【完結】討伐される魔王に転生したので世界平和を目指したら、勇者に溺愛されました

じゅん

文字の大きさ
上 下
47 / 57
三章 愛しい人との別れ

愛しい人との別れ 18

しおりを挟む
「待て、アーシェン」
 ヴィンセントが追いかけてくる。
「ヴィンセントはまだ国王たちと話があるでしょ、戻って」
 ぼくは小声で話しかける。するとヴィンセントは歯ぎしりせんばかりの苛立った表情を隠しもせずにぼくの手首を掴むと、率先して出口に向かった。
「ちょっと、ヴィンセント、あっちは……」
「それどころじゃねえだろ」
 ヴィンセントはしばらく無言で回廊を渡り、ドアを開けてぼくを押し込んだ。そこは使われていない客室のようで、家具が一式揃ったこぢんまりとした部屋だった。
「さっきのはなんだよ」
 ヴィンセントはぼくの手首を握ったまま、ぼくを壁に押し付けた。
 ……すごく、怒ってる。
「そのままの意味だけど」
「アーシェンはオレと会えなくてもいいのか」
 ヴィンセントと会えなくなる。
 そう、だよね。
 改めて、国王と大変な約束をしてしまったことを実感する。
 さっきはヴィンセントが罰せられてしまうんじゃないかと心配で、とにかく嫌疑を晴らすことで頭がいっぱいだったんだ。
 それに、あの国王に信用してもらえなかったら、どちらにしても、ぼくたちは会わせてもらえなかったはずだ。
「永遠に会えないわけじゃない。ぼくとヴィンセントが揃っていても問題ないと、みんなに認めてもらえるようになればいい」
「それはいつの話だよ。あのタヌキたちが納得すると思うのか?」
 ヴィンセントはぼくを強く抱きしめた。
「アーシェンもオレと同じ気持ちなのかと思ってた。離れたくない。愛してるんだ」
 ヴィンセントが、ぼくを、愛してる……?
 理解するのに時間がかかった。
 カチリと脳内の電子信号が噛み合うと、そこから身体の反応は早かった。一気に体温が上昇して、信じられないほど鼓動が高鳴る。
 嬉しい……!
 ぼくはヴィンセントの背中に回している腕に力を込めた。
 胸の中のモヤモヤが消えて行った。
 そうだ。ぼくは、ヴィンセントのことを愛しているんだ。
 はっきりと自覚した。むしろ、いままで気づけなかったことが不思議なくらいだ。
 だけど。
 今は、だめだ。
 ぼくはそっとヴィンセントの胸に両手をついて、首を横に振った。
「アーシェンは、違うのか?」
 ヴィンセントが不安げな表情でぼくの顔を覗き込んでくる。
 ぼくもだよ。
 そう答えたいけれど。
 口に出してしまえば、ぼくはこの優しい手を離したくなくなってしまう。
 ヴィンセントも、なんとしてでもぼくといようとしてくれるだろう。
 でも、それじゃあダメだ。
 ぼくたちのことをきっかけに、争いが起きてしまうかもしれない。
 作りたかった世界とは、正反対の結果だ。
 誰も幸せになれない。
 ぼくはきつく口を結んで、ただ首を横に振った。
 口を開けば、「好きだよ」って言ってしまいそうだから。
「オレの肩書が邪魔をしているのか」
 ヴィンセントは自分の襟元を掴んで、胸をはだけさせた。ボタンがはじけ飛ぶ。
 あらわになった左胸には、紋章が浮かんでいる。
「だったら、こんなもの、いらない」
 ヴィンセントは剣を抜き、胸を刺そうとする。
「やめて!」
 ぼくは紋章を庇うようにヴィンセントに抱きついた。
「ヴィンセントにしかできないことがあるでしょ。自棄にならないで。こんなことしてたら、それこそあの貴族たちの思う壺だよ!」
「アーシェン……」
 ヴィンセントは力なく剣を壁に立てかけた。
 ぼくはそのままヴィンセントの身体に腕を回して、逞しい首筋に鼻先をこすりつける。
 新緑のような、土っぽいような、海の香りもするような。ヴィンセントからは、そんな大自然の匂いがする。
 ああ、ずっとこうしていたいな……。
 ヴィンセントの大きな手が、ぼくの頭部をなでている。
 顔をあげると、ヴィンセントもぼくを見つめていた。
 精悍な顔は、痛みに耐えるように少しだけ歪んでいる。
 大好きなヴィンセント。
「しばらく、さよならだね」
「すぐに迎えに行くから」
 ぼくは頷いた。
 名残惜しくて、少しだけヴィンセントを見つめてから、魔族領の自分の部屋に瞬間移動をした。
 ソファに腰かけて、腕を抱き、顔をうずめた。
 そこには、まだヴィンセントのぬくもりがあった。
「ぼくもヴィンセントに、愛してるって言いたかったな……」
 それが心残りだった。
 一人で口にしただけでも、胸がトクンと鳴った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...