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序章 前世の記憶
前世の記憶
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深い森の奥にそびえる魔王城。
空は晴れ渡っているものの、魔力の高い魔族たちが集結しているため、溢れる魔力が、可視化した黒い瘴気のごとく城にまとわりついているようにも見える。
「近頃の人の狼藉は目にあまる」
「貧弱な人間風情が、調子に乗りおって」
「我らとの格差をわからせてやらねばなるまい」
城の一室で、魔族の幹部たちがテーブルを囲んでいる。強靭な肉体を誇る獣人、実態を持たない精霊。窓からは部屋に入れない巨人の目が覗いている。
その何人かは、苛立ちをあらわにしていた。
魔族と人の小競り合いは今に始まったことではないが、近年は激しさが増しているようだ。
「アーシェン、行かせてあげたら? 村の一つや二つ焼き払えば、みんなのイライラもおさまるし、人だって怯んで襲ってこなくなるよ」
隣に座るエルネストが頬杖をつきながら、にこやかに話しかけてくる。
彼は魔族の四天王の一人で、わたしの執事でもあるが、楽しければなんでもいいという快楽主義者なので、その発言はまったく参考にならない。
「魔王、ご決断を」
「魔王様」
幹部たちの視線がわたしに集中する。小さく吐息して、わたしは額に指をあてた。
実は、頭が痛くて、会議の内容は半分も記憶に残っていなかった。
この数日、激しい頭痛が続いている。こんなことは数百年生きていて初めてのことだ。今日は特にひどい。
わたしが人を襲わないように通達していたのは、大きな争いになるのが面倒だったからだ。慈愛の精神からではない。戦いになれば圧倒的に魔族が有利なはずだ。
――もう、考えるのも面倒だ。
わたしは静かに立ち上がった。長い黒髪がマントと共に揺れる。
「好きにするがいい」
そう言うつもりだった、のだが。
「……っ!」
脳に稲妻が直撃して火花が散るような感覚に、わたしは頭を押さえながら膝をついた。
「なにしてんのアーシェン。最近、具合悪そうじゃない? 弱ったりしないでよ、つまんないから」
背の高いエルネストに腕を取られ、軽々と引き上げられる。
「え、ちょっと。本当にどうかした?」
わたしの顔を覗き込んできたエルネストは、珍しく慌てたような表情になった。それくらい、わたしは真っ青になっていたのかもしれない。
なんだ、これは。
脳内で、必死に状況を整理する。
……まさか、そんな。いや、しかし、そう考えるしか……。
「大丈夫だ」
そう返事をするのに、どれくらい時間がかかったのだろう。ずいぶんと間があいたかもしれないし、一瞬だったかもしれない。
改めて会議に集まったメンバーを見回して、思わず「ひえっ」と声が出てしまいそうになった。みんな恐ろしい形相をしている。魔族だから当たり前か。
「人の件は、もうしばらく様子をみるように。ぼ……、わたしがなんとかしよう」
ぼくはなんとかそう言って、幹部たちの反応を待たずに、瞬間移動で自室に戻った。
学校の教室以上に広くて、豪奢な装飾品で飾られた部屋に到着したぼくは、四人はゆったりと眠れそうな天蓋付きのベッドにボスンとダイブした。
そして、枕をギュッと抱きしめて顔を押し付け、叫ぶ。
「マジかぁーーーーーー!」
ぼくは前世の記憶を取り戻した。
ここは、ぼくがプレイしたことのあるRPGゲームの世界のようだ。そして今のぼくは、ラスボスである魔王になっている。
つまり。
「勇者に討たれて死んじゃうんですけど!!」
絶体絶命のピンチだった。
今から勇者に勝てるように準備をすればいい? でも、もしかしたらゲームの強制力が働いて負けてしまうかもしれない。そんなリスクがあることに、大切な自分の命を賭けられない。
死にたくないなら、勇者との戦いを避けるのが一番だ。
そのためには……。
ぼくは上半身を起こした。
「世界が平和になればいいんだ!」
魔王に転生したぼくは、世界平和を目指す決意をした!
空は晴れ渡っているものの、魔力の高い魔族たちが集結しているため、溢れる魔力が、可視化した黒い瘴気のごとく城にまとわりついているようにも見える。
「近頃の人の狼藉は目にあまる」
「貧弱な人間風情が、調子に乗りおって」
「我らとの格差をわからせてやらねばなるまい」
城の一室で、魔族の幹部たちがテーブルを囲んでいる。強靭な肉体を誇る獣人、実態を持たない精霊。窓からは部屋に入れない巨人の目が覗いている。
その何人かは、苛立ちをあらわにしていた。
魔族と人の小競り合いは今に始まったことではないが、近年は激しさが増しているようだ。
「アーシェン、行かせてあげたら? 村の一つや二つ焼き払えば、みんなのイライラもおさまるし、人だって怯んで襲ってこなくなるよ」
隣に座るエルネストが頬杖をつきながら、にこやかに話しかけてくる。
彼は魔族の四天王の一人で、わたしの執事でもあるが、楽しければなんでもいいという快楽主義者なので、その発言はまったく参考にならない。
「魔王、ご決断を」
「魔王様」
幹部たちの視線がわたしに集中する。小さく吐息して、わたしは額に指をあてた。
実は、頭が痛くて、会議の内容は半分も記憶に残っていなかった。
この数日、激しい頭痛が続いている。こんなことは数百年生きていて初めてのことだ。今日は特にひどい。
わたしが人を襲わないように通達していたのは、大きな争いになるのが面倒だったからだ。慈愛の精神からではない。戦いになれば圧倒的に魔族が有利なはずだ。
――もう、考えるのも面倒だ。
わたしは静かに立ち上がった。長い黒髪がマントと共に揺れる。
「好きにするがいい」
そう言うつもりだった、のだが。
「……っ!」
脳に稲妻が直撃して火花が散るような感覚に、わたしは頭を押さえながら膝をついた。
「なにしてんのアーシェン。最近、具合悪そうじゃない? 弱ったりしないでよ、つまんないから」
背の高いエルネストに腕を取られ、軽々と引き上げられる。
「え、ちょっと。本当にどうかした?」
わたしの顔を覗き込んできたエルネストは、珍しく慌てたような表情になった。それくらい、わたしは真っ青になっていたのかもしれない。
なんだ、これは。
脳内で、必死に状況を整理する。
……まさか、そんな。いや、しかし、そう考えるしか……。
「大丈夫だ」
そう返事をするのに、どれくらい時間がかかったのだろう。ずいぶんと間があいたかもしれないし、一瞬だったかもしれない。
改めて会議に集まったメンバーを見回して、思わず「ひえっ」と声が出てしまいそうになった。みんな恐ろしい形相をしている。魔族だから当たり前か。
「人の件は、もうしばらく様子をみるように。ぼ……、わたしがなんとかしよう」
ぼくはなんとかそう言って、幹部たちの反応を待たずに、瞬間移動で自室に戻った。
学校の教室以上に広くて、豪奢な装飾品で飾られた部屋に到着したぼくは、四人はゆったりと眠れそうな天蓋付きのベッドにボスンとダイブした。
そして、枕をギュッと抱きしめて顔を押し付け、叫ぶ。
「マジかぁーーーーーー!」
ぼくは前世の記憶を取り戻した。
ここは、ぼくがプレイしたことのあるRPGゲームの世界のようだ。そして今のぼくは、ラスボスである魔王になっている。
つまり。
「勇者に討たれて死んじゃうんですけど!!」
絶体絶命のピンチだった。
今から勇者に勝てるように準備をすればいい? でも、もしかしたらゲームの強制力が働いて負けてしまうかもしれない。そんなリスクがあることに、大切な自分の命を賭けられない。
死にたくないなら、勇者との戦いを避けるのが一番だ。
そのためには……。
ぼくは上半身を起こした。
「世界が平和になればいいんだ!」
魔王に転生したぼくは、世界平和を目指す決意をした!
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