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三章 愛しい人との別れ
愛しい人との別れ 5
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「だったら……」
クロムの瞳から大粒の涙が流れた。
「だったらなんで、オイラたちを捨てたんだよっ」
「捨ててないって何度も説明しただろ。オレだって、ムリヤリ城に連れて行かれたんだ」
「孤児院に戻ってきても、またすぐに城に行っちまったじゃん!」
「クロムたちにあんな態度されたら、居場所がないって思うだろ。言いたいことがあるなら、こんなにこじらす前に言えよ」
「たくさんあるに決まってるだろ! あのあと、オイラたちがどんなに大変だったか……!」
「わかった、全部聞くから」
嗚咽するほど泣き始めたクロムをヴィンセントは抱きしめた。
「アーシェン、オレはクロムをあやしてくる。また後でな」
「あやすってなんだ! 子供扱いするなよ。オイラはヴィンセントより年上なんだぞ!」
「はいはい、わかってるから」
ヴィンセントは片手でクロムを抱き寄せて、頭をクシャクシャとなでている。
「あっ」
とっさに「その手はぼくの……」と思ってしまい、ぼくは首を左右に振った。
なにを考えているんだ。
――元の鞘に収まっただけじゃないか。
クロムはヴィンセントと同じ孤児院で育った。
二人は気が合い、親友とも呼べる仲になった。
だけど、ある日、ヴィンセントは城に行って帰ってこなくなった。
ずいぶんと時間が経ってから孤児院に戻ってきたヴィンセントは、身なりがよくなり、言葉遣いや物腰が変わっていた。
クロムが嫌う、上流階級のそれだった。
以前のヴィンセントはいなくなった。
だからクロムは言ったのだ。
「裏切者」
……と。
ヴィンセントが好きだからこそ、変わってしまったヴィンセントにクロムは傷ついた。
そしてヴィンセントも、親友に裏切り者と言われて傷つき、孤児院を去った。
クロムは、今度こそ戻ってこなくなったヴィンセントを恨むことで、迫害されるつらい日々から目を背けた。
本来のゲームストーリーでも、クロムはヴィンセントに戦いを挑む。そして、その腕を買われて魔王討伐パーティに加わるのだ。
そう。クロムはメインキャラの一人だから、ぼくは彼を知っていたんだ。
「本来、ヴィンセントの隣にいるのは、常にクロムだった」
ぼくがこの世界で筋書きを変え、ヴィンセントが魔王を討伐しなくても、こうして二人は再び出会って親友になるんだな。
ぼくが記憶を取り戻した当初に危惧していた「ゲームの強制力」のようなものは、やっぱりあるのかもしれない。
ならば、ぼくが暴走して、勇者に討たれる運命も変えられないのだろうか?
ぼくは噴水の縁に腰を下ろして、額を押さえた。
わからない。
だけど、諦めたらそこでおしまいだ。ぼくは最善を尽くすだけだ。
それに、今のところ順調すぎるほど順調のように思える。こうして特区ができ、ここで魔族と人がともに暮らせることが証明できれば、争いのない平和な世の中を築けるはずだ。
そうしたら、ぼくは死ぬことを恐れずに、この健康な身体で自由に暮らせばいい。
「自由に、暮らす」
もし平和な世の中になったら、ぼくはなにがしたいのだろうか。
そのときに、ぼくの傍にいるのは誰なのだろう。
少なくてもヴィンセントではないはずだ。
彼は特別な血筋で、国王に直接交渉できるような地位にいる。つまりは人の国の要人だ。いつまでも魔族領で魔王と共にあることを国はよしとしないだろう。
「ヴィンセント、いなくなっちゃうのか」
当たり前のことだ。ぼくは今更、なにを言っているのだろう。
クロムの瞳から大粒の涙が流れた。
「だったらなんで、オイラたちを捨てたんだよっ」
「捨ててないって何度も説明しただろ。オレだって、ムリヤリ城に連れて行かれたんだ」
「孤児院に戻ってきても、またすぐに城に行っちまったじゃん!」
「クロムたちにあんな態度されたら、居場所がないって思うだろ。言いたいことがあるなら、こんなにこじらす前に言えよ」
「たくさんあるに決まってるだろ! あのあと、オイラたちがどんなに大変だったか……!」
「わかった、全部聞くから」
嗚咽するほど泣き始めたクロムをヴィンセントは抱きしめた。
「アーシェン、オレはクロムをあやしてくる。また後でな」
「あやすってなんだ! 子供扱いするなよ。オイラはヴィンセントより年上なんだぞ!」
「はいはい、わかってるから」
ヴィンセントは片手でクロムを抱き寄せて、頭をクシャクシャとなでている。
「あっ」
とっさに「その手はぼくの……」と思ってしまい、ぼくは首を左右に振った。
なにを考えているんだ。
――元の鞘に収まっただけじゃないか。
クロムはヴィンセントと同じ孤児院で育った。
二人は気が合い、親友とも呼べる仲になった。
だけど、ある日、ヴィンセントは城に行って帰ってこなくなった。
ずいぶんと時間が経ってから孤児院に戻ってきたヴィンセントは、身なりがよくなり、言葉遣いや物腰が変わっていた。
クロムが嫌う、上流階級のそれだった。
以前のヴィンセントはいなくなった。
だからクロムは言ったのだ。
「裏切者」
……と。
ヴィンセントが好きだからこそ、変わってしまったヴィンセントにクロムは傷ついた。
そしてヴィンセントも、親友に裏切り者と言われて傷つき、孤児院を去った。
クロムは、今度こそ戻ってこなくなったヴィンセントを恨むことで、迫害されるつらい日々から目を背けた。
本来のゲームストーリーでも、クロムはヴィンセントに戦いを挑む。そして、その腕を買われて魔王討伐パーティに加わるのだ。
そう。クロムはメインキャラの一人だから、ぼくは彼を知っていたんだ。
「本来、ヴィンセントの隣にいるのは、常にクロムだった」
ぼくがこの世界で筋書きを変え、ヴィンセントが魔王を討伐しなくても、こうして二人は再び出会って親友になるんだな。
ぼくが記憶を取り戻した当初に危惧していた「ゲームの強制力」のようなものは、やっぱりあるのかもしれない。
ならば、ぼくが暴走して、勇者に討たれる運命も変えられないのだろうか?
ぼくは噴水の縁に腰を下ろして、額を押さえた。
わからない。
だけど、諦めたらそこでおしまいだ。ぼくは最善を尽くすだけだ。
それに、今のところ順調すぎるほど順調のように思える。こうして特区ができ、ここで魔族と人がともに暮らせることが証明できれば、争いのない平和な世の中を築けるはずだ。
そうしたら、ぼくは死ぬことを恐れずに、この健康な身体で自由に暮らせばいい。
「自由に、暮らす」
もし平和な世の中になったら、ぼくはなにがしたいのだろうか。
そのときに、ぼくの傍にいるのは誰なのだろう。
少なくてもヴィンセントではないはずだ。
彼は特別な血筋で、国王に直接交渉できるような地位にいる。つまりは人の国の要人だ。いつまでも魔族領で魔王と共にあることを国はよしとしないだろう。
「ヴィンセント、いなくなっちゃうのか」
当たり前のことだ。ぼくは今更、なにを言っているのだろう。
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