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はちに

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おかしい
おかしいわ

カイル様は私のことを好きで、選んでくれたはずだというのに
あの日から様子がおかしい
名前を呼んでも反応が鈍く、気づいてくれないときが多くなり
私に向けて微笑んでくれていたあの目を見せてくれない

「そんなはず、ないですわ。」

まさか、断罪出来なかったことがここでおかしくなっているというの?
話の中では、カイル様ルートはずっと一途に相手のことを優しく愛してくれていた
断罪は出来なかったけど、シャルトはもうここにはいないし
私のカイル様はシャルトの事が昔から嫌いだし

「(ん、あれ…?)」

昔から、シャルトの事が、嫌い…?

私は何かが変だということに気づきそうだったが
その事を深く考えるまでは出来なかった

「あれ? ユリアちゃん! なにしてんの?」

久しぶりな声が私の名前を呼んだ
その声が聞けたことに嬉しくなり、私は考えることをやめて振り向いた

「!! グラウ!」
「ん、久しぶり 噂には聞いてたけど、本当にお姫さんになったんだね」

へらっと笑っているその顔に何度癒されたことかわからない

この国で一番若く、天才だと言われている魔術師グラウ
魔術師というとお堅くて、愛想がないと思われがちだが
このゲームの魔術師は人が好きで、お喋りで、頼りたくなるお兄さんタイプなのだ

グラウのルートはいくつかあるのだが、魔力が強くないといけないという条件がある上に、独占欲がつよく、場合によっては監禁というエンドがある。
ってとこがなければ選んでたかもしれない

「ええ。私たちは愛し合っているもの」
「そうだよねー。 二人はとってもお似合いだったもの」
「グラウ様。 ソルティーユ様にそのような言葉はどうかと」
「それも、そうだね。もう、お姫さんだもんね。」

ずっと、グラウの後ろに立っていたことは気づいていたが
本人が喋らなかったし、私はあんまし関わってこなかったし、興味がなかったので気がつかなかったことにしていた男が喋る

「別にグラウの話し方は出会った頃からこうだったから、私は気にしてないわ。」
「ソルティーユ様、ご本人がよろしかったとしても、カイル様がどのように思うか。」
「まあまあ、イーシュは固すぎだよ。 今後はそうするから、今日だけは多めに見て欲しいな」
「はぁ。」

相変わらず、頭の固い男だわ…

彼もこのゲームの攻略者候補の一人である、イーシュ・ナトクス
この国の第一騎士団に勤めている若き騎士。

私からしたら、イーシュはパス。
タイプじゃないもの。
騎士って所は確かに惹かれるけど、堅物でゴリマッチョ系…むさいわね。
側にいてほしくないわ
私の好きなタイプは細マッチョでイケメンでとっても優しい人。

「ユリアちゃん、カイルは?」
「えっと…」

私はそう聞かれて何て答えようか困った
カイルの様子がおかしいことを伝えるべきか、それとも気分転換で一人で散歩してたと言うべきか

「…カイル様、何か考え事があるみたいで…。私が邪魔したら悪いかなぁーって 今一人で庭を散歩してたところなの。」
「……」
「へぇ、カイルがねぇ」

イーシュは何も言わず、じっとこちらを見ている

何か言いたいのなら言えばいいのに。
というか、こっちずっと見ないで欲しいんだけど。

もしかしたら、私がイーシュと関わっていて、仲良くしていたのであれば気づいたかもしれない表情の変化に気づくことなく
イーシュがこちらを見ていることにイライラしていた。

「なら、ユリアちゃんがよかったら久々にお話でもしない?」
「え!」

予想していなかった言葉に私は喜ぶ

「はい! もちろん!」
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