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一章 信頼できるパートナー
信頼できるパートナー 10
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しばらくすると、壁の一角が赤く光った。
同じく、ヴィンセントの胸元も光を放つ。
「これは……」
ヴィンセントは鎖骨の下まであいている襟元をさらに指先で下げた。胸に模様が浮かび上がっている。
「それが、勇者の紋章」
ぼくがつぶやく。
ヴィンセントの紋章と岩肌の紋章が呼応したように明滅し、大地が揺れたかと思うと、耳を塞ぎたくなる轟音とともに一部の岩が消滅した。
――石窟の入り口だ。
ぼくたちは顔を見合わせた。
「行こう」
ヴィンセントが先を歩く。
洞窟内はひんやりとしている。暦年の勇者の念が込められた場所だからだろうか、能力に干渉されるほどではないけれど、なんだか居心地が悪かった。
天井は高くて幅も広いものの、岩でできた足場は悪く歩きにくい。
「あっ」
ぼくは転びそうになって声を漏らしてしまった。先を歩いていたヴィンセントは立ち止まって振り返る。
「手を貸そうか?」
あ、またニヤニヤ笑いになっている。
「結構だ」
ぼくはムッとして、カツカツと靴音を鳴らしてヴィンセントを追い抜いた。
ヒールの高いこのブーツが洞窟探索に適していないのだ。魔王は基本的に玉座にふんぞり返っているもので、こんな場所に来るものでは……。
「わっ」
光る岩を踏んだかと思ったら、足場が崩れた。
落ちる! と思ったのと同時に、腰に腕が巻き付いた。
ぼくは後ろからヴィンセントに支えられていた。目の前にはポッカリと穴がある。
そういえばこの石窟、罠があるんだっけ。
「ありがとう」
礼を言って首だけで振り返ると、それ見たことか、と言わんばかりのヴィンセントの顔が近くにあった。
「魔王さまは案外、華奢なんだな」
ぎゅっと抱きしめられて、ぼくの顔がボッと熱くなる。
だから、どうしてすぐからかうんだ!
「は、離せっ」
ぼくは筋肉で引き締まっている腕を振り払った。
そりゃあ鍛えているヴィンセントと比べたら、この身体は華奢だろうけど。とても健康だし頑丈だし、ぼくは素晴らしいと思う!
乱暴に歩くとまた躓きそうになって、はっと気づいた。
ぼく、飛べるんだ。
「初めからこうしていればよかった」
ぼくは地面から拳二つほど身体を浮かせて、ヴィンセントの隣りに並んだ。
「転ぶのが怖いなら、オレが運んでやってもよかったのに」
「誰が怖いものか。こうしたほうが安全で確実で楽なだけだ」
浮かぶだけなら、それほど魔力も消費しない。
ヴィンセントはニヤニヤ笑いを引っ込めて、感心したように同じ高さにあるぼくの顔を見た。
「浮くことができて、明かりを出せて、極めつけには瞬間移動までできる。オレの知ってる魔導士は、ちょっと魔法を使うだけで魔力が切れるとヒーヒー言ってるのに」
「我ら龍神族は魔力が高い種族なのだ。膂力のある種族、賢い種族、泳ぎに長けた種族。種族によって特徴が違うだけで、どこかが特別優れているわけでもあるまい」
魔族は相手をねじ伏せられるかで階級が決まるため、ぼくが魔王になってしまうけれど。
「ふうん」
ヴィンセントはブルーの目を細めた。ちょっと嬉しそうな表情にも見える。
「それにわたしの魔力だって、無尽蔵にあるわけではない」
特に瞬間移動は魔力を消耗する。魔王城からブルーシア城は距離があったので、かなり削られた。一日に何往復もできるものではなさそうだ。
同じく、ヴィンセントの胸元も光を放つ。
「これは……」
ヴィンセントは鎖骨の下まであいている襟元をさらに指先で下げた。胸に模様が浮かび上がっている。
「それが、勇者の紋章」
ぼくがつぶやく。
ヴィンセントの紋章と岩肌の紋章が呼応したように明滅し、大地が揺れたかと思うと、耳を塞ぎたくなる轟音とともに一部の岩が消滅した。
――石窟の入り口だ。
ぼくたちは顔を見合わせた。
「行こう」
ヴィンセントが先を歩く。
洞窟内はひんやりとしている。暦年の勇者の念が込められた場所だからだろうか、能力に干渉されるほどではないけれど、なんだか居心地が悪かった。
天井は高くて幅も広いものの、岩でできた足場は悪く歩きにくい。
「あっ」
ぼくは転びそうになって声を漏らしてしまった。先を歩いていたヴィンセントは立ち止まって振り返る。
「手を貸そうか?」
あ、またニヤニヤ笑いになっている。
「結構だ」
ぼくはムッとして、カツカツと靴音を鳴らしてヴィンセントを追い抜いた。
ヒールの高いこのブーツが洞窟探索に適していないのだ。魔王は基本的に玉座にふんぞり返っているもので、こんな場所に来るものでは……。
「わっ」
光る岩を踏んだかと思ったら、足場が崩れた。
落ちる! と思ったのと同時に、腰に腕が巻き付いた。
ぼくは後ろからヴィンセントに支えられていた。目の前にはポッカリと穴がある。
そういえばこの石窟、罠があるんだっけ。
「ありがとう」
礼を言って首だけで振り返ると、それ見たことか、と言わんばかりのヴィンセントの顔が近くにあった。
「魔王さまは案外、華奢なんだな」
ぎゅっと抱きしめられて、ぼくの顔がボッと熱くなる。
だから、どうしてすぐからかうんだ!
「は、離せっ」
ぼくは筋肉で引き締まっている腕を振り払った。
そりゃあ鍛えているヴィンセントと比べたら、この身体は華奢だろうけど。とても健康だし頑丈だし、ぼくは素晴らしいと思う!
乱暴に歩くとまた躓きそうになって、はっと気づいた。
ぼく、飛べるんだ。
「初めからこうしていればよかった」
ぼくは地面から拳二つほど身体を浮かせて、ヴィンセントの隣りに並んだ。
「転ぶのが怖いなら、オレが運んでやってもよかったのに」
「誰が怖いものか。こうしたほうが安全で確実で楽なだけだ」
浮かぶだけなら、それほど魔力も消費しない。
ヴィンセントはニヤニヤ笑いを引っ込めて、感心したように同じ高さにあるぼくの顔を見た。
「浮くことができて、明かりを出せて、極めつけには瞬間移動までできる。オレの知ってる魔導士は、ちょっと魔法を使うだけで魔力が切れるとヒーヒー言ってるのに」
「我ら龍神族は魔力が高い種族なのだ。膂力のある種族、賢い種族、泳ぎに長けた種族。種族によって特徴が違うだけで、どこかが特別優れているわけでもあるまい」
魔族は相手をねじ伏せられるかで階級が決まるため、ぼくが魔王になってしまうけれど。
「ふうん」
ヴィンセントはブルーの目を細めた。ちょっと嬉しそうな表情にも見える。
「それにわたしの魔力だって、無尽蔵にあるわけではない」
特に瞬間移動は魔力を消耗する。魔王城からブルーシア城は距離があったので、かなり削られた。一日に何往復もできるものではなさそうだ。
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