【完結】討伐される魔王に転生したので世界平和を目指したら、勇者に溺愛されました

じゅん

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三章 愛しい人との別れ

愛しい人との別れ 8

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 ぼくとヴィンセントは、孤児院の柵の前で対面する。こうして会うのは何年も前のようにも、ほんの数分前のようにも感じた。
 本当に不思議だ。どうしてヴィンセントの近くにいるだけで、こんなにフワフワした気持ちになるんだろう。
「いや、ただ、ヴィンセントに会いたくなったんだ。迷惑だったかな」
 ぼくが素直に打ち明けると、ヴィンセントが瞠目した。それが満面の笑みに変わる。
「いや、嬉しいよ」
「ヴィンセント、このキレーな魔族、誰? やけに魔力が高くて怖いんだけど」
 ヴィンセントの背中にしがみつきながら、隠れるようにしてクロムが顔を半分だけ出してぼくを見上げる。クロムは人間領で生活していたから、ぼくのことを知らないんだ。
「話しただろ、アーシェンだ。この特区の足がかりを作った魔王だよ。この前、広場にもいただろうが」
「まっ、魔王!?」
 ヒュッと息をのんで、クロムは完全にヴィンセントに隠れた。
「なんでここに来るの? 怖いよぉ」
 クロムはヴィンセントにしがみつきながら、耳と尻尾を下げてブルブルと震えた。
 ぼくたちの様子に反応してか、孤児院の子供たちもこちらを見て不安そうな顔をしている。
「すまない」
 ぼくはここに来るべきではなかったのか。
 この街は魔族と人間、どちらにも理解がある人たちが住んでいるのかと思っていた。
 でも、そうとは限らなかった。
 迫害されていたからこそ、どちらかを、いや、どちらをも憎んでいるのかもしれない。
 それに、魔王は魔力が高いすぎるゆえに、魔族の中でも忌み嫌われることが多かった。恐れられるのは当然なのだ。
 ぼくが踵を返すと、「待て」とヴィンセントに手首を握られた。久しぶりにヴィンセントに触れられて、ドキリとしてしまう。
「クロム、なぜアーシェンを怖がるんだ」
 ヴィンセントがクロムに尋ねる。
「だって、魔王だよ? 人間のヴィンセントにはわからないかもしれないけど、近くにいると消し炭にされそうなほど強い魔力が迫ってくるし」
「そうか。で、クロムはアーシェンになにかされたのか?」
「なにかって……、別に、なにもされてないけど」
 クロムはヴィンセントを見上げて、とまどった表情になる。
「それは『魔族の血が混じっていて、なんか怖そう』と、子供時代におまえがされていたことと、どこが違うんだ」
「えっ?」
 驚いたように、クロムは大きな目を見開いた。
「あれ? オイラ、オイラがされて嫌だったことと、同じことしてるの?」
「違うと思うのか?」
 クロムは手をふっくらした頬に当てて考えている。かなりの時間考えてから、ヴィンセントの前に出て、ぼくにペコリと頭を下げた。
「ごめんなさい!」
 顔をあげたクロムは涙目だった。ブルブルと震えている。
「オイラ、偏見? とかそういうのイヤなのに。でも、こんなに近いと、やっぱり怖い……っ」
「無理をしなくていい」
 ぼくは鷹揚に応えた。
 クロムは魔力が高いので、ぼくの甚大な魔力に影響を受けるのだろう。下位の魔族たちがぼくに近づかないのも同じ理由なので、それは仕方がないことだ。むしろ、魔力がまったくない人間のほうがぼくを怖がらない。四天王クラスになると、相手の魔力なんて関係ないみたいだけど。
「アーシェン、子供たちと遊んでいかないか?」
「怖がるだろう」
 魔力がある子は、クロムと同じ反応をするはずだ。
「子供たちに無理強いさせるつもりはないが、この街にいるなら、アーシェンほどではないにしろ、魔力の高い者と付き合う必要がある。早い段階で慣れさせたほうがいい」
 ヴィンセントの言うことはもっともだ。
「わたしでよければ、貢献しよう」
「それじゃあ、ここの扉を開けるね」
「必要ない」
 ぼくはクロムの申し出を断って、孤児院の敷地内に瞬間移動する。クロムは黄色がかった大きな瞳が落ちそうなほど目を見開いた。
「彼に戸締りは意味ないね」
「そうなんだ」
 ヴィンセントは就寝中ぼくに侵入されたことを思い出したのか、苦笑いを浮かべた。
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