【完結】討伐される魔王に転生したので世界平和を目指したら、勇者に溺愛されました

じゅん

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三章 愛しい人との別れ

愛しい人との別れ 1

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「特別自治区?」
 ぼくの部屋に集まったレザードとエルネストが、ヴィンセントの言葉をくりかえした。
 ヴィンセントはニッと笑って、部屋の中央に置かれたソファに座るぼくたちを見回す。
「人と魔族が手を取り合う世界がゴールだとして、一足飛びにそこに行くことは難しい。人にも、魔族にも、反対派がいるはずだからだ」
 それは同意なので、誰も異議をとなえない。ヴィンセントが続ける。
「そこで提案なんだが、魔族領と人間領の境に、どちらの種族でも住める特別自治区を作らないか? いわば、お試しができる地域というわけだ。ここで人と魔族が共存できることが証明できれば、反対派を封じることができるし、このエリアを拡大させるなりして、最終的には垣根のない世界が作れるはずだ」
 おおっ。
 ぼくは内心で感嘆した。
 ヴィンセントの提案は、素晴らしいものに思えた。
 このところヴィンセントは日中、人間領に戻っていた。何をしているのかと尋ねると「魔族がこんなに頑張っているのだから、オレもやらねえと」と言うだけで、具体的な内容は教えてもらえなかった。この自治区の根回しに奔走していたようだ。
 頑なに「夕食はアーシェンと食べる」と主張するので、夜はヴィンセントの部屋に迎えに行き、毎晩ぼくのベッドで一緒に寝ているのだけど。
 あの日……、薬品をかぶってぼくが高ぶってしまった、その翌日は同じベッドで眠ることを躊躇したけれど、ヴィンセントはいつもとおりだったので、また安心して一緒に眠ることができた。
 あれはやっぱり、緊急事態に対応してくれたんだなあ。
 あの夜のことをヴィンセントから話題に出すことはないし、ぼくもなかったことにしようと思っている。恥ずかしすぎるから。
 ただ、素でいいと言ってくれたので、二人でいる時は「魔王らしく」せずに自然体で接するようになっていた。
「自治区を作るには、いろいろとハードルがありますねえ」
 レザードがメガネの位置を直しながらヴィンセントを流し見た。
「なにもないところに集落を作るわけですね。資金はどうします? 建設に時間もかかるでしょう」
「そこはレザードに頼みたい」
 ヴィンセントはテーブルの上で手を組んだ。
「資金はこちらで用意する。オレが直接、陛下に交渉した。魔族と争いがなくなり治安がよくなることは、万金に値するとおっしゃっていた。自治区の建物もこちらで作りたかったが、魔族のスピード感を知ってしまえば、人の建築はまるで亀のような遅さだ。金は人間、技術は魔族でどうだろうか? お互いのための自治区だしな」
「なるほど、考えていらっしゃいますね。あとで面倒なことになると困りますから、こちらから見積もりなども用意いたしましょう。しかし、もう一つ、最大の問題があります」
「最大の問題?」
 ぼくは首をひねる。特に問題など思いつかない。
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