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仕事ができる子は騎乗位も上手い

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「吉澤さん」

 名前を呼ばれて、ゲッと呟きそうになるのを慌てて堪えた。

「待ち合わせですか?」

 見ればわかるだろ、という言葉は飲み込んで、目の前に立つ芹へぎこちなく微笑む。
 金曜夜の、それなりに大きなターミナル駅前だ。知り合いに会うこともあるだろう。でも、今じゃない。
 スマホを見るふりをして、それとなく視線を外す。はよどっか行け、という無言の抗議にも、芹はヘラヘラと笑顔を浮かべて突っ立っている。

「……芹も待ち合わせ?」

 仕方なく声をかけると、ニコニコしながら、はい、と頷いた。

「ていうか、吉澤さんの待ち合わせ相手、俺です」





 予約してるんで、と言われて連れてこられた個室の中華は、味は本格的ながらインテリアは中華っぽくないシックな店だった。なんか腹立つ。

「吉澤さん、中華好きでしたよね」
「え……好きだけど……」

 なんでそんな情報知ってるんだ。こわ……
 俺の引き攣った表情に気づいたのか、自分で言ってたじゃないですか、と芹が不服そうに言う。

「梶本さんと三人で飯に行こうってなった時、いつも中華がいいって言ってましたよね。社食でも、基本カツ丼だけど、中華っぽいおかずの時は日替わり頼んでるし」
「こわ」

 さっきは心の中で呟いただけにしておいたが、今度はさすがに声に出した。

「なんでそんなことまで知ってんだよ」
「そりゃ、好きな子のことは何でも知りたいでしょ」
「軽~」

 人懐っこいやつだとは思っていたが、ワンナイトの相手にもこんなことを言うんだなと、ちょっと意外だった。芹は顔がいいから、相手によっては勘違いしてしまうだろう。

「簡単にそういうこと言うの、やめとけよ」

 そう忠告すると、芹は神妙な表情になった。
 芹は俺の三個下の後輩で、同期の梶本が芹のメンターだった。
 ただ当時、梶本は抱えている案件のトラブルで不在にしていることが多く、メンター期間中の半分くらいは俺が芹の面倒を見ていた。

「梶本さん、ずっと出張行っててくんねえかなって思ってましたよ」
「酷いやつだな~」

 俺は芹の話を適当に聞きながら、黙々と食事をしていたが、ふと手を止めた。

「え……その頃から俺のこと気にしてたってこと?」

 芹はニコッと笑って頷いた。

「吉澤さんのこと、ずっと目で追ってましたよ。だから会社でゲイ向けのマッチングアプリ使ってるのにも気づけたし」

 思わず咽せた俺へ、芹が水を渡してくれた。

「い、いや、普段は会社で見ないよ! たまたま周りに誰もいなかったから……」

 意味のない弁解に、芹は相変わらずニコニコと微笑む。

「まあ誰も見てなかったし、普通はわかんないですよ。俺は親の顔より見たホーム画面だったから気づきましたけど」
「親の顔もっと見ろよ」

 俺は、まじか……と呟いて頭を抱えた。

「え、じゃあお前、相手が俺ってわかっててアプリでやり取りしてたの!?」
「当たり前じゃないですか。場所とか身長体重で絞ったら割とすぐ見つかりましたよ」

 芹が俺のことを前から意識していた(これに関しては真偽について検討する必要あり)ことに動揺しているのか、ゲイバレしたことがショックなのか、アプリで相手が芹とも知らずにはしゃいでたことが恥ずかしいのか、自分でもわからなかった。ていうか、全部衝撃すぎる。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

 俺が呆然としている間に、芹は会計を済ませてくれていた。後輩に奢らせるわけにはいかない、と財布を出そうとすると、

「今は先輩後輩じゃないでしょ」

とやんわり断られた。
 呆然としたまま芹について歩いているうちに、ホテルに着いた。

「は!? ヤる気!?!?!?」
「だって、元々それが目的じゃないですか」

 確かにマッチングアプリ内では、そういう目的でやり取りしていた。でもそれは、相手が芹だとは思ってなかったからだ。

「いやでも、状況が違うしさ……」
「まあ、ここで揉めるのもアレなんで」

 芹はそう言うと、ホテルの前でごねる俺を促して中に入った。俺もさすがにみっともないと思ったので、とりあえず大人しく従った。

「メッセだとあんなにエッチだったのにな~」

 エレベーターの中で、芹が唇を尖らせて拗ねたふりをする。

「いや、あれはさ……なんかその場のテンションがあるじゃん……」
「俺、送ってくれた写真でめっちゃ抜きましたよ」

 俺たちが使っていたアプリには、画像を特定の相手にだけ公開できるという機能があり、それを使ってかなり際どい写真のやり取りをしていた。
 メッセージではお互い、『めっちゃ抜ける』とか『エロい』みたいなことを散々言い合っていたものの、面と向かって、しかも後輩から言われるとなると非常に気まずい。

いずみさんも俺で抜いてくれました?」

 部屋に入ってそう訊かれて、思わず芹を見つめた。

「え、俺の名前知ってんの?」
「当たり前じゃないですか」

 当たり前か~芹の下の名前、覚えてね~~~。
 だって、ヘルプでメンターやっていたとはいえ、もう三年も前の話だし、そもそも部署も違うし……
 名前で呼んで欲しそうな顔をしている芹に、ごめん……と呟く。

「悪い……お前の名前覚えてねえわ」

 芹は、も~、と不貞腐れたふりをして笑っただけで何も言わなかった。いや、教えろよ。

「名前で呼んで欲しいけど、そこは和さんから自主的に呼ばれたいんで」

 芹はそう言ってベッドに腰を下ろした。

「で、どうしますか? 俺は紳士だから無理やり迫るようなことはしませんから、安心してください」

 ホテルまで来て安心も何もないと思うが、仕方なく芹の隣に少しスペースをおいて座る。

「俺、身近なところでヤるの嫌なんだよ」
「へ~。俺は身元がちゃんとしてる人じゃないと嫌ですけどね」

 首を傾げて顔を覗き込んでくる芹から目を逸らし、ベッドパネルを凝視する。

「和さんが引っかかってるのは、俺が同じ会社の人間だってことだけですか?」

 もし芹とマッチングで初めて出会っていたら、なんの躊躇もなくヤってただろう。
 ていうか、正直どタイプだ。
 俺としては、仕事関係とか友達の友達とか、身近な人と関係するのはあり得ないから、芹のことをそういう目で見たことは今までなかったが、後輩という要素を除けばめちゃくちゃタイプだった。
 いやでもな~ヤった後のことを考えるとな~~~

「じゃあ俺、会社辞めますよ」
「こら」

 思わず芹の方を振り返ると、じっと俺を見つめる顔が間近にあった。

「で、どうしますか?」

 この先どうするかは、俺の決断にかかってるのか……それはそれで気が重いと思っているのに気づいたのか、芹から、

「とりあえず試しにキスしてみますか?」

という提案があった。

「それ、なし崩しにやっちゃうパターンじゃん」
「まあ、それが目的なんで」

 芹は横に座る俺の肩を抱くと、顔を傾けて唇を重ねた。もう一方の手で髪や耳を撫でながら、舌を入れてくる。思わず甘えたような声を漏らすと、芹は本気を出してきた。
 ねっとりと舌で口内を嬲られて、芹の背中に手を回した。芹は腰を引き寄せると、覆い被さるように俺をベッドへ押し倒した。
 唇を離して、至近距離にある芹の顔を見つめた。

「や、やるか~……」

 散々ごねた割には、あっさり手のひらを返した俺を、芹は笑わなかった。笑わなかったが、満足そうな笑顔で覆い被さってきたので、これはちょっとまずいかもしれないと警戒した。

「ちなみに、俺がやっぱりやめるって言ったら、ここで解散すんの?」
「鬼詰めして、うんって言わせます」
「じゃあ、訊く意味ねえじゃん」
「合意は大事ですから」

 芹はキスをしながら、ゆっくりと俺の服を脱がしていった。肌の上を指先で辿りつつ、俺が反応する場所を探している。
 知り合い相手に乱れるのはなんか嫌だと思いつつ、顔と体が好みの男に抱きしめられると、割とどうでもよくなってしまった。

 キスの時から、というか、何ならアプリでやり取りしている時から、こいつ上手いんだろうな~とは感じていたが、俺の反応を見ながら丁寧に扱う様子に、徐々に警戒が解けていった。
 手を伸ばして芹のシャツのボタンを外していく。

「脱がしてくれるの?」

 目を伏せて頷くと、芹は、嬉しい、ありがとう、と子供っぽい表情になって笑った。

「こんな体してるなんて知らなかったな」

 芹は着痩せするタイプなのかもしれない。服の上からは想像できない、弾力のある筋肉を撫でると、密着した下半身が反応した。

「写真撮る時はパンプアップして盛ってましたけど」
「盛ってなくても充分すごいよ。ここも……」

 下半身に触れると、芹の体が大げさに震えた。
 芹は、あぁ~……と小さく呟くと、俺の上に突っ伏した。頬に触れる芹の耳が熱い。

「なんか……童貞みたいな気分です」
「こんな手際のいい童貞いるわけあるか」

 重い体をあやしながら、芹の手を取って下着の中に導いた。

「……準備してるから、しよう」

 下着の中で俺の後ろに触れた芹は、バッと顔を上げると、真剣な表情でまじまじと見つめてきた。

「は……準備っていつから? この状態で飯食ってたの?」

 芹は体を起こすと、ベルトが外れかかったスラックスを下着ごと乱暴に引き抜いて、俺の脚を大きく広げた。硬くなりつつあった陰茎は、視線を感じて完全に勃起してしまった。
 芹は太腿から会陰にかけて手のひらで撫でると、俺の尻に埋まったプラグを引き抜いた。少し指が震えていたかもしれない。
 仕込んだローションが垂れ流れる感覚に反応して、先走りが漏れた。

「……なんか、ムカつく」

 予想していたのと違う反応に、思わず、へっ? と間抜けな声を漏らした。

「俺以外の奴に、こんなところ見せるつもりだったの?」
「……いや、結果的にお前に見せることになったんだし……」

 あれ、なんでムカつかれてるの……?
 一瞬感じた地雷臭は、芹の指が入ってきたことで消え去ってしまった。

「とろとろになってんじゃん」

 芹は最初から指を二本挿れてきたが、慣らしておいた穴は難なく飲み込んだ。中は吸い付くように芹の指を咥え込む。
 芹はすぐに前立腺を探り当てると、執拗にそこだけを擦った。

「あ……、そこばっか……やめ、あっ……!」

 もう一方の手で乳首を摘まれる。爪先でカリカリと引っかかれる快感が、下半身に響いた。

「同時にするの、だ……め、芹、や……!」

 涙の滲んだ目で見上げると、冷静に俺を見下ろす芹と目が合った。射抜くような視線に、ビクッと体が震え、後ろが芹の指をぎゅっと食い締めた。
 俺はそのまま、呆気なく射精してしまった。
 背中が弓なりに反り返り、引き結んだ唇から、んっんっ……と声が漏れる。

「和さんのイキ顔エロすぎ」

 とろんとした目を向けると、芹は腹に飛び散った精液を指で掬って、見せつけるように舐めた。

「……何が童貞気分だ」
「和さんが煽るからでしょ。初々しいイチャラブにしようと思ってたのに」

 芹もちょっと落ち着いたのか、まだひくひくと収縮する後ろを指で弄りながら、軽いキスをした。
 俺はキスに応えながら、芹の下半身に手を伸ばした。先走りで濡れた陰茎を握り、焦らすようにゆっくりと上下に扱く。

「……指じゃなくて、裕貴ゆきのを挿れてよ」

 芹は顔を離すと、びっくりした表情で俺の顔を見つめた。

「……も~」

 芹はそう言うと、真っ赤になった顔を俺の肩に埋めて突っ伏してしまった。

「……覚えてないって言ったくせに」
「必死になって思い出した」
「さっきのでイキそうなっちゃったじゃないですか」

 芹は怒ったような表情のまま体を起こすと、ゴムを手に取った。まだ顔が赤い。

「和さん、好きな体位なんですか?」
「……寝バック」

 芹は、へえ、と呟くと、俺の体を抱き寄せて上に乗せた。

「いや、逆じゃん」
「だって、顔見れないの淋しいじゃないですか」

 仰向けに寝そべってニコニコと見つめてくる芹の上に、仕方なく跨がる。
 芹のものを手に取ると、熱く脈打っているのがゴム越しにも伝わってきた。写真では見ていたが、現物は想像以上に迫力があった。
 後ろに充てがってゆっくりと腰を落とす。早く奥まで満たして欲しいと思うのに、大きさにビビって躊躇してしまう。

「焦らさないでよ」

 芹がからかうように言うのに、涙目で首を振る。
 結合部分を指でなぞられて、思わず腰が逃げそうになるのを、グッと抑えられた。芹が腰を使って下から突き上げてくる。

「ま、待って……あっ、そこ、待っ……!」

 力が抜けた拍子に、自重でぐっぽりと奥まで嵌ってしまった。

「や……あぁッ、も、お……く、そこ、だめ……!」

 芹が奥に押し当てながら小刻みに突き上げるたびに、力なく垂れ下がった俺のものが、芹の腹にぺちぺちと当たった。一番奥までみっちりと芹のものを埋められて、痙攣が止まらない。

「 ぅ……ッん……も、やだ……っ……うぅ……イ、くッ……イッちゃ……ッ」

 ボロボロと泣きながら見下ろすと、芹はやめてくれるどころか、腰を掴んでガンガン突き上げてきた。

「ま、待って……! もっとゆっくり……!」

 イッている最中でも容赦なく奥に打ち込まれて、俺はぐったりと後ろに倒れ込んだ。ひっくり返りそうになるのを、芹が引き寄せて抱きしめる。

「……ばか」

 胸に抱き寄せられて、上目遣いで抗議すると、芹は困ったような、拗ねたような表情で、俺をベッドにうつ伏せにした。陰茎が抜けた拍子にバチンと芹の腹を打つ音で、腹の奥がきゅんと疼く。
 ちゃんと寝バックでしてくれるんだと思うと、それだけで軽くイキそうになった。

「柔らかくなってるから、めっちゃ奥まで嵌りますね」

 背中に密着する芹が耳元で囁きながら挿入する。さっきとは違う角度で刺激されて、俺はシーツを掴んでひくひくと痙攣した。
 さっきのが一番奥だと思っていたのに、もっと深いところまで入ってくる。

「待って……これ、ヤバ……」

 緩んだせいか、奥がぐぽぐぽと音を立てて芹の亀頭を咥え込む。気持ちよすぎて何も考えられない。
 芹のちんぽに媚びるように、アナル全体でしゃぶりついてとろとろに包み込む。

「裕貴…………好き……」

 芹は一瞬動きを止めると、耳元で、はあー……っとため息をついた。俺を羽交締めにして体を起こし、膝立ちになって後ろから突く。

「和さんが好きなのは、俺のちんぽでしょ」
「うん……好き。これ好き……」

 芹は脇下から回した手で乳首を弄りながら、ゆるゆると腰を前に押し出した。奥を突かれるたび、萎えたまま中イキを繰り返す俺のちんぽが、だらしなく揺れる。
 顔を傾けると、すぐ横に芹の唇があった。吸い寄せられるように下唇を咥える。すぐに芹の舌が絡んできたので、夢中になってキスをした。

「和さん……本当、最悪……」

 芹はキスをしたまま後ろからぎゅっと抱きしめると、一番深いところを突き上げた。喉を晒して仰け反り、声もなく痙攣している俺の中で、芹が射精するのがわかった。

「裕貴、もっと……」

 芹にもたれかかったまま、キスをせがんだ。
 芹はまだ呼吸が乱れていて、俺のおねだりに顔を顰めた。
 キスをしてもう一度迫ると、芹は不機嫌そうな顔をしながらも、汗だくの体をベッドに押し倒してくれた。





 もっととは言ったが、ここまでしろとは言ってない。
 結局、休憩のはずがお泊まりになり、寝る暇もなくハメ潰された。
 チェックアウトの時間になり、腰をさすりながら部屋を出ようとした時には、最後にもう一回しゃぶらせて、とドアの前でフェラチオされた。

「や……無、理…………もう出な……」

 そう言って腰を引こうとすると、ドアに手を付いて、後ろから手マンでイカされた。なんなら挿れそうな勢いだったので、

「時間! チェックアウト!」

と、慌てて芹の体を引き剥がした。絶倫にも程がある。
 外に出ると、太陽の光にくらくらと眩暈がした。

「あ、朝飯食って行きます?」

 芹は目の前にあるチェーンの定食屋を指差した。
 え? 散々やった後に、どんな顔して飯食うの? 今、一緒に歩いてるだけでめちゃくちゃ気まずいんだが。サクッと解散にしろよ。ホテルを出る前の『最後にもう一度』って、これで今日のことは忘れて、元の先輩後輩に戻りましょうねってことじゃないのか?

 清々しい顔で見つめてくる芹が何を考えているのかさっぱりわからなかったが、腹は減っていたので、素直に頷いた。
 土曜日のせいか、店内には家族連れも多くいた。なんとなく居た堪れない。
 テーブル席に着くと、前に座った芹がふっと笑った。

「……なんだよ」

 にやにやと含み笑いをする芹へ、感じ悪いな~と、ちょっとムッとして訊くと、芹は楽しそうに口を開いた。

「前に、仕事ができる子は騎乗位が上手いって聞いたことあったんですけど、和さん、仕事できるくせに騎乗位まあまあ下手っすね」

 ぼそぼそと小声で話しているとはいえ、定食屋でする内容じゃない。
 抗議しようとしたタイミングで食事が運ばれてきたので、仕方なく黙って箸を取った。

「……別に下手じゃないから。上手くできなかったのは、お前のせいだから」

 芹は、はいはいと笑って、俺が食べるのを見つめた。

「和さん、この後どうするんですか?」
「どうするって……帰って寝るよ」
「じゃあ、うち来ます?」

 俺は味噌汁を噴きそうになって、慌てて飲み込んだ。

「はあっ!? 行かないよ!」

 何が『じゃあ』だよ。

「だって、腰とかだるいでしょ。お世話しますよ」
「お世話でもっと悪化しそうだからな~」

 俺は芹から視線を逸らして食事を再開したが、芹は箸を置いてしまった。

「俺、和さんのことは好きですけど、遊びとかセフレで付き合う気はないんです。恋人になれないなら、はっきり無理だって言ってください」

 飄々とした態度だったが、芹の声は少し震えていた。
 正直なところ、まあ付き合ってもいいかな、というところまで俺の気持ちは傾いていた。
 セックスは上手いし、顔も体もどタイプだし、ちんこもデカいし、普段の話も合うし、芹はいい奴だと思う。
 ただ、やはり同じ職場だという点と、最初に無理だと断った手前、素直にうんとは言えなかった。

「……俺の何がいいんだよ」
「仕事できるところ?」

 俯いてぼそぼそと尋ねる俺に、芹は即答した。

「え……なんか違くね」
「間違っちゃったか~。喜んでくれると思ったんだけど」
「嬉しいけど、ときめきポイントじゃなくね?」
「じゃあ顔」

 わかりやすく赤面した俺に、芹は笑った。

「こっちか~」

 赤くなった顔を手で覆うと、芹の手が伸びてきて指を掴んだ。

「和さんの好きなところなら永遠に言えるんで、やっぱりうちに来て聞いてください」

 指の間から視線を向けると、優しく微笑む芹と目が合った。なんのムードもない定食屋なのに、芹のことがきらきらして見える。

「……家で隠し撮りとかしないよな」
「今までどんな相手と付き合ってたんですか。ハメ撮りするならちゃんと合意取りますよ」
「……会社で、どんな顔してお前のこと見たらいいかわかんない」
「でも、社内恋愛ってドキドキしないですか」

 確かに萌えるかもしれない。
 ぐらっときた俺の気持ちに気づいたのか、また芹が意地の悪い顔になった。

「……なんでそんな平気な顔してんの」
「平気じゃないです。めっちゃ浮かれてます」

 芹の視線が恥ずかしくて、壁のポスターを意味もなく見つめた。

「……スクワットでもするか」
「そこは実戦で上手くなりましょう」

 芹の家でのハードなトレーニングを想像して、俺の顔はさらに赤くなった。
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