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手マン
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瑛が隣に座ると、瞳は緊張からか猛ピッチで酒を呷り始めた。それにつられて、瑛もいつも以上に飲んでしまい、会が終わる頃には意識ははっきりしているものの、若干足元がふらついた。当の瞳はピンピンしている。
「お前のせいで酔った」
理不尽な瑛の言い分に、瞳はすみません、と何もわかってなさそうな顔でとりあえず謝った。
「佐久間さん、家どこですか? 送ります……って訊いてもいいんですか? 俺、家凸しますよ」
するな。
遠いから帰るの面倒なんだよ、と瑛が言うと、瞳はスマホを操作して、画面を見せた。
「このビジホ取りましょうか。こっから歩いて二、三分ですけど、部屋空いてるみたいなんで」
瑛はシングル素泊まり、と書かれた宿泊プランにチラッと目をやった後、瞳を見上げた。
「部屋に連れ込んだりしないんだ」
さっきは家に誘ったくせに、と言うと、どれだけ飲んでも変わらなかった瞳の顔色がみるみる赤くなった。
「それか、そこに一緒に泊まる?」
「あの!」
ツインルームにチェックインすると、瞳は入口に突っ立ったまま、大きな声を出した。
「さ、佐久間さんは、その……どういうつもりなんですか」
珍しくキリッとした表情で、正面から瑛へ鋭い視線を向けるが、目が合うと、はゎ……と手で顔を覆った。
「どういうつもりって、ヤるんだろ?」
瞳は指の隙間から瑛を見て、え……あの、でも……ともごもご呟く。
「何? そういうつもりじゃなかった?」
「え、いや、あの、」
瑛は瞳をじっと見つめたまま、ふうんと呟いた。
「四谷さんは、一回ヤったら冷めちゃうんだ」
瞳は引き攣った顔で、わかりやすくギクッと体を揺らす。
「いや、あの、ヤってはないですよね、俺たち……」
「四谷さんにとっては、ハメてなかったらヤってないってことなんだ」
瑛の冷ややかな視線に、瞳が、はぇ……と怯えた声を漏らした。
気の毒なくらい動揺する瞳に、いじめ過ぎたかと罪悪感を覚えつつ、同時にいい気味だとも思う。散々人の体にあれこれしておいて、その後連絡もしてこない奴には、嫌味の一つくらい言っても許されるだろう。瑛からの誘い受けだったことについては、考えないでおく。
瞳は、瑛が泊まったときのことを思い出しているのか、真っ赤になって頭を抱えると、床にしゃがみ込んだ。
「だって、なんで俺なんですか……佐久間さん全然気持ちよくないでしょ? ゲイでもないし、俺は厄介リアコだし……。俺とセックス……セ、セッ……」
瞳はカーッと赤くなった顔を手で覆った。そこで詰まると話が進まないから、その程度で照れるな。
「とにかく、佐久間さんが俺とセ……する理由がないじゃないですか。佐久間さん、自分に勃起する男に『キモ』とか言うでしょ」
内心では思うけど、面と向かっては言わない——いや、言うか。こいつにも言ったな。
冷静に考えたら、瞳の言う通りだ。
セックスは好きじゃないし、男なんて論外だし、こいつは粘着ファンだし、なんで自分から誘ったみたいになっているのか、瑛にもよくわからない。
「……セックスは別に好きじゃないけど、瞳が気持ちよさそうにしてるのはかわいいと思った」
もじもじといじける瞳のそばに、瑛もしゃがんで視線を合わせる。瞳は目を見開いて瑛の顔を見ると、そのまま固まってしまった。
「すみません、今の録音するんで、もう一回言ってもらっていいですか?」
「いいわけあるか」
瞳は、えーとえーと、と頭を抱えると、
「……それは、俺のイキ顔を見たいってことですか……?」
と、おそるおそる尋ねた。
それは違う気がする。
黙り込んだ瑛の態度をどう解釈したのか、瞳は、
「え……佐久間さんって、まあまあ変態ですね」
と、喜びとも動揺ともつかない、ニヤついた表情を浮かべた。
瞳はスマホを取り出すとメモアプリを起動させて、顔を顰める瑛へ差し出した。
「えっと、これは俺が佐久間さんとできたらいいなって思ったやりたいことリストでぇ、俺がイクところが見たいなら、こういうことしたいなーなんて……」
なんで、『俺のやって欲しいことしてくれるなら、付き合ってあげてもいいよ』みたいな流れになってんだ。
メモには
・手を繋ぐ(通常)
・手を繋ぐ(恋人繋ぎ)
から始まって、ズラッとさまざまなプレイが列挙されていた。
「……はい」
瑛が雑に手を握ると、瞳は、そういうんじゃなくてぇ~と言いながら、股間が反応していた。この程度で興奮できるなんて、燃費がいい。
「……『結婚』って何?」
ザッとリストに目を通した瑛は、一番最後に書かれた不穏な文字を見つけた。
「あっ! 本当に結婚できるわけじゃないってことはわかってますよ! この『結婚』は概念っていうか、エターナルの象徴っていうか!」
「……こわ」
最近は慣れてきたから麻痺してたけど、そういえばこいつ十年も粘着してたやべー奴だったと、ドン引いた目で瞳を見る。
「『名前呼び』っていうのは?」
「それはぁ、俺が佐久間さんをいつか名前で呼べたらいいな~♡って意味で……」
瑛はしばらく黙った後、
「……ヤるとき、『エイジ』って呼んでもいいけど」
と呟いた。
瞳にとって、本当に抱きたいのは瑛じゃなくてエイジだろう。
「いや、佐久間さんは瑛でしょ。もしかして大分酔っ払ってますか。あっ『瑛』って言っちゃった♡」
一人で照れている瞳に、そういう意味じゃねえよ、とイラッとしたが、同時に重荷を下ろしたような安堵が胸に広がった。
「……まあいいけど……お前がしたいことすれば?」
「えっ……いいんですか!?!?」
瞳は、パッと顔を輝かせるが、すぐに疑うような目を向ける。
「美人局とかじゃないですよね……? あ、美人局でも全然いいんですけど! ただ、当て馬ポジションになるのは嫌だなっていうか、いやでも、それも意外と——」
瑛は瞳の頭を引き寄せると、唇でその口を塞いだ。うるせえ。
瞳は目を白黒させて一旦受け入れたが、すぐに体を離した。
「すみません! 俺、今めちゃくちゃ酒臭いんで!!」
俺もだよ。
一緒に飲んだんだから、二人とも酒臭えよ。
「佐久間さん、そういうの絶対気にするでしょ」
気にするけど、そういう雰囲気じゃねえだろ。俺でも空気くらい読むわ。
瑛は瞳の首に腕を回すと、強引に唇を合わせた。瞳はあたふたと体の横で動かしていた手で、ぎこちなく腰を抱き寄せる。舌で上顎をなぞられると、瑛の腰から力が抜けた。
よろめく体はいつの間にか壁に追い詰められて、瞳のみっちりした筋肉に押し潰される。
下半身が重たくて熱い。
瑛は瞳にしがみついて、腰を擦り付けた。
気づいたら、抱き抱えられるようにして、ベッドに押し倒されていた。
「なんで今日、こんなすけべなの? 酒飲んだから……?」
瞳はぶつぶつ呟きながら、あの……とキスを中断した。
「俺がしたいことしていいってやつですけど、どのあたりが限界ですか……? なんでもありだったら俺、まじでギリギリ攻めちゃいますけど……」
どんなえげつないプレイするつもりだよ。
「嫌なことは嫌って言うから、好きにしろよ」
「ほ、ほんとぉ~? そんなこと言ったら、最後までしちゃいますよ~なんちゃって……」
「最後って結婚のことか?」
ゾワっとした瑛に、瞳は、違います! と顔の前で両手を振った。
「そっちじゃないですよ! それでもいいですけど! えっと、あの、そ、挿入……?」
「ああ」
まあ別に、と平然としている瑛に、瞳は、まじか……と天井を見上げた。
え、待って、と、わかりやすくそわそわするが、
「いやでも多分入らないし……佐久間さん、撮影した後、そこ全然使ってないでしょ。あ、やだ、使ってたら泣きそう」
と、ごにょごにょ呟く。
瑛はビデオを撮影したときのことを思い出す。痛かったり苦しかったりした思い出はないものの、体に異物が入ってくる気持ち悪さはなんとなく覚えていた。完全に人任せだったので、どうやって挿入したのかは、記憶にない。
「どうすれば入んの?」
「拡張すれば、できなくはないと思うんですけど……」
「ふうん、じゃあ瞳がやって」
瑛がそう言うと、瞳はわなわなと震えた。
「非処女の佐久間さんと処女の佐久間さんを同時に抱けるってこと……? いやでも、今までヤった相手、縦割れケツマンコみたいな人ばっかりだったから、開発とかあんまりしたことないんだよな……」
「お前、どんな恋愛してきたんだよ」
「恋愛なんてするわけないでしょ! 俺が好きなのはエイジだけだったんだから!」
これがリアコかあ……と、瑛は薄気味悪いものでも見るような目つきを瞳に向けた。
瞳が大きな手で、瑛のシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外していく。多少乱暴でもいいから、さっさと脱がせてくれと思いながら、瑛はされるままになっていた。
首筋、胸、腹と素肌が露わになるたび、瞳の舌が形をなぞっていく。
瑛が身体をよじって舌の感触から逃れようとすると、瞳はたしなめるように、肌を軽く噛んだ。
「嫌なこととかあれば、言ってください」
嫌じゃないけど、チリチリした快感が燻っているのが自分の体じゃないみたいで落ち着かない。
「俺、あのビデオ、毎日何回も見てきたんです。佐久間さんはマグロで無反応だけど、それでもよく見たら、感じてるところとかわかるんですよ」
瞳は全然ロマンチックじゃない告白をして、こことか、と首筋を吸った。ぴくっと体が揺れて、声が漏れそうになる。
「当たりですか?」
瞳が表情を確認するように覗き込んで尋ねるのを、ぷいと顔を背けて無視する。瞳はその顔を追いかけて、軽い音を立てながら唇を合わせた。
瞳の指が瑛のベルトを外して、下着の中に入ってくる。陰毛を梳き、勃ち上がった陰茎の裏筋を、指の背でゆっくりと撫でた。
挨拶のようなキスをしながら、瞳の指は下着の中で何度も往復する。もどかしさから、瑛は無意識に瞳の舌を追いかけるが、瞳は軽いキスしかしてくれない。
瑛は唇を離すと、瞳の額に自分のそれを押し当てて、咎めるような上目で見る。
「何? キスしたいの?」
ドヤった言い方にイラッとしたが、瞳は浮かれた表情で唇を深く合わせて、舌を絡ませる。悔しいけど気持ちいい。瑛は瞳の髪の中に指をくぐらせて頭を支えると、歯がぶつかるくらい強く唇を押し当てた。
瞳は唇から首筋、鎖骨、胸と舌先で辿り、臍の縁を舐めた。その下で陰茎がねだるように揺れているのに、それを無視してしつこく肌をまさぐる。
瑛が抗議するように瞳の脚を蹴ると、ようやく体を起こした。
「脱がせますね」
瞳はスラックスごと下着を脱がせると、脚を掴んで大きく割り開いた。裸を見られても恥ずかしくはないが、急所を晒されて思わず怯えた目になってしまった。
瞳は瑛の顔を見て戸惑うような表情になったが、瑛が平気だと言うと、内腿に唇を押し当てて強く吸った。
瞳が脚の付け根にキスをするたびに、頬や髪の毛が性器に触れる。
こいつ、絶対わざとやってるだろ……
瑛が頭をポカポカと叩くと、瞳は顔を上げて瑛を抱き起こした。ヘラヘラしているか、はわゎ……と焦っているかと思ったが、意外にも真剣な顔をしていたので、思わずどきっとしてしまった。
瞳は瑛をうつ伏せにして、その上にのしかかるように覆い被さると、脚の間に指を宛てがった。寝バックで犯されているような気分だ。
「いきなり入れたりしませんから」
会陰のあたりを揉むようにほぐしながら、瞳の唇が首筋や背骨に落ちる。腰が浮いて、先走りが糸を引いてシーツに垂れた。
瞳の指先が、いたずらのようにつぷつぷと浅く出入りするのに、体がこわばる。
「痛くないですか?」
瑛が首を振ると、瞳の指がゆっくりと深く入ってきた。探るように指を強く押し当てながら中を擦る。異物感にむずがる瑛を宥めるように、瞳は首筋に顔を埋めて唇で愛撫した。
「やっぱりここ、弱いですよね」
瞳はうなじのあたりを強く吸いながら、指を抜き差しする。気持ちいいのか悪いのかよくわからない、そわそわする感覚が溜まっていく。
突然、瞳がもう一方の手の指を、口の中に突っ込んできた。
びっくりして思わず噛んでしまったが、瞳は気にする様子もなく、
「歯食いしばらないで、力抜いてください」
と、指で中をかき混ぜた。
唾液が溢れて、声にならない呻きが垂れ流される。
シーツにしがみつく瑛の腰には、瞳の陰茎が押し当てられている。瞳がそれを擦り付けるように動くのに合わせて、瑛の中の指も抜き差しされる。
本当に犯されているみたいだ……
そう思った瞬間、アナルに挿入された指が、捩じ込むようにさらに深く入ってきた。内襞が媚びるように指に絡みつく。
「やば……すげえ挿れたい」
瞳の低い呟きに鼓膜が震え、尾骶骨から背骨へと、ぴりぴりとした快感が昇っていく。
イク、と思ったときには、すすり泣くような喘ぎを上げて、シーツに向かって射精していた。
「や、やめ……イッてるから……」
ベッドに顔を埋めて、イヤイヤをするように頭を振る。カクカクと腰の震えが止まらない。
「もう、指抜いてますよ」
瞳の言葉に、瑛が唖然とした顔を上げた。
「ケツイキ止まんなくなっちゃいましたね」
瞳は、瑛の腹に手をまわして腰を持ち上げると、もう一方の手を再び挿入した。
「やだ……やめ……!」
内腿が震えて、骨ばった形がわかるくらいに指を締め付けてしまう。
「これ、覚えて」
圧迫感と粘膜を擦られる感覚に、これ以上されたらおかしくなってしまうという不安が込み上げてくる。
「や、やだ……」
嫌ならやめるって言ったくせに。
責めるような目で瞳を振り返ると、切羽詰まった表情で瑛を見つめていた。
そばにあった手をぎゅっと握ると、後ろから羽交締めされるように抱きしめられる。
瞳の興奮に包まれて、瑛は顔を傾けて自分から唇を重ねた。
「佐久間さん」
肩を揺すられて、瑛は重い瞼を開いた。
だるい体を起こして時計を見る。もう出社の準備をしなくてはいけない時間だ。
ベッドの上でぐったりとしていると、瞳がペットボトルの水を持ってきてくれた。なるべく怒った表情を作るが、眉を下げたしゅんとした顔を見たら、その表情も崩れてしまった。
「あの、すみません……まさか佐久間さんにあんなケツイキの才能があると思わなくて……」
こいつ、まじでデリカシーねえな。
瑛はベッドの上で胡座をかいて、カーテンを開ける瞳の横顔をぼんやりと見つめる。
「昨日と同じ服着てたら、朝帰りってバレちゃいますかね」
朝日を浴びて瑛へ振り向く瞳の周りには、キラキラしたピンク色のオーラがパチパチと飛び交っていた。
服も何もお前、セックス(挿入なし)しましたって、顔に書いてあるよ。
「お前のせいで酔った」
理不尽な瑛の言い分に、瞳はすみません、と何もわかってなさそうな顔でとりあえず謝った。
「佐久間さん、家どこですか? 送ります……って訊いてもいいんですか? 俺、家凸しますよ」
するな。
遠いから帰るの面倒なんだよ、と瑛が言うと、瞳はスマホを操作して、画面を見せた。
「このビジホ取りましょうか。こっから歩いて二、三分ですけど、部屋空いてるみたいなんで」
瑛はシングル素泊まり、と書かれた宿泊プランにチラッと目をやった後、瞳を見上げた。
「部屋に連れ込んだりしないんだ」
さっきは家に誘ったくせに、と言うと、どれだけ飲んでも変わらなかった瞳の顔色がみるみる赤くなった。
「それか、そこに一緒に泊まる?」
「あの!」
ツインルームにチェックインすると、瞳は入口に突っ立ったまま、大きな声を出した。
「さ、佐久間さんは、その……どういうつもりなんですか」
珍しくキリッとした表情で、正面から瑛へ鋭い視線を向けるが、目が合うと、はゎ……と手で顔を覆った。
「どういうつもりって、ヤるんだろ?」
瞳は指の隙間から瑛を見て、え……あの、でも……ともごもご呟く。
「何? そういうつもりじゃなかった?」
「え、いや、あの、」
瑛は瞳をじっと見つめたまま、ふうんと呟いた。
「四谷さんは、一回ヤったら冷めちゃうんだ」
瞳は引き攣った顔で、わかりやすくギクッと体を揺らす。
「いや、あの、ヤってはないですよね、俺たち……」
「四谷さんにとっては、ハメてなかったらヤってないってことなんだ」
瑛の冷ややかな視線に、瞳が、はぇ……と怯えた声を漏らした。
気の毒なくらい動揺する瞳に、いじめ過ぎたかと罪悪感を覚えつつ、同時にいい気味だとも思う。散々人の体にあれこれしておいて、その後連絡もしてこない奴には、嫌味の一つくらい言っても許されるだろう。瑛からの誘い受けだったことについては、考えないでおく。
瞳は、瑛が泊まったときのことを思い出しているのか、真っ赤になって頭を抱えると、床にしゃがみ込んだ。
「だって、なんで俺なんですか……佐久間さん全然気持ちよくないでしょ? ゲイでもないし、俺は厄介リアコだし……。俺とセックス……セ、セッ……」
瞳はカーッと赤くなった顔を手で覆った。そこで詰まると話が進まないから、その程度で照れるな。
「とにかく、佐久間さんが俺とセ……する理由がないじゃないですか。佐久間さん、自分に勃起する男に『キモ』とか言うでしょ」
内心では思うけど、面と向かっては言わない——いや、言うか。こいつにも言ったな。
冷静に考えたら、瞳の言う通りだ。
セックスは好きじゃないし、男なんて論外だし、こいつは粘着ファンだし、なんで自分から誘ったみたいになっているのか、瑛にもよくわからない。
「……セックスは別に好きじゃないけど、瞳が気持ちよさそうにしてるのはかわいいと思った」
もじもじといじける瞳のそばに、瑛もしゃがんで視線を合わせる。瞳は目を見開いて瑛の顔を見ると、そのまま固まってしまった。
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と、おそるおそる尋ねた。
それは違う気がする。
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「え……佐久間さんって、まあまあ変態ですね」
と、喜びとも動揺ともつかない、ニヤついた表情を浮かべた。
瞳はスマホを取り出すとメモアプリを起動させて、顔を顰める瑛へ差し出した。
「えっと、これは俺が佐久間さんとできたらいいなって思ったやりたいことリストでぇ、俺がイクところが見たいなら、こういうことしたいなーなんて……」
なんで、『俺のやって欲しいことしてくれるなら、付き合ってあげてもいいよ』みたいな流れになってんだ。
メモには
・手を繋ぐ(通常)
・手を繋ぐ(恋人繋ぎ)
から始まって、ズラッとさまざまなプレイが列挙されていた。
「……はい」
瑛が雑に手を握ると、瞳は、そういうんじゃなくてぇ~と言いながら、股間が反応していた。この程度で興奮できるなんて、燃費がいい。
「……『結婚』って何?」
ザッとリストに目を通した瑛は、一番最後に書かれた不穏な文字を見つけた。
「あっ! 本当に結婚できるわけじゃないってことはわかってますよ! この『結婚』は概念っていうか、エターナルの象徴っていうか!」
「……こわ」
最近は慣れてきたから麻痺してたけど、そういえばこいつ十年も粘着してたやべー奴だったと、ドン引いた目で瞳を見る。
「『名前呼び』っていうのは?」
「それはぁ、俺が佐久間さんをいつか名前で呼べたらいいな~♡って意味で……」
瑛はしばらく黙った後、
「……ヤるとき、『エイジ』って呼んでもいいけど」
と呟いた。
瞳にとって、本当に抱きたいのは瑛じゃなくてエイジだろう。
「いや、佐久間さんは瑛でしょ。もしかして大分酔っ払ってますか。あっ『瑛』って言っちゃった♡」
一人で照れている瞳に、そういう意味じゃねえよ、とイラッとしたが、同時に重荷を下ろしたような安堵が胸に広がった。
「……まあいいけど……お前がしたいことすれば?」
「えっ……いいんですか!?!?」
瞳は、パッと顔を輝かせるが、すぐに疑うような目を向ける。
「美人局とかじゃないですよね……? あ、美人局でも全然いいんですけど! ただ、当て馬ポジションになるのは嫌だなっていうか、いやでも、それも意外と——」
瑛は瞳の頭を引き寄せると、唇でその口を塞いだ。うるせえ。
瞳は目を白黒させて一旦受け入れたが、すぐに体を離した。
「すみません! 俺、今めちゃくちゃ酒臭いんで!!」
俺もだよ。
一緒に飲んだんだから、二人とも酒臭えよ。
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よろめく体はいつの間にか壁に追い詰められて、瞳のみっちりした筋肉に押し潰される。
下半身が重たくて熱い。
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「俺がしたいことしていいってやつですけど、どのあたりが限界ですか……? なんでもありだったら俺、まじでギリギリ攻めちゃいますけど……」
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「そっちじゃないですよ! それでもいいですけど! えっと、あの、そ、挿入……?」
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瑛が身体をよじって舌の感触から逃れようとすると、瞳はたしなめるように、肌を軽く噛んだ。
「嫌なこととかあれば、言ってください」
嫌じゃないけど、チリチリした快感が燻っているのが自分の体じゃないみたいで落ち着かない。
「俺、あのビデオ、毎日何回も見てきたんです。佐久間さんはマグロで無反応だけど、それでもよく見たら、感じてるところとかわかるんですよ」
瞳は全然ロマンチックじゃない告白をして、こことか、と首筋を吸った。ぴくっと体が揺れて、声が漏れそうになる。
「当たりですか?」
瞳が表情を確認するように覗き込んで尋ねるのを、ぷいと顔を背けて無視する。瞳はその顔を追いかけて、軽い音を立てながら唇を合わせた。
瞳の指が瑛のベルトを外して、下着の中に入ってくる。陰毛を梳き、勃ち上がった陰茎の裏筋を、指の背でゆっくりと撫でた。
挨拶のようなキスをしながら、瞳の指は下着の中で何度も往復する。もどかしさから、瑛は無意識に瞳の舌を追いかけるが、瞳は軽いキスしかしてくれない。
瑛は唇を離すと、瞳の額に自分のそれを押し当てて、咎めるような上目で見る。
「何? キスしたいの?」
ドヤった言い方にイラッとしたが、瞳は浮かれた表情で唇を深く合わせて、舌を絡ませる。悔しいけど気持ちいい。瑛は瞳の髪の中に指をくぐらせて頭を支えると、歯がぶつかるくらい強く唇を押し当てた。
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瞳は瑛の顔を見て戸惑うような表情になったが、瑛が平気だと言うと、内腿に唇を押し当てて強く吸った。
瞳が脚の付け根にキスをするたびに、頬や髪の毛が性器に触れる。
こいつ、絶対わざとやってるだろ……
瑛が頭をポカポカと叩くと、瞳は顔を上げて瑛を抱き起こした。ヘラヘラしているか、はわゎ……と焦っているかと思ったが、意外にも真剣な顔をしていたので、思わずどきっとしてしまった。
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「やっぱりここ、弱いですよね」
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突然、瞳がもう一方の手の指を、口の中に突っ込んできた。
びっくりして思わず噛んでしまったが、瞳は気にする様子もなく、
「歯食いしばらないで、力抜いてください」
と、指で中をかき混ぜた。
唾液が溢れて、声にならない呻きが垂れ流される。
シーツにしがみつく瑛の腰には、瞳の陰茎が押し当てられている。瞳がそれを擦り付けるように動くのに合わせて、瑛の中の指も抜き差しされる。
本当に犯されているみたいだ……
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「やば……すげえ挿れたい」
瞳の低い呟きに鼓膜が震え、尾骶骨から背骨へと、ぴりぴりとした快感が昇っていく。
イク、と思ったときには、すすり泣くような喘ぎを上げて、シーツに向かって射精していた。
「や、やめ……イッてるから……」
ベッドに顔を埋めて、イヤイヤをするように頭を振る。カクカクと腰の震えが止まらない。
「もう、指抜いてますよ」
瞳の言葉に、瑛が唖然とした顔を上げた。
「ケツイキ止まんなくなっちゃいましたね」
瞳は、瑛の腹に手をまわして腰を持ち上げると、もう一方の手を再び挿入した。
「やだ……やめ……!」
内腿が震えて、骨ばった形がわかるくらいに指を締め付けてしまう。
「これ、覚えて」
圧迫感と粘膜を擦られる感覚に、これ以上されたらおかしくなってしまうという不安が込み上げてくる。
「や、やだ……」
嫌ならやめるって言ったくせに。
責めるような目で瞳を振り返ると、切羽詰まった表情で瑛を見つめていた。
そばにあった手をぎゅっと握ると、後ろから羽交締めされるように抱きしめられる。
瞳の興奮に包まれて、瑛は顔を傾けて自分から唇を重ねた。
「佐久間さん」
肩を揺すられて、瑛は重い瞼を開いた。
だるい体を起こして時計を見る。もう出社の準備をしなくてはいけない時間だ。
ベッドの上でぐったりとしていると、瞳がペットボトルの水を持ってきてくれた。なるべく怒った表情を作るが、眉を下げたしゅんとした顔を見たら、その表情も崩れてしまった。
「あの、すみません……まさか佐久間さんにあんなケツイキの才能があると思わなくて……」
こいつ、まじでデリカシーねえな。
瑛はベッドの上で胡座をかいて、カーテンを開ける瞳の横顔をぼんやりと見つめる。
「昨日と同じ服着てたら、朝帰りってバレちゃいますかね」
朝日を浴びて瑛へ振り向く瞳の周りには、キラキラしたピンク色のオーラがパチパチと飛び交っていた。
服も何もお前、セックス(挿入なし)しましたって、顔に書いてあるよ。
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いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく
生徒会長はエッチなお店で働いてます〜5人組のお兄さん達にAV撮られた〜
ミクリ21 (新)
BL
生徒会長がエッチなお店で働く話。
5人組のお兄さん達に、エルビスのお尻が壊れそうなほどのあれやこれやをされて、それをAVとして撮影されてしまう。
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