最終確認役として選ばれたらしい

灯月

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はじまり

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これで何回目だろうか
最終段階だと言うのに進まないプロジェクト

初めは皆がなんとしてでも終わらせようと手を貸してくれていたが
今では二人だけとなってしまった

確かに自身のためではない誰かの為に作られた世界に喜んでいく者などそうはいないだろう
その者がどんな世界を求めているのかわからないのに、急にいかされても困るというものだ

皆が皆、実験台にはなりたくないのだ

例え、違う世界で新たに生を受けることになろうとも自身のためではないところだと聞かされたら嫌だと人は思うだろう

まず、その為に命をおとした訳ではないのだから当たり前のことなのだが

「……これで、何回目だい?」
「…それは、断られた数の事ですかな?それともここに来た者の頼み事の数ですかな?」

皆が自身の行きたい場所に行きたいと願う
皆が自身に有利になるような特別な力が欲しいと願う

人よりも何千年と生きた僕にはその気持ちがわからない
特別な力とはなんなのか
行きたい場所に行けてどうするのか
まず、それはなんなのかさえわからない

「…どっちもー」
「……ワシが担当をするようになってからじゃと、9061人と4653人かのぅ」
「はぁー。 そっかぁ」

彼は僕よりも若くて新しくこの仕事を任されていた
まあ、要するに皆が嫌がって抜けてしまったため彼がこの役をやることになってしまったのだが

「ワシはまだいいですが、あなた様はいつからこのプロジェクトに参加を…?」
「んー、彼女と会ってこの世界に行きたいって話を聞いた頃から」
「!!?? そんな前からですか!!」

彼は「まだワシが生まれる前じゃないか」とブツブツと独り言を始めてしまった

僕からしたらあっという間だったから別にどうだってよいことだったりする
ここには時間という概念もなければ日にちや年と言うものはない
ここに来る人数で大体これくらいの年数がたったんだろうなぁくらいにしか思っていない

というわけで、もしかしたら何千年という日々をしっかりと過ごしたのかはわかっていないのだ

「僕はここの仕事から移動することが出来ないから仕方ないかな」

味のわからない飲み物を飲む
別に飲む必要などないし、人のように味を感じたいとも思わない
ただ、やってみているだけ

もしかしたら、この世界の手助けになるかもなんて思いながら飲む

「……君はこの世界をどう思う?」
「どう、とは?」
「彼女のためのとか、世界がとか、何故必要なのかとか。」
「ワシは特には…、ただ早く終わって欲しいと願うだけですな」

普通はそうなのかもしれない
僕たちにとっては、誰かの為の世界を作ることが当たり前だと思っているから

「……どうか、この世界の事を大切にしてくれる子が選ばれるように」

僕は小声でそう呟いた

きっと、彼女は気に入るだろう
この世界を
でも、それは彼女が望んだ通りに全てが上手くいくようになっているから
つまり、彼女の為の
彼女だけの
彼女が中心となる世界なのだ

「…世界が可哀想だ」
「? 何か言いましたかな?」
「んーん。 なんでもないよ」

本当はこのまま誰も実験台にならないで終わってほしい
彼女にはこの世界を諦めてほしい
この世界のためにも
我が子のためにも
友のためにも

「………終わらないかな。」


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