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開花
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部活に行こうとして、宮坂がいないのに気づいた。
昨日、突然告白された挙句に振られた俺は、ムキになって宮坂を探した。
朝からなんとなくよそよそしさは感じていたものの、元々俺たちの接点は少ない。休み時間に話すわけでもないし、昼飯を一緒に食うわけでもない。
でも、今まで部活に行くときは一緒に行っていたのに、急に一人で先に行くなんてダサくないか? 俺だって気まずいけど、そんな大人気ない態度をとるつもりはなかった。
首根っこを掴んでも一緒にいくからな、と意地になって探していると、人気のないプール裏で宮坂を見つけた。
「宮──」
大声で名前を呼びかけて、慌てて口をつぐんだ。
宮坂は女の子と向かい合って立っている。どう見ても告白シーンだった。
「宮坂先輩のことが好きです。付き合ってもらえませんか?」
彼女はおそらく一年生だろうが、チラッと見た感じは大人びた雰囲気のある美人だった。宮坂はこういうタイプにモテる。
俺もモテる方だとは思うが、俺の場合はノリで『付き合っちゃう?』って言ってくるようなタイプが多い。こんなガチ目の告白をされたことはなかった。
漫画みたいな(実際、漫画世界だが)告白を目撃して、咄嗟に建物の陰に隠れた俺の心臓は、バクバクと音を立てた。
勇気を出して自分の気持ちを伝える彼女はいじらしくて、なにより純粋な好意を伝える姿が美しいと思った。見るつもりのなかった俺にまで、緊張感やときめきが伝わってくるのだから、宮坂はもっとどきどきしているだろう。
「好きになってくれて、ありがとう。でもごめん」
宮坂は準備していたかのように、淡々と断りの言葉を告げた。
「ずっと好きな人がいるんですよね」
……俺のことか?
「うん。小学校のときから好きな人がいるから、他の人とは付き合えない」
俺のことだな。
彼女はぺこりと頭を下げると、小走りで立ち去った。
「宮坂」
俺のそばを通り過ぎようとした宮坂に声をかけると、ギョッとした顔で振り返った。
「ごめん、見るつもりじゃなかったんだけど」
宮坂は決まりが悪そうに俯いた。
俺といると、宮坂はいつもこんな顔をする。
さっき宮坂に告白した彼女は振られてしまったけど、恋をする充実感だとか、好きな人に見つめられる嬉しさが滲み出ていた。宮坂は俺のことが好きだというけど、俺と一緒にいて、嬉しいとか楽しいとか感じることがあるんだろうか。
「好きな人がいるって話、俺のこと?」
宮坂は困ったように頷くと、小さな声で、ごめんと呟いた。
「何が『ごめん』?」
宮坂は俯いたまま、躊躇いがちに口を開いた。
「断る理由にしてごめん。……俺なんかから好かれて、気持ち悪くてごめん」
「気持ち悪いってなんだよ」
うなだれる宮坂の前に立つと、ゆっくりと顔を上げた。
「……よくわかんない奴から勝手に好かれて、しかもずっと好きなんて、気持ち悪いだろ」
宮坂の諦めたような表情にムカついた。
「お前の気持ちはお前にしかわかんないんだから、俺を好きな気持ちを宮坂が気持ち悪いっていうなら、気持ち悪いんだろ」
俺がそう言うと、宮坂は眉を顰めた。
自分から『気持ち悪い』なんて言っておきながら、肯定すると不機嫌そうにする態度にもムカついた。
「俺はそう思わないし、『よく知らない奴』のことも、もっと知りたいと思うけど」
俺が一歩宮坂に近づくと、宮坂は一瞬たじろいだものの、すぐそばに来た俺から目を逸らさなかった。
「お前のことを好きじゃない俺とはキスしたくないって言ってたけど、俺がしたいって言ったらお前、キスするの?」
挑むように宮坂を見上げる。
宮坂は黙って俺の視線を受け止めていたが、目を伏せて張り詰めていた息を吐いた。
「……しない」
「はあ!? お前、ここまできてまだそんなこと──」
宮坂は俺の腕を取ると、自分の胸へ引き寄せた。至近距離で宮坂を見上げて、心臓がドキドキと音を立てる。
「……俺からするから」
抱きしめられて、思わず宮坂の胸に手をついた。押し退けるような体勢になって、宮坂は一瞬だけ躊躇したが、すぐに顔を傾けて俺の唇を塞いだ。
触れ合う唇から全身に、じわじわと幸福感が広がっていく気がした。宮坂の胸を掴んでいた手から、徐々に力が抜ける。
宮坂がさらに強く俺を抱きしめると同時に、舌が差し入れられた。俺はピクッと体を震わせたが、宮坂の腕に閉じ込められているせいで身動きが取れない。
頭のすぐ上では、水泳部が活動を始めたのか、水音と声が聞こえ出した。誰かに見られるかもしれないと思うのに、離れられなかった。
お伽話のようなキスしか知らない(しかも知識として知っているだけで未経験の)俺は、宮坂にキスをされて思い知った。
住む世界が違い過ぎる。
息が上がり、脚が震えた。
とろとろにされてくずおれそうになる俺の腰に、宮坂の下半身が密着する。
「………ん…っ♡宮坂♡……やらぁ……らめぇ…………♡♡」
ようやく唇が離れると、俺は涙目で宮坂を見つめた。
宮坂の目に、真っ赤になって瞳孔がハートになった俺が映り込んでいた。
「…………宮坂、もっと……♡♡」
宮坂の首に腕を回しながら、俺は自分が受けとしての才能に開花したことを自覚した。
昨日、突然告白された挙句に振られた俺は、ムキになって宮坂を探した。
朝からなんとなくよそよそしさは感じていたものの、元々俺たちの接点は少ない。休み時間に話すわけでもないし、昼飯を一緒に食うわけでもない。
でも、今まで部活に行くときは一緒に行っていたのに、急に一人で先に行くなんてダサくないか? 俺だって気まずいけど、そんな大人気ない態度をとるつもりはなかった。
首根っこを掴んでも一緒にいくからな、と意地になって探していると、人気のないプール裏で宮坂を見つけた。
「宮──」
大声で名前を呼びかけて、慌てて口をつぐんだ。
宮坂は女の子と向かい合って立っている。どう見ても告白シーンだった。
「宮坂先輩のことが好きです。付き合ってもらえませんか?」
彼女はおそらく一年生だろうが、チラッと見た感じは大人びた雰囲気のある美人だった。宮坂はこういうタイプにモテる。
俺もモテる方だとは思うが、俺の場合はノリで『付き合っちゃう?』って言ってくるようなタイプが多い。こんなガチ目の告白をされたことはなかった。
漫画みたいな(実際、漫画世界だが)告白を目撃して、咄嗟に建物の陰に隠れた俺の心臓は、バクバクと音を立てた。
勇気を出して自分の気持ちを伝える彼女はいじらしくて、なにより純粋な好意を伝える姿が美しいと思った。見るつもりのなかった俺にまで、緊張感やときめきが伝わってくるのだから、宮坂はもっとどきどきしているだろう。
「好きになってくれて、ありがとう。でもごめん」
宮坂は準備していたかのように、淡々と断りの言葉を告げた。
「ずっと好きな人がいるんですよね」
……俺のことか?
「うん。小学校のときから好きな人がいるから、他の人とは付き合えない」
俺のことだな。
彼女はぺこりと頭を下げると、小走りで立ち去った。
「宮坂」
俺のそばを通り過ぎようとした宮坂に声をかけると、ギョッとした顔で振り返った。
「ごめん、見るつもりじゃなかったんだけど」
宮坂は決まりが悪そうに俯いた。
俺といると、宮坂はいつもこんな顔をする。
さっき宮坂に告白した彼女は振られてしまったけど、恋をする充実感だとか、好きな人に見つめられる嬉しさが滲み出ていた。宮坂は俺のことが好きだというけど、俺と一緒にいて、嬉しいとか楽しいとか感じることがあるんだろうか。
「好きな人がいるって話、俺のこと?」
宮坂は困ったように頷くと、小さな声で、ごめんと呟いた。
「何が『ごめん』?」
宮坂は俯いたまま、躊躇いがちに口を開いた。
「断る理由にしてごめん。……俺なんかから好かれて、気持ち悪くてごめん」
「気持ち悪いってなんだよ」
うなだれる宮坂の前に立つと、ゆっくりと顔を上げた。
「……よくわかんない奴から勝手に好かれて、しかもずっと好きなんて、気持ち悪いだろ」
宮坂の諦めたような表情にムカついた。
「お前の気持ちはお前にしかわかんないんだから、俺を好きな気持ちを宮坂が気持ち悪いっていうなら、気持ち悪いんだろ」
俺がそう言うと、宮坂は眉を顰めた。
自分から『気持ち悪い』なんて言っておきながら、肯定すると不機嫌そうにする態度にもムカついた。
「俺はそう思わないし、『よく知らない奴』のことも、もっと知りたいと思うけど」
俺が一歩宮坂に近づくと、宮坂は一瞬たじろいだものの、すぐそばに来た俺から目を逸らさなかった。
「お前のことを好きじゃない俺とはキスしたくないって言ってたけど、俺がしたいって言ったらお前、キスするの?」
挑むように宮坂を見上げる。
宮坂は黙って俺の視線を受け止めていたが、目を伏せて張り詰めていた息を吐いた。
「……しない」
「はあ!? お前、ここまできてまだそんなこと──」
宮坂は俺の腕を取ると、自分の胸へ引き寄せた。至近距離で宮坂を見上げて、心臓がドキドキと音を立てる。
「……俺からするから」
抱きしめられて、思わず宮坂の胸に手をついた。押し退けるような体勢になって、宮坂は一瞬だけ躊躇したが、すぐに顔を傾けて俺の唇を塞いだ。
触れ合う唇から全身に、じわじわと幸福感が広がっていく気がした。宮坂の胸を掴んでいた手から、徐々に力が抜ける。
宮坂がさらに強く俺を抱きしめると同時に、舌が差し入れられた。俺はピクッと体を震わせたが、宮坂の腕に閉じ込められているせいで身動きが取れない。
頭のすぐ上では、水泳部が活動を始めたのか、水音と声が聞こえ出した。誰かに見られるかもしれないと思うのに、離れられなかった。
お伽話のようなキスしか知らない(しかも知識として知っているだけで未経験の)俺は、宮坂にキスをされて思い知った。
住む世界が違い過ぎる。
息が上がり、脚が震えた。
とろとろにされてくずおれそうになる俺の腰に、宮坂の下半身が密着する。
「………ん…っ♡宮坂♡……やらぁ……らめぇ…………♡♡」
ようやく唇が離れると、俺は涙目で宮坂を見つめた。
宮坂の目に、真っ赤になって瞳孔がハートになった俺が映り込んでいた。
「…………宮坂、もっと……♡♡」
宮坂の首に腕を回しながら、俺は自分が受けとしての才能に開花したことを自覚した。
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