42 / 57
三章 愛しい人との別れ
愛しい人との別れ 13
しおりを挟む
「うん、淋しかった」
ぼくが素直に頷くと、ヴィンセントは内側から湧き上がるような笑みを浮かべた。
「そうか。じゃあ、もっと近くにいてやる」
ヴィンセントがすぐ傍に来てぼくの腰に手を回し、抱きしめてきた。
「ここまで近くなくていいんだけど……」
離れようと胸のところで手を突っぱねても、逞しいヴィンセントの身体はびくともしなかった。
「オレも、アーシェンに会いたくてたまらなかった」
息混じりの声が耳朶をくすぐり、ぼくは抵抗をやめた。
そっか。ヴィンセントもぼくに会いたいと思ってくれていたんだ。
胸の内側が温かくなった気がした。そして体温の高いヴィンセントに包まれていると、物理的にも温かくなる。
でもこれでは熱すぎて、逆に寝苦しいかも。
「アーシェン」
顔をあげるとさっきよりも熱っぽいブルーの瞳があった。
「ヴィンセント」
この目、知ってる。
あの夜の……。
「あれから、一人でした?」
丁度その夜のことを思い出していたので、ぼくの心臓は大きく跳ねた。
「ぼくには……、龍神族には発情期はないと言ったじゃないか」
こんなにくっついている時に、その話を蒸し返さないでほしい。
いろいろされてしまったあれやこれ、それに自分の痴態を思い出し、ぼくは湯気が出そうなほど全身が熱くなった。
「恥ずかしがることじゃないだろ。人なんて、しょっちゅう発情するじゃないか」
「以前のぼくも、そういうことはなかったから、わからないよ」
「そうか? オレはしたくなる。好きな人といると」
「……好きな人」
ヴィンセントの好きな人って、誰だろう。
浮かんできたのは、猫型の獣人であるクロムだ。それから、最近はレザードともヴィンセントは仲がよかった。
「やだ」
そんな話、聞きたくない。ぼくは悲しくなってうつむいた。
ついさっきまで胸がホカホカしていたのに。どうしてしまったんだろう、ぼくは。
「悪い、アーシェンになにかするつもりはない。浮かれて先走りすぎた」
なだめるようにヴィンセントはぼくの黒髪をなでて、元の位置まで戻った。
さっきは近すぎると思ったのに、今度はそれも悲しく感じる。
ぼくは本当にどうしたんだろう。情緒不安定だ。アルコールのせいかな。
「アーシェン、手をつないでいてもいいか?」
ぼくは頷いて、ヴィンセントに手を伸ばした。その手がヴィンセントの大きな手に握られる。
ヴィンセントがこの部屋に初めて来た日も、こうして手を握って眠った。あの日、ヴィンセントは生い立ちとか、いろんな話をしてくれて、すごく距離が縮まったんだ。
もっと、ヴィンセントと仲良くなりたい。
……やっぱり、さっきみたいにギュッとされたいな。
そう思ったけど、口にするのは恥ずかしかった。
だからもう一方の手でもヴィンセントの手を握った。
温かくて、大きくて、筋張っていて、剣ダコのある、逞しい手。
この手、好きだな……。
そう思いながら、ぼくは眠りに落ちた。
ぼくが素直に頷くと、ヴィンセントは内側から湧き上がるような笑みを浮かべた。
「そうか。じゃあ、もっと近くにいてやる」
ヴィンセントがすぐ傍に来てぼくの腰に手を回し、抱きしめてきた。
「ここまで近くなくていいんだけど……」
離れようと胸のところで手を突っぱねても、逞しいヴィンセントの身体はびくともしなかった。
「オレも、アーシェンに会いたくてたまらなかった」
息混じりの声が耳朶をくすぐり、ぼくは抵抗をやめた。
そっか。ヴィンセントもぼくに会いたいと思ってくれていたんだ。
胸の内側が温かくなった気がした。そして体温の高いヴィンセントに包まれていると、物理的にも温かくなる。
でもこれでは熱すぎて、逆に寝苦しいかも。
「アーシェン」
顔をあげるとさっきよりも熱っぽいブルーの瞳があった。
「ヴィンセント」
この目、知ってる。
あの夜の……。
「あれから、一人でした?」
丁度その夜のことを思い出していたので、ぼくの心臓は大きく跳ねた。
「ぼくには……、龍神族には発情期はないと言ったじゃないか」
こんなにくっついている時に、その話を蒸し返さないでほしい。
いろいろされてしまったあれやこれ、それに自分の痴態を思い出し、ぼくは湯気が出そうなほど全身が熱くなった。
「恥ずかしがることじゃないだろ。人なんて、しょっちゅう発情するじゃないか」
「以前のぼくも、そういうことはなかったから、わからないよ」
「そうか? オレはしたくなる。好きな人といると」
「……好きな人」
ヴィンセントの好きな人って、誰だろう。
浮かんできたのは、猫型の獣人であるクロムだ。それから、最近はレザードともヴィンセントは仲がよかった。
「やだ」
そんな話、聞きたくない。ぼくは悲しくなってうつむいた。
ついさっきまで胸がホカホカしていたのに。どうしてしまったんだろう、ぼくは。
「悪い、アーシェンになにかするつもりはない。浮かれて先走りすぎた」
なだめるようにヴィンセントはぼくの黒髪をなでて、元の位置まで戻った。
さっきは近すぎると思ったのに、今度はそれも悲しく感じる。
ぼくは本当にどうしたんだろう。情緒不安定だ。アルコールのせいかな。
「アーシェン、手をつないでいてもいいか?」
ぼくは頷いて、ヴィンセントに手を伸ばした。その手がヴィンセントの大きな手に握られる。
ヴィンセントがこの部屋に初めて来た日も、こうして手を握って眠った。あの日、ヴィンセントは生い立ちとか、いろんな話をしてくれて、すごく距離が縮まったんだ。
もっと、ヴィンセントと仲良くなりたい。
……やっぱり、さっきみたいにギュッとされたいな。
そう思ったけど、口にするのは恥ずかしかった。
だからもう一方の手でもヴィンセントの手を握った。
温かくて、大きくて、筋張っていて、剣ダコのある、逞しい手。
この手、好きだな……。
そう思いながら、ぼくは眠りに落ちた。
15
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる