒の制服とはまた印象が変わり、瀟洒で華やかだ。こちらもよく似合っている。
「ご婚約、おめでとうございます」
 二人が礼をした。
「ザックさんが皇族だと聞いて驚きましたよ。隊長も知っていたなら教えてくれたらよかったのに」
「口止めされていたからな」
 オスカーはザックが皇子だと聞いていたようだ。おそらく初日、ザックがオスカーを宿屋の外に連れ出した時に伝えたんだろうとアレクサンドラは思った。
「二人とも、すごく注目されてるね」
 近くに来ると、オスカーやフランシスが淑女たちから熱烈な視線を浴びているのがよく分かった。因みにフランシスは男性からの視線も集めている。
「要人の護衛をする親衛隊はともかく、我々魔道連隊が夜会に出席することは稀ですから」
 生真面目にオスカーが答えた。
(そういう意味じゃないと思うけど)
「ご歓談中、失礼いたします。みなさま、ご多忙の中お集まりいただき……」
 大臣による開会の言葉が始まった。国王も会場に到着している。立食パーティーではあるが、アレクサンドラたちには高砂席が用意されていた。
 アレクサンドラが帰国する知らせを受けてから、早々にこのパーティーは準備されていたらしく、近隣諸国から王侯貴族たちが集まっていた。ザックと隣り合って席に着き、延々と祝辞を聞いているうちに、アレクサンドラは驚くことがあった。
「ザックがお婿さんに来るの?」
 結婚とは女性が嫁入りするものだとばかり思っていた。考えてみれば、婚約披露パーティーを帝国ではなく、魔法王国で行うことから察してしかるべきだった。
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