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これから

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「……もういいって」

 手マンを続ける芹の肩をやんわり押した。

「指ふやけるだろ」
「ん……でも、もうちょっと」

 撫でるように中を圧迫されて、ピクッと体が揺れる。散々指でイカされて、気持ちいいけど物足りない。

「お前は楽しくないだろ」
「なんで? 楽しいですよ」

 だって、と芹はキスをしながら指にグッと力を入れた。中が芹の指に纏わりつくように、ぎゅーっと締まる。

「和さん、反応いいから」

 舌を絡ませながら、芹は指を出し入れする。そんなんじゃ足りないのに呆気なくイカされて、俺の後ろはパクパク収縮を繰り返した。

「は、早く……」

 手遊びのように中を弄る芹へねだると、今度は素直に頷いた。

「後ろからする?」
「……このままで……キスハメして」

 芹はゆっくり挿入しながら、俺の首筋や耳に舌を這わした。もどかしくて顔を両手で掴むと、ようやくキスをしてくれた。
 キスしながら中を突かれると、ゾクゾクした快感が込み上げてくる。
 寝バックで身動きできないところを掘られるのが好きだったのに、芹と向き合って甘やかすようなキスをされながら、ゆっくりされる方が何倍も感じてしまう。
 篭った熱を発散するように芹にしがみつくと、グッと奥まで挿入された。

「そ、そこ……やだ……」
「いや?」

 嫌じゃない。死にそうなくらい気持ちいい。終わってほしくないのに腰が揺れる。

「出して……中に出して」

 中が搾り取るように芹のものに絡みつく。どくどくと熱い精液を注がれる感覚に、俺も体を震わせながら漏らすような射精をした。




 やり過ぎた……。
 帰りの電車の中で、自己嫌悪に項垂れた。
 付き合い始めに盛りまくるとか、いい歳してさすがに恥ずかしい。
 今日は久しぶりにホテルでやったのもよくなかった。
 お互いの家なら、途中で飯食ったり買い物に行ったりっていう生活感があるけど、ホテルだとひたすらセックスだけに没頭してしまう。
 芹が一回で終わることはないのに、一回にかける時間も長くなってるし、このままでは生活に支障をきたす。
 何より、俺がそれを困ってないのが困る。
 冷静に考えると、こんな付き合い方してたらダメだとわかっているのに、芹を目の前にすると性欲にボロ負けしてしまう。

 今までの俺の経験では、一通りやった後に飽きて関係が終わるというのが定番のパターンだった。もちろん、俺が飽きられることもあるけど、本気で付き合ってたわけじゃないから、多少落ち込むことはあっても、ダメージは少なかった。
 でも、芹と体だけの関係で飽きたら終わりってなったら、多分ショックを受ける気がする。いや、わかんないけど。その頃には落ち着いてて、案外平気な顔で受け入れられるのかもしれないけど。

 ため息をつきながら、腹を撫でた。
 芹は見えるところにキスマークを付けるようなことはしないけど、見えないところにはわざと跡をつける。
 そして、誰も見ていないところで、そこをそっと撫でたりする。
 脇腹の痣を、会社で服の上から触られることを想像して、俺はまたムラムラしてしまった。




「え、この仕事、芹が取ってきたの?」

 ミーティングルームで概要を聞いて思わず、すげえじゃん、と言葉が漏れた。

「取ってないです。プレゼンのアポだけです」
「それでも凄いよ。ここ、N社がガチガチに入ってるから、うちは全然相手にしてもらえてなかったし」
「まあ、決まればデカい話なんで、最初から営業企画に入って貰いたくて」

 芹はそう言って俺を見るけど、俺はうーん、と唸った。

「もちろん営業企画うちも絡むだろうけど、俺じゃなくて須藤さんとかが担当になるんじゃないかな」
「俺は和さんがいいんですけど」

 それは俺が決めることじゃねえし、と返すと、芹は淡々とした表情で、まあそうですね、と呟いた。
 あっさりした芹の態度にちょっとイラッとしたので、俺は上司の船木さんを誘って、芹と三人での飲みをセッティングした。芹の担当に回してもらうための接待だ。
 芹の案件は、仕事として純粋にやってみたかったし、何よりメンターとして見てきた芹が、今どんなふうに仕事をしているのか、興味があった。

 いい感じで船木さんと解散した後、芹がじっと俺を見た。

「和さん、もう一軒行きませんか?」

 週末だしまだ時間も早かったので、俺は頷いて芹について行った。

「……おい」

 芹の上着を引っ張って止めた時には、すでにホテル街の手前まで来ていた。

「もう一軒って飲みじゃねえのかよ」
「遅漏になっちゃいますけど、それでもいいならもう少し飲みますか?」
「……もういいよ」

 諦めて入ったホテルで、芹はソファに座って俺を見上げた。いきなりがっついてくるかと警戒していた俺は、拍子抜けして芹の隣に座った。

「和さんって、船木さん好きですよね」
「へえ? まあ……上司だし」

 船木さんには、俺が営業にいた時から色々世話になっていて、営業企画に異動できたのも、船木さんが口添えしてくれたお陰だと思っている。

「そういう意味じゃなくて、和さん、ああいうタイプ好きでしょ」
「はあ!? いや、あの人既婚者だよ!?」

 確かに、見た目だけならまあ好きなタイプかなと思わなくもないけど、そもそもそんな目で見たことない。

「俺、社内恋愛とか興味ないって言ってんじゃん」
「でも、俺と付き合ってますよね」
「それは、まあ……お前だし……」

 なんか知らんけど、船木さんを呼んだのが気に障ったっぽい。とりあえずヤってうやむやにしようと、芹の首に腕を回してキスをした。
 芹は、キスには普通に応えてくれた。ホテルに入ったタイミングではそんなにヤル気じゃなかったのに、舌で口の中を舐められてすっかりその気になってしまった。
 早くハメてほしくてうずうずしながら、トロンとした目で唇を離すと、ジトっとした視線にぶつかって、熱が一気に冷めた。

「ヤってうやむやにしようとしてないですか」

 ぎくっと揺れた肩を抱かれて、耳元で、

「そういうとこ、ほんとかわいい」

と、全然かわいいと思ってなさそうな顔で囁かれた。

「和さん、ああいうおっさん好きですよね」

 まだその話続くのか……

「そんなことは……」

 あるな。
 いや、俺は別におっさんという属性が好きなわけじゃない。
 年上だとだいたい手慣れてるから、こっちが気を回す必要がないし、セックスは上手いし、遊ぶ相手にはおっさんをなんとなく選んでたってだけだ。年上から、かわいい、エロいって甘やかされてチヤホヤされてきた自覚はある。

「なんか最近、よそよそしいし」
「それは、ちょっとヤリ過ぎかなって反省で……」
「もう飽きちゃいましたか?」

 じっと見つめられて、唾を飲み込む音がゴクッと鳴った。

「いや、ない! ないない!」

 焦って言うほど、芹は目を細めて俺を見た。

「俺から強引に付き合ってもらったし、そもそも和さん、年下好きじゃないでしょ」
「えぇ!?」

 いろいろと詰められて、俺はパニックになりながら首を振った。

「でも、和さん『年下はないな』って言ってましたよ」
「俺ぇ? いつ!?」
「前に梶本さんと三人で飯食った時」
「い、言ったかなぁ……」

 年上か年下かって言われたら、年上かなって程度で、酒の勢いで大げさに言った可能性はある。ていうか、そんな酔って言ったことなんて、いちいち覚えるなよ……

「俺、まあまあ傷ついたんで、今日はおっさんじゃなくて、若い男の性欲に付き合ってくださいね」
「……はい」

 ぐーっと肩を抱き寄せる芹へ、ぎこちなく頷いた。





「もう、む……無理……待てって…………あぁっ……!」

 涙で滲む目で芹を見ると、ジッと観察するような目で見下ろされた。冷たい視線と容赦のない腰振りに、中がぎゅっと収縮する。
 いつものねちねちと甘やかされるようなセックスじゃなくて、荒っぽい扱いに戸惑いながらも、俺は興奮していた。

「和さん、ねちっこいセックスが好きだと思って合わせてたけど、あれっておっさんのぬるいセックスに慣らされてるだけなのかなって」
「裕貴っ……もう、お前、しつこい…………」

 確かにおっさんはスタミナがないから、挿入よりも前戯中心になりがちで、俺は割とそういうセックスが好きだった。
 ねちねちとは程遠い、ガツガツした腰使いで奥を突かれる。いつもはしつこいくらい手マンしてから挿入するのに、今日はまだ中がほぐれてないうちから、激しく掘られた。
 そんなふうにされても、俺の中はもう芹の形を覚えていて、すぐに受け入れてとろとろになってしまう。

 おっさんの勃ちが甘いちんこ(ちょっとかわいくて、それはそれで嫌いじゃない)とは違う、ガチガチの芹のちんこで奥を突かれるたびに、ビクッと体が震える。

「待って、裕貴……もっとゆっくり……ああっ……!」

 奥にグッとハメられた瞬間、何の前触れもなく射精してしまった。気持ちも体も追いついていないのに、強制的にイカされて、その間も奥の襞から前立腺まで長いストロークで突き上げられる。

「裕貴、イってる……、から……! あっいくいくっ……!」

 止めて欲しいのに、中が不規則に痙攣して腰を振ってしまう。

「和さん、離してくれないと、中で出しちゃうよ」
「ち、違っ……あぁっ……!」

 からかうような、ちょっと切羽詰まったような芹の声に、中が勝手に締まる。耳元で掠れた喘ぎ声がしたと思った後、腹の奥に熱い感覚が広がった。
 最後の一滴まで搾り取るように内壁が絡みついて、芹に吸い付く。
 汗で濡れた体が覆い被さって、唇が重なった。
 舌が絡まると中がまた収縮して、芹のものがずるっと抜けた。
 芹は、はあーっとため息を吐くと、すみません、と気まずそうに呟いた。

「……体きつくなかったですか? やきもちで優しくできなくてすみません」
「えっ、やきもちだったのかよ」

 船木さんはただの上司で、おまけに既婚者だし、嫉妬する要素あるか?

「逆に何だと思ってたんですか」
「いや、なんか機嫌悪いなって」

 芹は呆れた顔で俺を見た後、言いにくそうに口を開いた。

「船木さんにやきもちっていうより、和さんの昔の男全部が嫌って感じですけど……俺、重いんで」

 今度は俺の方が呆れた表情になった。

「俺の愛を疑うなよ」

 割と本気で言ったのに、芹は、はあ、すみません、と気のない声で応えた。

「まあ重いけど、年下っぽくてかわいいよ」

 笑ってそう言うと、芹は不貞腐れたような表情になった。からかったつもりはないけど、芹は俺がおっさん好きだと思ってるから、バカにされたと思ったのかもしれない。
 仕方ないから、とっておきの秘密を話してやろう。

「初めて会ったインターンシップでさ、お前のこといいなって思ってたんだよ。だからお前のグループのテーブルについたし、帰る時も引き留めて話したりして。まあ、仕事絡みで会った相手とどうこうしようとは思わないから、ただ好きなタイプだなってだけなんだけどさ……だから、俺は別におっさんが好きなわけじゃないし、お前のこと最初からめちゃめちゃ好きだよ」

 芹はぽかんとして聞いていたけど、話が終わると赤くなって俯いた。

「……職権濫用じゃないですか」
「それくらい許されるだろ」

 結局俺は、身近な相手とは関係しないというポリシーを曲げるくらいには、芹のことが好きなんだと思う。
 芹は俯いて、やば……と呟いた後、

「なんか……すみません……」

と口の中でもごもご言った。

「俺も傷ついちゃったけど、これから毎日キスしてくれたら許すよ」

 そう言うと、芹は早速唇を合わせてくれた。
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