ガチ恋リアコ厄介古参の不感症クリニック

冲令子

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泥酔

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 瑛に抱き締められた瞳は、動揺で固まってしまった。

「ただいまぁ」

 帰ってきた瞬間、瑛は瞳の頭を両手でがっちりと掴んで、エグいキスをした。
 セックスの最中でも、瑛からこんなベロチューをされることはない──瑛が素面であれば。
 瞳はキスされた感激と猛烈な酒臭さに混乱しながら、じっと直立してされるままになっている。
 瑛は舌で瞳の口の中を散々舐めたくった後、全体重を預けてきた。お、重……え、佐久間さん、こんなデブだった……?
 よろけながら、なんとかベッドまで運んで寝かせる。

「あー、だる……」

 自分で一歩も歩いてないじゃないですか、とも言えず、キッチンから水を持って来る。
 グラスを渡すと、据わった目でジロッと睨まれた。

「普通、口移しだろ」

 どこの普通だよ。
 常識改変洗脳でもされているのでは? と不安を覚えながら、渋々水を含んで瑛の口に流し込む。酒くさ……。
 瑛とキスをして、こんなにときめかないのは初めてだった。
 瞳はベッドに乗り上げて、大の字に寝る瑛のジャケットを脱がせる。

「なんでこんなに呑んじゃったんですか」
「あぁ? 呑んでねえよ」

 典型的な酔っぱらいだった。
 ほどほどに呑んだ姿しか知らなかったから、瑛が酔うとこんなふうになるなんて知らなかった。
 いや、前に酔ってホテルに行った時、めちゃくちゃスケベだったな……もしかして、今ならどんなエロいことでもやってくれるのでは……?
 その可能性に、瞳の心臓が早鐘を打ち始める。
 瑛にどエロいことができるかもしれないという期待と、べろべろに泥酔して、何も覚えていない瑛を騙すような罪悪感の間で、瞳は悶絶した。
 いや、だめだ……
 鋼の意志で欲望に打ち勝つと、今度は不安が込み上げてくる。同じようなこと考えるやつ、絶対いるよな……

「あの……大丈夫ですか? 酔っ払って変なこととかされてないですよね」
「変なことってなんだよ」
「いや、酔わせてエッチなことしようとする人とかいるかもしれないじゃないですか(俺とか)」

 瑛はよろめきながら体を起こすと、ベッドの上に座り込む瞳の背中に抱きついた。

「心配してくれるんだ」
「そりゃしますよ!」

 思わず、実感のこもった声が出た。

「今日だって連絡してくれれば、迎えに行ったのに」
「優し~」

 瑛は後ろから瞳を包み込むと、首に腕を回した。強烈な酒臭さに混じって、嗅ぎ慣れた甘い香りが漂う。
 瑛が顔を寄せて、瞳の首筋に鼻先を埋めた。
 なんだこれ……めちゃくちゃくっついてくるぞ。お酒の力凄いな!

「佐久間さ……」

 どきどきしながら瑛の手を握ろうとした瞳は、ゲッと声を上げて目を剥いた。
 首に巻きついた瑛の腕が、瞳の首を絞めあげる。意識が遠のく感覚に、慌てて瑛の腕をタップした。
 ゲラゲラ笑いながら腕を緩めた瑛を、ぜいぜいと肩で息をしながら呆然と見る。し、死ぬ……

「それくらいで死ぬわけないだろ」
「いや、マジでやばいですから!」

 そういえば、瑛は柔道経験者だった。
 あと数秒絞められていたら、絶対に失神している。

「まあ本気でやったら死ぬかもな。俺、地下闘技場に出たことあるから」
「ええ!? そうなんですか!?」
「んなわけねえだろ。なに信じてんだよ」

 め、めんどくさ……

「佐久間さんの言うことなら、全部信じますよ」

 瞳がふてくされたように言うと、瑛はパチンと大きく瞬きした。あどけなく見える表情に、思わず胸がきゅっとときめく。
 どちらからともなく顔を寄せると、唇が重なった。
 まだ酒臭かったが、いつもと同じような控えめなキスに安心する。
 ベッドに横たわって抱き締めながらふと、さっきの絞め技を思い出した。

「佐久間さん、俺が誰だかわかってますか? 酔いつぶして襲ってるわけじゃないですからね」

 酔いで意識が朦朧とした瑛が、痴漢と勘違いして絞め殺す不安に若干怯えながら言うと、瑛は呆れたように笑った。

「瞳だろ。わかんないわけないじゃん」

 瑛はそう言うと、笑みを消して瞳の顔をじっと見つめた。

「いつまで『さん』付けしてんの」

 瞳はギクッと体を揺らすと、ぎこちなく瑛から目を逸らした。

「いや、あの……俺なんかが佐久間さんのことを名前で呼ぶのはおこがましいので……」
「前に呼んだことあっただろ」

 マッチングごっこの時のことを思い出して、カーッと顔に血が上る。

「いや、あれはそういうプレイっていうか……」

 ジーッと見つめられる重圧に耐えきれず、おずおずと口を開く。

「あ……、あ、き……あ……」

 勘弁してほしいと瞳は涙目で瑛を見るが、瑛はじっと黙ったままだ。言うまで絶対に許さないという断固とした意思を感じるが、瞳は、うわーッと叫んで手の平に顔を埋めた。
 冷や汗をかいてぐったりとベッドに突っ伏した瞳の下着の中に、瑛がもぞもぞと手を突っ込む。

「……もしかして、やるつもりですか」

 戸惑う瞳を、瑛がムッとした目で見る。

「やんないの?」
「いやだって、佐久間さんべろべろじゃないですか」
「『佐久間さん』?」
「…………」

 瞳は仕方なく、瑛の上に覆い被さる。

「やってる最中に、ゲロとか吐かないですか?」
「わかんない。お前のでかいから」

 瞳は真っ赤になって、もー……と呟くと、唇を合わせながら瑛のシャツのボタンを外した。





 自分のものが大きいかどうかはともかく、吐くかもしれないと言われると、激しくするのは気が引ける。瞳は労るように、瑛の中の浅いところを指でゆっくりとなぞった。中はいつもより熱いが、酒のせいか、前は萎えたままだ。
 瑛は腰をうねらせて、瞳を見た。 

「瞳、もう……」

 瞳は、ベッドサイドに置いたままのグラスから水を口に含むと、掠れた声を漏らす瑛の唇に、自分のそれを合わせる。瑛が水とともに、瞳の舌を迎え入れた。
 舌を絡め合うと、水なのか唾液なのかわからない液体が溢れ出る。瞳が瑛の腰を抱きかかえてゆっくりと陰茎をその中に沈めると、瑛は頭を反らし、ぴくぴくと体を震わせた。
 
「大丈夫ですか?」

 瑛の様子を窺うと、期待するような目がこちらを見る。

「大丈夫だから……もっと……」

 ゆっくりと奥まで挿入すると、緩く開いた瑛の口から微かな喘ぎが漏れる。熱くて絡みついてくる中の感触に、腰が痺れた。
 瑛はトロンとした表情をしているが、相変わらず陰茎は萎えたままだ。

「佐久……気持ちよくないですか?」

 酔って盛り上がったものの、実際にヤルと感覚が鈍っていまいち……ということはよくある。瑛がもうその気じゃないのなら、続けるつもりはなかった。

「……気持ちよくない」

 まあ、あれだけ酔っ払ってたらそうなる。
 拗ねたような表情の瑛に苦笑いしながら陰茎を抜こうとすると、長い脚が腰に絡みついた。

「……瞳が気持ちよくないと、気持ちよくない」

 酔っぱらいのわがままだ。
 もの欲しそうに何度もキスをねだり、脚を絡めて下腹部を擦りつける姿には欲情はするが、泥酔状態の瑛が気が気じゃなくて、瞳はセックスどころではなかった。
 いじけるみたいな瑛をなだめるように、仕方なくもう一度深く挿入する。声もなくぴくぴくと痙攣する体に、抑えないといけないと思いながらも、次第に腰の動きが速くなっていく。

 荒い呼吸と結合部の音が響く中、瑛が手を伸ばして瞳の顔を撫でる。
 恥ずかしいし、相応しくないし、気まずいし、恥ずかしいし、本当は言いたくない。けれど、瑛の焦がれるような視線に、瞳は口を開いた。

「…………瑛」

 瑛がゆっくりと驚いたような表情になる。みるみる顔が赤く染まり、戸惑うように、あっ……と小さく声を上げた。
 瞳はあやすように瑛の体を抱き締めると、一番奥で震えるような射精をした。





 瞳が目を覚ますと、隣に瑛はいなかった。あんなに酔っ払った上にセックスまでして、もう起きてるのか……
 寝起きの状態でよたよたとリビングに行くと、眼鏡姿の瑛がソファにいた。

「えっ!?」

 思わずドアのところで足を止めた瞳へ、瑛が視線を向ける。気怠げにソファに座る姿は、ハイブランドの広告のようだった。

「……なんでそんなキラキラなんですか」

 あれだけ泥酔した翌日に、むくみもなくつやつやしている瑛に若干引きつつ、隣に座る。

「キラキラ……? 別に、そんなに呑んでねえし」
「いや、べろべろだったじゃないですか」

 瞳は瑛の顔を覗き込むと、探るような目で見る。

「昨日のこと、覚えてますか?」
「……忘れた」

 瑛は瞳の視線から逃れるように、ふいっと顔を背けた。
 『忘れた』ってなんだよ! 『覚えてない』とか『何のこと?』とかじゃないのかよ! 絶対覚えてるじゃん!!
 あぶね~! 調子乗って、どエロいことしなくてよかった~!!

 瞳は瑛の横顔を見ながら、おずおずと口を開く。

「……瑛」

 瞳がそう言うと、髪の毛の間から覗く瑛の耳が真っ赤に染まった。
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