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三章 愛しい人との別れ
愛しい人との別れ 2
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「最大の問題?」
ぼくは首をひねる。特に問題など思いつかない。
レザードは白い手袋をはめた手で、指を一本立てた。
「その特区に移住する者がいるかどうか、です」
「そうだよねえ。近くに弱っちいのばっかり住んでたら、俺、エサと間違えちゃうかも」
エルネストが両手で頬杖をつきながら、にこやかに言う。
うん。彼は絶対に移住してはいけない。
「特区で魔族と人の間に大きなトラブルが起きたら、魔族と人が手を取り合うなんて話は、永遠に消失するだろう」
ぼくの言葉に、ヴィンセントが首肯する。
「だから、初めの人選は大切だ。人と魔族の共存を望む者から希望者を募るつもりだが、集まりは悪いだろう。お互いに、人は魔族を、魔族は人のことを知らなすぎるからだ。そこで」
ヴィンセントはいったん区切って、レザードを見た。
「どちらのことも知っている者、つまりは、どちらの血も継いでいる者に、主に移住してもらおうと考えている。もちろん強制ではない。あくまでも希望者だ」
レザードは細い眉を寄せる。ヴィンセントはその表情を確認しつつも、話を続けた。
「気を悪くしないでほしいし周知の事実だろうが、人と魔族の間に生まれると、孤児になったり、肩身の狭い思いをしたりする率が高い。迫害されがちなのは、マイノリティだからだ。しかし、彼らが特区に集まれば、そこでは多数派になる」
レザードはハッとしたように、メガネの奥のアッシュブルーの瞳をヴィンセントに向けた。長い睫毛の影が瞳に落ちる。
「彼らはたいがい、暮らしに困窮していますよ」
「わかっている。まずは特区を成功させることが、政策として優先だ。しばらくはこちらで生活を支援する。特に孤児院はしっかりサポートしたいし、学校も作りたい。病院も、公共的なものはすべて揃える」
「手厚いですね。そちらの国王は太っ腹なようだ」
レザードの皮肉気な口調に、いつものキレがない。
「なんとか陛下を説得できたのは、魔族が先に手を打ってくれたからだ。最近、魔族が人を襲うことはなくなった。だから、こちらも歩み寄ることができた。平和な世界への可能性があるのなら、それを進めるのが王の役目だろう」
ヴィンセントの力強い言葉を聞いて、レザードは顔を伏せて、組んだ手の上に額をのせた。
「魔族領の改革は、僕はゲームのような感覚でやっていました。期待なんて持たないようにしていたのに……。本当に、僕のような出自の者が、それを隠さず生きて行けるようになるのでしょうか」
「なる。それをしようと、わたしたちは動いてきたんだ」
ぼくは向いの席から手を伸ばし、レザードの手を握った。そして提案する。
「レザード、その特区に住んでもらえないか。代表として」
「僕が、ですか?」
レザードは瞠目した。ぼくは頷く。
移住者を選定したとしても、はじめは問題や混乱が起きるだろう。そんなときに、レザードが相談役になってくれたら安心だ。頭が切れるし口が立つ。
そしてなにより、移住する者たちと同じ生まれなのだ。これ以上の適任者はいないと思える。
「あなたは最近、僕を働かせすぎです」
レザードは苦笑した。
「僕は高いですよ」
「問題ない。報酬は人の王もちだ」
ぼくが応えると、ヴィンセントは苦い表情になった。
「やっぱり、見積もりは必要だな。……あ、それはそうと、レザードに別件で相談がある」
「僕に?」
ヴィンセントがレザードを促して部屋を出ようとする。ぼくもついて行こうとすると「アーシェンは来なくていい」と断られてしまった。
なんの相談なのだろう?
ぼくは首をひねる。特に問題など思いつかない。
レザードは白い手袋をはめた手で、指を一本立てた。
「その特区に移住する者がいるかどうか、です」
「そうだよねえ。近くに弱っちいのばっかり住んでたら、俺、エサと間違えちゃうかも」
エルネストが両手で頬杖をつきながら、にこやかに言う。
うん。彼は絶対に移住してはいけない。
「特区で魔族と人の間に大きなトラブルが起きたら、魔族と人が手を取り合うなんて話は、永遠に消失するだろう」
ぼくの言葉に、ヴィンセントが首肯する。
「だから、初めの人選は大切だ。人と魔族の共存を望む者から希望者を募るつもりだが、集まりは悪いだろう。お互いに、人は魔族を、魔族は人のことを知らなすぎるからだ。そこで」
ヴィンセントはいったん区切って、レザードを見た。
「どちらのことも知っている者、つまりは、どちらの血も継いでいる者に、主に移住してもらおうと考えている。もちろん強制ではない。あくまでも希望者だ」
レザードは細い眉を寄せる。ヴィンセントはその表情を確認しつつも、話を続けた。
「気を悪くしないでほしいし周知の事実だろうが、人と魔族の間に生まれると、孤児になったり、肩身の狭い思いをしたりする率が高い。迫害されがちなのは、マイノリティだからだ。しかし、彼らが特区に集まれば、そこでは多数派になる」
レザードはハッとしたように、メガネの奥のアッシュブルーの瞳をヴィンセントに向けた。長い睫毛の影が瞳に落ちる。
「彼らはたいがい、暮らしに困窮していますよ」
「わかっている。まずは特区を成功させることが、政策として優先だ。しばらくはこちらで生活を支援する。特に孤児院はしっかりサポートしたいし、学校も作りたい。病院も、公共的なものはすべて揃える」
「手厚いですね。そちらの国王は太っ腹なようだ」
レザードの皮肉気な口調に、いつものキレがない。
「なんとか陛下を説得できたのは、魔族が先に手を打ってくれたからだ。最近、魔族が人を襲うことはなくなった。だから、こちらも歩み寄ることができた。平和な世界への可能性があるのなら、それを進めるのが王の役目だろう」
ヴィンセントの力強い言葉を聞いて、レザードは顔を伏せて、組んだ手の上に額をのせた。
「魔族領の改革は、僕はゲームのような感覚でやっていました。期待なんて持たないようにしていたのに……。本当に、僕のような出自の者が、それを隠さず生きて行けるようになるのでしょうか」
「なる。それをしようと、わたしたちは動いてきたんだ」
ぼくは向いの席から手を伸ばし、レザードの手を握った。そして提案する。
「レザード、その特区に住んでもらえないか。代表として」
「僕が、ですか?」
レザードは瞠目した。ぼくは頷く。
移住者を選定したとしても、はじめは問題や混乱が起きるだろう。そんなときに、レザードが相談役になってくれたら安心だ。頭が切れるし口が立つ。
そしてなにより、移住する者たちと同じ生まれなのだ。これ以上の適任者はいないと思える。
「あなたは最近、僕を働かせすぎです」
レザードは苦笑した。
「僕は高いですよ」
「問題ない。報酬は人の王もちだ」
ぼくが応えると、ヴィンセントは苦い表情になった。
「やっぱり、見積もりは必要だな。……あ、それはそうと、レザードに別件で相談がある」
「僕に?」
ヴィンセントがレザードを促して部屋を出ようとする。ぼくもついて行こうとすると「アーシェンは来なくていい」と断られてしまった。
なんの相談なのだろう?
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