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旅行
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寝る前にベッドの中で、瞳があっ、と呟いた。
「そういえば俺、来月の二十三日から五日間、休みになったんですよ。有給消化しないといけなくて。前後の土日合わせたら九連休になるんですけど」
「へえ。何すんの」
瑛は羨ましいなと思いながら、深く考えずに尋ねる。
「せっかくなんで、旅行でもしようかなって」
「……誰と?」
思わず心細い声が漏れてしまった。
暗くてよかった、絶対情けない顔してると思っていると、瞳がベッドサイドの照明を点けた。こいつ……
「えっ、もちろん一人ですよ!」
……『もちろん』なのか? 付き合っていて、一緒に暮らしているのに、休暇に一人で旅行するのは『もちろん』なのだろうか……
「ふ、ふうん……どこに?」
「まだ全然考えてないですけど、離島とか行ってみたいですね!」
「あ、そう……」
急に五日も休暇を取るのは難しいとしても、近場なら一日二日休みを取って途中で合流することくらい、できなくはないのに……。せめて土日だけでも、一緒に過ごすことはできるのに……。
離島の案が出てくる時点で、瞳が瑛と一緒に旅行する気がまるでないことを確信した。
「……近場の温泉とかにしといたら?」
「それも考えたんですけど、九日も風呂浸かってらんねえなって思って」
「ま、まあな……休み全部旅行に充てるつもり?」
「あー……でも、一人なら激安のボロいホテルとかでも全然平気なんで。なんなら野宿でも大丈夫ですよ!」
金銭面の心配をしたわけじゃないのだが。
瑛が問いかけるごとに、瞳の旅行プランが具体化していく。
「……俺、九日間も一人で何しようかな……」
「佐久間さんもゆっくりする時間欲しいですよね!」
瞳が察しの悪いタイプだとは思わないが、なぜ瑛のことになると、こんなに鈍感なのか。
瑛は諦めて寝た。
瑛がそのテーブルに着くと、店内にいる男たちのソワソワと落ち着きのない視線が落胆に変わった。
「遅い」
「五分だけだろ」
店中の視線を集めていた女は、目の前に座った瑛へ、はあーっとため息をついた。
「普通、まず謝るよね」
「悪い」
全然悪いと思っていなさそうな態度に、女が呆れた目を向ける。迫力のある美女の冷たい視線にも瑛は動じず、店員に注文を告げた。
「ていうか、なんで一人なの? お兄ちゃんだけなら会う意味ないじゃん」
瑛は妹の毬子から、気まずそうに視線を逸らした。
「……今、あいついないから」
毬子からは何度か食事に誘われていたが、詮索されるのが面倒でずっと断っていた。今日会うことにしたのは、一人で暇だったからだ。
「えっ、もう愛想尽かされたの?」
「は?」
瑛の機嫌の悪い声に、毬子は、こっわ……と肩をすくめた。
「……出張でいないんだよ」
同棲中の恋人を放ったらかして一人旅を満喫中とは言えなかった。
「でも、晃ちゃんから聞いた時はびっくりしたよぉ。お兄ちゃんが同棲始めて、しかも相手が男の子なんて。写真とかないの?」
「ない」
瑛がそっけなく断っても、毬子は気にすることなくニヤニヤしている。
「実は、晃ちゃんに送ってもらったんだよね」
毬子は自分のスマホを取り出すと、瑛に見せた。
「……何これ」
「え? お兄ちゃんの彼氏でしょ? かっこいいじゃん」
毬子が差し出した画面には、飲食店らしき場所で頬杖をついて、視線だけこちらに向けた瞳が写っていた。
酔っているのか、目を細めた表情がセクシーで、いつも瞳が瑛に見せる顔とは別人のようだった。
「えぇ……何、お兄ちゃんのその顔」
「……いつの写真?」
「なんか、晃ちゃんとたまに二人で遊んでるらしいよ」
弟の晃太朗と瞳を引き合わせたのは瑛だが、二人で会っているなんてどちらからも聞いていない。
「いいじゃん、二人で食事するくらい。仲良いのはいいことでしょ。わたしも誘っちゃおっかな~」
「絶対やめろよ」
あからさまに元気のなくなった瑛を、毬子が困惑した目で見る。
「同棲始めたって聞いた時は、弱みでも握られてるのかと思ったけど、ちゃんと好きなんだね。どうやって知り合ったの?」
その知り合ったきっかけで、まさに弱みを握られているのだが。
説明するのも面倒で無視していると、毬子はわざとらしくため息をついた。
「そんな態度してたら、まじで愛想尽かされるからね。今日遅刻したときのこととかもさあ」
「あれはお前だからだろ。……あいつにはそんなことしないから」
……していないと思う。
「お前こそ、俺が男と付き合ってるの気にしないのか」
「お兄ちゃんの女関係で、わたしがどれだけ友達と揉めたと思ってんの。これで落ち着いてくれるなら言うことないよ。お兄ちゃん、恋愛関係では幸せになりそうにないなって思ってたから、ちょっと安心したし」
どんな人か気になるから会わせて、としつこく繰り返す毬子に、瑛は絶対紹介しないでおこうと思った。
毬子と別れて自分のスマホを取り出した瑛は、通知欄をびっしりと埋める不在着信にぎょっとした。
慌てて折り返しの発信をすると、瞳はワンコールで出た。
「何かあった?」
「すみません、いっぱい電話しちゃって……佐久間さん、いま電話大丈夫なんですか?」
旅行中に事件や事故にでも巻き込まれたのかと心配したが、瞳の声に気になるところはなかった……やたら焦っている気はするが。
「あの俺、明日帰ってもいいですか?」
「俺はいいけど、まだ日程残ってるだろ」
「いや、それは別にいいんで……じゃあ明日、朝一の飛行機で帰りますね!」
慌ただしい電話で詳しいことは何も聞けなかった。
瑛は、突然帰ってくることになった理由を心配しながらも、何かのトラブルが発生した様子がないことにほっとした。
翌日、瑛が会社から帰ると、そわそわした様子の瞳がいた。
「おかえり。急にどうしたんだよ」
瞳は言いづらそうに口ごもりながら、スマホを差し出した。
「あの……これ、佐久間さんですよね」
SNSアプリのタイムラインに、昨日食べたスペイン料理の写真が載っていた。角度からして、毬子が撮影したものだろう。皿の奥に、瑛の腕が写っている。
「晃太朗くんがいいねしたこの写真が流れてきて、あの……この人の他の投稿見たら、チラッと顔が写ってるのがいくつかあって、その……すごく綺麗な人だったんで……」
しどろもどろな瞳の話の内容よりも、瞳と晃太朗がSNSで繋がっていることの方がショックだった。俺は二人のアカウント知らないのに……
「佐久間さんのこと、全然信じてますけど! でも、めちゃくちゃ綺麗な人だから、佐久間さんと並んだら美男美女でお似合いだろうなって思って……う、疑うわけじゃないんですけど……」
「妹だよ」
瞳は、ぽかんとした表情で瑛を見つめた。
「妹の毬子。もう結婚してる」
瞳はみるみる顔を赤くして、床にしゃがみ込んだ。
「まじか……アホやん俺……」
「悪い、誤解させたみたいで……」
頭を抱える瞳のそばに腰を下ろした瑛が気まずそうに呟くと、瞳はようやく顔を上げた。
「いや、俺が早とちりしただけなんで……疑うようなことして、俺こそすみません……」
「旅行、中途半端になっちゃっただろ」
「そのことなんですけど……」
瞳は膝を抱えて、おずおずと口を開いた。
「旅行中ずっと、ここに佐久間さんがいてくれたらいいのにって思って楽しめなかったから……だから、いいんです」
瞳はばつが悪そうに瑛を見つめた。
「佐久間さん、次の土日お休みですよね。よかったらその……日帰りでもいいからどこかに行きませんか?」
瑛は一瞬呆気に取られたものの、自然と微笑みが込み上げてきた。
「うん。一緒に行きたい」
布団の上でぐったりと横たわる瞳は、そばでうちわを扇いで風を送る瑛に目をやると、落ち込んだ表情で大きなため息をついた。
「俺、本当にこんなのばっかりですみません、ご迷惑を……」
週末に旅行することが決まると、瞳は必死になって行き先や行程を考え始めた。
時間がないからと、ほとんど睡眠も取らずに計画を立てる瞳を、瑛は半ば呆れた表情で見た。
「温泉なんて、飯食って風呂入るだけなんだから、そんな考えなくていいって」
「いえ、佐久間さんに楽しんでもらいたいんで!」
その結果、風呂でのぼせて倒れた。
「あの、もう平気なんで……すみません……」
瞳は、うちわを扇ぐ瑛の手を押さえると、また大きなため息をついた。
「明日もあるんだし、とりあえず今日は早く寝たら」
「……はい」
いじけた声で返事をする瞳に、ちょっと同情してしまった。
「俺はまだ眠くないから、膝枕する?」
「……する」
瞳は這うようにして瑛のそばに寄ると、おずおずと頭を乗せた。
「寝心地悪いだろうけど」
「枕は硬めの方が好きです」
温泉で火照った熱が、浴衣越しに伝わってくる。腰に腕を回して、腹に顔を埋めるような姿勢が子どもみたいで、瑛はまだ湿ったままの瞳の髪を撫でた。
「旅行から帰ったばっかりで疲れてたのに、お前に全部手配させて悪かったな」
「いえ、俺がしたくてやったことなんで。それでぶっ倒れてたら意味ないですけど」
「意味なくないよ……嬉しかった」
瞳は腹に顔を埋めたまま、上目遣いに瑛を見た。
「……エッチなことしてもいいですか?」
「うん、して」
浴衣の裾を割り開いて、瞳の手が太腿を撫でる。瑛の陰茎は直接触れられていないのに、ゆっくりと勃ち上がった。瞳はそれを下着から取り出して、そっと口に含んだ。
腰が揺れそうになるが、瞳の頭が乗っているせいで身動きが取れない。ひくひくと跳ねる腰を、瞳が撫でる。
下半身が溶けてしまいそうで、瑛は瞳の髪をぐちゃぐちゃに掴んだ。
瞳の口淫に激しさはなくて、ゆるゆるとしゃぶられているだけなのに、瑛はあっという間に上り詰めてしまいそうになる。
「……すぐイキそう」
「このまましますか?」
瑛は首を振って布団に横になった。
上気した瑛の上に、瞳が覆い被さる。
「佐久間さんの体、あったかいです」
温泉に入ったせいなのか、瞳に触れられたせいなのか、火照った瑛の中に指が入ってくる。
瑛は瞳の首に腕を回して顔を寄せた。
「俺、さっき舐めたばっかりですけど」
「いいよ、キスしたい」
唇を合わせて、舌を絡ませる。くちゅくちゅと唾液が溢れると、中が締まるのが自分でもわかった。
「佐久間さん、もう挿れたい」
瑛は頷くと、ゴムをつけている間も瞳の耳や頬にキスをした。
「布団汚れちゃうから、佐久間さんもつけて」
瞳が瑛のものにゴムを装着する。その刺激だけで被せたばかりのものの中に漏らしそうになった。
瞳は腰を掴んでゆっくりと奥まで挿入しながら、すでに緩んでいた帯をほどく。はだけた浴衣の中に手を差し入れて、胸や腹を優しく撫でた。
奥を突かれて、瑛はなんの前触れもなく射精してしまった。
「え、佐久間さん、もうイッちゃった?」
瞳の驚く声で、顔に血が集まる。
抜こうとする瞳の腰に、脚を絡めて引き留めた。
「このまま続けて」
のぼせたようにくらくらするが、まだ足りなかった。
瞳は久しぶりに触れる瑛の体を確かめるように、ぎゅっと抱きしめて撫でた。
瑛の体を気遣うように遠慮がちだった瞳の動きが、イカせようとする性急なものに変わる。
「……また、すぐイキそう……」
「俺もあんまり持ちそうになくて……」
瑛は、火照った瞳の顔を両手で挟んだ。
「終わったら、風呂連れてって」
「一緒に入ったら、俺またのぼせちゃいますよ」
「いいよ。俺が介抱するから」
瑛は何か忘れている気がしたが、この旅行に比べたら些細なことだと思った。
「そういえば俺、来月の二十三日から五日間、休みになったんですよ。有給消化しないといけなくて。前後の土日合わせたら九連休になるんですけど」
「へえ。何すんの」
瑛は羨ましいなと思いながら、深く考えずに尋ねる。
「せっかくなんで、旅行でもしようかなって」
「……誰と?」
思わず心細い声が漏れてしまった。
暗くてよかった、絶対情けない顔してると思っていると、瞳がベッドサイドの照明を点けた。こいつ……
「えっ、もちろん一人ですよ!」
……『もちろん』なのか? 付き合っていて、一緒に暮らしているのに、休暇に一人で旅行するのは『もちろん』なのだろうか……
「ふ、ふうん……どこに?」
「まだ全然考えてないですけど、離島とか行ってみたいですね!」
「あ、そう……」
急に五日も休暇を取るのは難しいとしても、近場なら一日二日休みを取って途中で合流することくらい、できなくはないのに……。せめて土日だけでも、一緒に過ごすことはできるのに……。
離島の案が出てくる時点で、瞳が瑛と一緒に旅行する気がまるでないことを確信した。
「……近場の温泉とかにしといたら?」
「それも考えたんですけど、九日も風呂浸かってらんねえなって思って」
「ま、まあな……休み全部旅行に充てるつもり?」
「あー……でも、一人なら激安のボロいホテルとかでも全然平気なんで。なんなら野宿でも大丈夫ですよ!」
金銭面の心配をしたわけじゃないのだが。
瑛が問いかけるごとに、瞳の旅行プランが具体化していく。
「……俺、九日間も一人で何しようかな……」
「佐久間さんもゆっくりする時間欲しいですよね!」
瞳が察しの悪いタイプだとは思わないが、なぜ瑛のことになると、こんなに鈍感なのか。
瑛は諦めて寝た。
瑛がそのテーブルに着くと、店内にいる男たちのソワソワと落ち着きのない視線が落胆に変わった。
「遅い」
「五分だけだろ」
店中の視線を集めていた女は、目の前に座った瑛へ、はあーっとため息をついた。
「普通、まず謝るよね」
「悪い」
全然悪いと思っていなさそうな態度に、女が呆れた目を向ける。迫力のある美女の冷たい視線にも瑛は動じず、店員に注文を告げた。
「ていうか、なんで一人なの? お兄ちゃんだけなら会う意味ないじゃん」
瑛は妹の毬子から、気まずそうに視線を逸らした。
「……今、あいついないから」
毬子からは何度か食事に誘われていたが、詮索されるのが面倒でずっと断っていた。今日会うことにしたのは、一人で暇だったからだ。
「えっ、もう愛想尽かされたの?」
「は?」
瑛の機嫌の悪い声に、毬子は、こっわ……と肩をすくめた。
「……出張でいないんだよ」
同棲中の恋人を放ったらかして一人旅を満喫中とは言えなかった。
「でも、晃ちゃんから聞いた時はびっくりしたよぉ。お兄ちゃんが同棲始めて、しかも相手が男の子なんて。写真とかないの?」
「ない」
瑛がそっけなく断っても、毬子は気にすることなくニヤニヤしている。
「実は、晃ちゃんに送ってもらったんだよね」
毬子は自分のスマホを取り出すと、瑛に見せた。
「……何これ」
「え? お兄ちゃんの彼氏でしょ? かっこいいじゃん」
毬子が差し出した画面には、飲食店らしき場所で頬杖をついて、視線だけこちらに向けた瞳が写っていた。
酔っているのか、目を細めた表情がセクシーで、いつも瞳が瑛に見せる顔とは別人のようだった。
「えぇ……何、お兄ちゃんのその顔」
「……いつの写真?」
「なんか、晃ちゃんとたまに二人で遊んでるらしいよ」
弟の晃太朗と瞳を引き合わせたのは瑛だが、二人で会っているなんてどちらからも聞いていない。
「いいじゃん、二人で食事するくらい。仲良いのはいいことでしょ。わたしも誘っちゃおっかな~」
「絶対やめろよ」
あからさまに元気のなくなった瑛を、毬子が困惑した目で見る。
「同棲始めたって聞いた時は、弱みでも握られてるのかと思ったけど、ちゃんと好きなんだね。どうやって知り合ったの?」
その知り合ったきっかけで、まさに弱みを握られているのだが。
説明するのも面倒で無視していると、毬子はわざとらしくため息をついた。
「そんな態度してたら、まじで愛想尽かされるからね。今日遅刻したときのこととかもさあ」
「あれはお前だからだろ。……あいつにはそんなことしないから」
……していないと思う。
「お前こそ、俺が男と付き合ってるの気にしないのか」
「お兄ちゃんの女関係で、わたしがどれだけ友達と揉めたと思ってんの。これで落ち着いてくれるなら言うことないよ。お兄ちゃん、恋愛関係では幸せになりそうにないなって思ってたから、ちょっと安心したし」
どんな人か気になるから会わせて、としつこく繰り返す毬子に、瑛は絶対紹介しないでおこうと思った。
毬子と別れて自分のスマホを取り出した瑛は、通知欄をびっしりと埋める不在着信にぎょっとした。
慌てて折り返しの発信をすると、瞳はワンコールで出た。
「何かあった?」
「すみません、いっぱい電話しちゃって……佐久間さん、いま電話大丈夫なんですか?」
旅行中に事件や事故にでも巻き込まれたのかと心配したが、瞳の声に気になるところはなかった……やたら焦っている気はするが。
「あの俺、明日帰ってもいいですか?」
「俺はいいけど、まだ日程残ってるだろ」
「いや、それは別にいいんで……じゃあ明日、朝一の飛行機で帰りますね!」
慌ただしい電話で詳しいことは何も聞けなかった。
瑛は、突然帰ってくることになった理由を心配しながらも、何かのトラブルが発生した様子がないことにほっとした。
翌日、瑛が会社から帰ると、そわそわした様子の瞳がいた。
「おかえり。急にどうしたんだよ」
瞳は言いづらそうに口ごもりながら、スマホを差し出した。
「あの……これ、佐久間さんですよね」
SNSアプリのタイムラインに、昨日食べたスペイン料理の写真が載っていた。角度からして、毬子が撮影したものだろう。皿の奥に、瑛の腕が写っている。
「晃太朗くんがいいねしたこの写真が流れてきて、あの……この人の他の投稿見たら、チラッと顔が写ってるのがいくつかあって、その……すごく綺麗な人だったんで……」
しどろもどろな瞳の話の内容よりも、瞳と晃太朗がSNSで繋がっていることの方がショックだった。俺は二人のアカウント知らないのに……
「佐久間さんのこと、全然信じてますけど! でも、めちゃくちゃ綺麗な人だから、佐久間さんと並んだら美男美女でお似合いだろうなって思って……う、疑うわけじゃないんですけど……」
「妹だよ」
瞳は、ぽかんとした表情で瑛を見つめた。
「妹の毬子。もう結婚してる」
瞳はみるみる顔を赤くして、床にしゃがみ込んだ。
「まじか……アホやん俺……」
「悪い、誤解させたみたいで……」
頭を抱える瞳のそばに腰を下ろした瑛が気まずそうに呟くと、瞳はようやく顔を上げた。
「いや、俺が早とちりしただけなんで……疑うようなことして、俺こそすみません……」
「旅行、中途半端になっちゃっただろ」
「そのことなんですけど……」
瞳は膝を抱えて、おずおずと口を開いた。
「旅行中ずっと、ここに佐久間さんがいてくれたらいいのにって思って楽しめなかったから……だから、いいんです」
瞳はばつが悪そうに瑛を見つめた。
「佐久間さん、次の土日お休みですよね。よかったらその……日帰りでもいいからどこかに行きませんか?」
瑛は一瞬呆気に取られたものの、自然と微笑みが込み上げてきた。
「うん。一緒に行きたい」
布団の上でぐったりと横たわる瞳は、そばでうちわを扇いで風を送る瑛に目をやると、落ち込んだ表情で大きなため息をついた。
「俺、本当にこんなのばっかりですみません、ご迷惑を……」
週末に旅行することが決まると、瞳は必死になって行き先や行程を考え始めた。
時間がないからと、ほとんど睡眠も取らずに計画を立てる瞳を、瑛は半ば呆れた表情で見た。
「温泉なんて、飯食って風呂入るだけなんだから、そんな考えなくていいって」
「いえ、佐久間さんに楽しんでもらいたいんで!」
その結果、風呂でのぼせて倒れた。
「あの、もう平気なんで……すみません……」
瞳は、うちわを扇ぐ瑛の手を押さえると、また大きなため息をついた。
「明日もあるんだし、とりあえず今日は早く寝たら」
「……はい」
いじけた声で返事をする瞳に、ちょっと同情してしまった。
「俺はまだ眠くないから、膝枕する?」
「……する」
瞳は這うようにして瑛のそばに寄ると、おずおずと頭を乗せた。
「寝心地悪いだろうけど」
「枕は硬めの方が好きです」
温泉で火照った熱が、浴衣越しに伝わってくる。腰に腕を回して、腹に顔を埋めるような姿勢が子どもみたいで、瑛はまだ湿ったままの瞳の髪を撫でた。
「旅行から帰ったばっかりで疲れてたのに、お前に全部手配させて悪かったな」
「いえ、俺がしたくてやったことなんで。それでぶっ倒れてたら意味ないですけど」
「意味なくないよ……嬉しかった」
瞳は腹に顔を埋めたまま、上目遣いに瑛を見た。
「……エッチなことしてもいいですか?」
「うん、して」
浴衣の裾を割り開いて、瞳の手が太腿を撫でる。瑛の陰茎は直接触れられていないのに、ゆっくりと勃ち上がった。瞳はそれを下着から取り出して、そっと口に含んだ。
腰が揺れそうになるが、瞳の頭が乗っているせいで身動きが取れない。ひくひくと跳ねる腰を、瞳が撫でる。
下半身が溶けてしまいそうで、瑛は瞳の髪をぐちゃぐちゃに掴んだ。
瞳の口淫に激しさはなくて、ゆるゆるとしゃぶられているだけなのに、瑛はあっという間に上り詰めてしまいそうになる。
「……すぐイキそう」
「このまましますか?」
瑛は首を振って布団に横になった。
上気した瑛の上に、瞳が覆い被さる。
「佐久間さんの体、あったかいです」
温泉に入ったせいなのか、瞳に触れられたせいなのか、火照った瑛の中に指が入ってくる。
瑛は瞳の首に腕を回して顔を寄せた。
「俺、さっき舐めたばっかりですけど」
「いいよ、キスしたい」
唇を合わせて、舌を絡ませる。くちゅくちゅと唾液が溢れると、中が締まるのが自分でもわかった。
「佐久間さん、もう挿れたい」
瑛は頷くと、ゴムをつけている間も瞳の耳や頬にキスをした。
「布団汚れちゃうから、佐久間さんもつけて」
瞳が瑛のものにゴムを装着する。その刺激だけで被せたばかりのものの中に漏らしそうになった。
瞳は腰を掴んでゆっくりと奥まで挿入しながら、すでに緩んでいた帯をほどく。はだけた浴衣の中に手を差し入れて、胸や腹を優しく撫でた。
奥を突かれて、瑛はなんの前触れもなく射精してしまった。
「え、佐久間さん、もうイッちゃった?」
瞳の驚く声で、顔に血が集まる。
抜こうとする瞳の腰に、脚を絡めて引き留めた。
「このまま続けて」
のぼせたようにくらくらするが、まだ足りなかった。
瞳は久しぶりに触れる瑛の体を確かめるように、ぎゅっと抱きしめて撫でた。
瑛の体を気遣うように遠慮がちだった瞳の動きが、イカせようとする性急なものに変わる。
「……また、すぐイキそう……」
「俺もあんまり持ちそうになくて……」
瑛は、火照った瞳の顔を両手で挟んだ。
「終わったら、風呂連れてって」
「一緒に入ったら、俺またのぼせちゃいますよ」
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