最終確認役として選ばれたらしい

灯月

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はじまり

01

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「急にで申し訳ないのだが…、君は別の世界に行ってもらうことになった。」

俺の目の前にいるらしい人の形をした何かがそう言った
後ろから強い光があたり、それの顔も姿もわかりづらい

「え?」
「君は君自身が亡くなったことに気づいていないかもしれないが、もう先ほどの世界にはいられない」
「……俺、亡くなったんですか?」

手足を確認するがどちらもちゃんとあり
幽霊というわけではなさそうだ
というか、まず俺はいつの間に亡くなったんだ?
記憶にない。
普通に生活して、普通に生きていた
何不自由もなく、何かに恵まれていたわけでもないが普通に過ごしていた
ドラマやアニメとかでよくいる顔の覚えられない通行人の一人のように平凡に

「あぁ。 死因は教えてほしいかい?」
「……いいえ。 その事に怯えたくないし、知らなくていいので」

知ってしまったら、その事を気にかけてしまうだろう
そして、その事に恐がって生きることになる
確かに、知っていた方がスッキリするだろうし予防をすることができるかもしれないけど
俺には恐怖をもってなにも出来なくなる方が怖い

「そう? …珍しいねぇ。 まあ、いいか」

先ほどは老人のような声だったが今度は中性的な声

「さて、話を戻そう。君は別の世界に行くことになった 君が選ばれたのは別に理由はない。 たまたま、君が選ばれた」
「はぁ、」

異世界転生ものは今流行っているが
まさか、俺が異世界に行くことになるなんて思ってもなかった

「その世界で普通に生活をしていただきたい。」
「…何かを倒すとかではなく?」
「んーと、言い方が悪いかもだけど、君がお試し役ってやつ!」
「こら、ワシが喋っているのだから邪魔をするな」
「えー、いいじゃん。 こういった方が分かりやすいよ」

人の形をした影がもう1つ増えて
こちらに近づいてきた

少年のような少女のようなかわいい見た目
髪は見たこともないような白から黄色へのグラデーション
瞳の色は何色とも言えない見たことのない色

「こんにちは、僕が君をその世界へ連れていく役目を持っているものだよ。 君たちからしたら神様みたいな存在。」
「へ?」

可愛らしく笑って見せてくるが
目は笑っていない
口角だけが上がっている

「で、あそこで偉そーに喋ってきてるのが、君の前の世界と別の世界を繋げる架け橋みたいな仕事をしていて…」
「勝手に色々と話すのではない!」
「ちゃんと教えとかないと、いけないのにさぁ 大体の神様?はぶいちゃうんだよね」

ぷうっと頬っぺたを膨らませている

「そんな簡易な説明で、異世界に行ってほしいって言われても困るのが普通なのに 最近の子達は異世界って聞くだけで喜んじゃってさぁー」
「流行ってますからね…」
「うんうん。 そうらしいね! たまにね、異世界に行きたいからって自分から終わらしてきちゃう子もいるし」

どうやら、もう一人の神様?の方の話を聞く気がないようで
俺にいろんな話をしてくれた

好きな、好みな異世界に行きたいとかこういう異世界はないのかと聞いてくる者、
チートにして欲しいって頼んでくる者やこういう能力が欲しいって者

神様?たちは毎回そのお願いを出来るだけ叶える為に、取り組みをしているらしい
たまに、叶えてあげられないこともあるらしいけど…

で、その取り組みってやつがお試し世界を作って
別の誰かに一度、その世界でその設定で楽しんでもらうというものらしい

異世界に飛ばしたはいいが、その子が望む設定にしたとて、たまに予想だにしないエラーが起こったり
設定が上手くいっておらずイベントが起こらなかったりとバグが発生してしまうとのことだ
それを出さないために、何度かお試しをしているらしく
俺はその最終確認として選ばれたらしい

「…つまり、俺はその世界に行って普通に過ごして そちらが用意したイベントがちゃんと発生するかの確認がしたいってことですか…」
「うん。 デバッカーをして欲しいんだ。 あ!大丈夫だよ。君からしたらその世界は住みやすい世界だと思うし」

話を聞いている際に出されたお茶を飲む
せっかく緑茶なのだから、湯飲みの方が良かったのだが、ティーカップで出されていた
美味しいのに少し残念だ

ちなみに、もう一人の神様?は一緒の席に座ってずっとお茶を飲んでいる

こちらは、人のかたちに布を巻き付けて服変わりにしており、それがいつもだというかのようにいる
わかりやすくいうと全身黒タイツに布が巻かれていると言う感じか
まぁ、顔も黒くて目や鼻はないようだが…

「何よりも、君が一度は… って思ってたことが起こる世界だから」

俺はカップを口につけたまま止まった

「…俺が?」
「うん。」

見透かされている気がしてなんとなく居心地が悪い

確かに一度はって思ったことが俺にはある。
というか、普通に過ごしている人は皆が思ったことはあるだろう。
一度でいいから叶って欲しい事

まぁ、俺が叶って欲しいって思ってたことは
ちょっと特殊な願い事なんだけど…さ

「……」
「大丈夫! 前の世界での君を確認させてもらったけど、問題なさそうだったし」
「…、俺ってどうなっちゃいますか?」

試しとしてやらされるのはちょっと複雑な気分だが断ることも出来るとのこと
断った場合は今の聞いた話の事はきれいさっぱり忘れて来世へとなるだけらしい

「君は君のままだよ。 大丈夫! その子ようには設定されてるけど、ちゃんと君としていくことになるから まぁ、少し変なところがあるかもだけど…」
「……そうですか、」
「はい。 これが君の為のアイテム」

緑色のカバーのついたスマホを渡された

「…お試しってことになってるけどね、期間はないよ 君が居たいだけ居てくれていい。 こちらから急に君を追い出したりもしない。 …関与が出来ないんだ。」
「出来ない…?」
「もしも、君にピンチが訪れたとしてもこちらではなにもできない。
助けが欲しいと思われていてもなにもしてあげられないんだ。
あ、辛くないようには先に設定しておくから大丈夫だよ!」

異世界に行ったら俺自身で何とかするしかなくなるという事か

「…僕も彼もその世界の神様じゃないからね。
ごめんね 
だから、せめてもってことでそのアイテムに力を込めといたよ」
「…いいんですか? そんなことしてもらって…」
「勿論! むしろ、この役をやってくれてありがとう。」

詳しくは聞いてないからわからないが
きっと、このお試し役係をやるという人物はなかなか居ないのだろう

「…じゃあ、楽しんで! ―――――、扉を開けてくれる?」
「ふぅ、ようやくか…。では、すまないがよろしく頼んだぞ」

人のかたちの神様が先ほどの位置に行くとまた後ろの方が眩しくなった

「さて、行こうか 途中までになっちゃうけど ちゃーんと送るからね!」
「…お願いします。」

手を引かれて光に近づくにつれて、眩しさに耐えられなくなり、目をつぶった


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