上 下
27 / 29

二人暮らし3

しおりを挟む

 余雪は、永芳の胸に顔を埋めてひとしきり涙を流した後、泣き疲れた顔を上げた。
 赤くなった鼻を拭いてやると、幼い頃のように決まりの悪そうな表情で唇を尖らせる。

「兄さん」

 余雪は言いづらそうに口を開いた。

「兄さんは、その……どっちがいいの?」
「どっちとは?」
「えっと……」

 気まずそうな余雪の表情で質問の意図がわかった途端、永芳は目を泳がせて言葉に詰まった。
 なんとなく、自分が抱かれる側だと思っていたが、そういうわけでもないらしい。
 余雪は永芳に選ばせるつもりなのかもしれないが、永芳は自分が余雪を導けるとは到底思えなかった。

「……わたしはこういうことには疎いから、お前がしてくれる方がいい……」
「いいの?」

 念を押されて、視線を逸らしながら頷いた。余雪よりずっと年上なのに、経験がないことに引け目を感じてしまう。
 
「嫌だと思ったり、痛かったりしたら代わるから、ちゃんと言ってくださいね」

 余雪がデール(モンゴルの民族衣装)の帯を解き、前合わせを広げた。永芳の顔は日に焼けてしまったが、服の下の肌は白いままだった。
 余雪はその肌に手を滑らせると、そっと抱き寄せた。おそるおそる抱きしめられると、また耳元ですんすんと鼻を啜る音が聞こえる。

 永芳は仰向けから横寝になって、宥めるように抱き返した。髪を撫で、背中をさすっていた余雪の手が、ゆっくりと下がる。

「最後まではしませんから」

 余雪は尻のあわいに指を這わせた。窄まりは硬く閉じていて、たとえ細い指先でも入るとは思えなかった。
 永芳はもどかしさから、余雪の首に腕を回して、ぎゅっと抱きついた。顔を傾けると、すぐに余雪が唇を合わせてくれた。
 きつく抱き合って接吻していると、徐々に指先が中に入ってくる。異物感の陰に隠れるように、微かな快感がちらついた。
 永芳は、歯痒い感覚から逃げるように、余雪にしがみついた。その腹に、熱が押し当てられる。

 夢の中で幼い陰茎を嬲った罪悪感から、永芳は大きさを確認するように、咄嗟にその熱を握ってしまった。

「あっ……! 兄さん、今触ったら……」

 余雪は唇を離すと、困った表情で永芳を見た。咎めるように言うが、満更でもなさそうにはにかむ。
 永芳は決して、余雪を煽るために触れたわけではないのだが、手の中で脈打つ硬い熱に、どきどきと鼓動が高まった。

「雪児……挿れて欲しい」

 永芳は余雪の首に腕を回したまま、目を伏せて言った。

「でも……まだ無理だよ」

 永芳の中は、指一本挿れるのが精一杯で、それも動かせないくらいぎちぎちと締め付けている。

「入るところまででいい」

 永芳は仰向けになると、おずおずと膝を立てた。手で秘所を覆い、顔を背けて目をきつく瞑る。
 自分から陰部を晒しながらも恥じらういじらしさに、余雪は音を立てて唾液を飲み込んだ。永芳の脚の間に座って、覆っている手をそっと払うと、永芳は素直に退けた。手の下に隠れていた陰茎は、勃ち上がって汁を漏らしていた。
 余雪は自身のものを握り、体を屈めて永芳の上に覆い被さる。後ろに熱が押し当てられると、永芳は確認するように、接した部分へ指を這わせた。

「ああ…………兄さん、駄目だ。全然入らないよ……」

 余雪は背中を丸めて、泣きそうな声を漏らした。
 先走りで濡れた先端は中には入らずに、ぐちぐちと音を立てて肌の上を滑る。
 永芳は熱い楔をそっと握ると、先端を中に埋めた。
 ほんの一分(約三ミリメートル)程の熱を中に感じただけで、永芳の陰茎から先走りがどろっと垂れた。

「雪児……早く一つになりたい」

 願ってもどうしようもないことが、思わず口から溢れる。
 性欲だけじゃなく、かつて拒んだことへの償いでもなく、身も心も余雪と結ばれたいと、永芳は切実に思った。
 余雪は何度も頷きながら、体を震わせて精を吐いた。勢いよく放たれた種の大半は、永芳の股を汚しただけだったが、一部は僅かながら中に注がれた。
 その熱さに、永芳も吐精する。

 しどけなく横たわり、下腹部を汚した姿に興奮したのか、余雪は呼吸も整わぬ間に再び永芳の上に覆い被さった。
 若くて精力旺盛な余雪は、食事も摂らずに夜が更けるまで永芳の体を貪った。
しおりを挟む

処理中です...