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侶鶴の片割れ1

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 顔に降りかかる水滴で目を覚ました。
 鬱蒼と茂る樹々の隙間を縫って、ぽつぽつと落ちる水滴は、すぐに礫のような大粒となって、余雪の肌を打ちつけた。
 余雪は草の上に仰向けに横たわったまま、目を閉じて雨に濡れた。
 指先すら動かせないほど疲れ切った余雪にとっては、恵みの雨だった。

 雨粒が木の葉に当たるたびに、バチバチと音を立てるほど激しい雨だったが、春も終わりに近づいており、濡れたところで寒さは感じない。
 余雪はひび割れた唇を開けて、喉を潤した。
 水分を摂ったことで、朦朧とした意識が徐々に晴れる。わずかに残る内力を慎重に巡らせると、疲れや痛みが和らいでいくのを感じた。
 疲れては眠るのを繰り返しながら、余雪は数日後にようやく体を起こした。

 飛鶴派は外功より内功を重んじる派閥だが、余雪は幼い頃から内功が苦手だった。
 元々血の気が多い性格で雑念も強く、心を無にして静かに鍛錬するということができない。
 だが今は余計なことを考える気力もなく、命を繋ぐために、ただ自分の体に残る内力に集中せざるを得なかった。
 怪我のせいで内力のほとんどを失ってしまったが、結果的にはそれも功を奏した。
 永芳の教えを忠実に守り、一から内功を鍛えることで、起き上がれるようになる頃には、余雪は今まで感じたことのないような力の漲りを覚えた。

 山奥に迷い込んでしまったかと思っていたが、老人の小屋は飛鶴派本山にほど近い山中にあったようで、人里までさほどの距離はない。
 気力が戻って、思い出したように空腹を覚えた余雪は、山の中腹に広がる畑まで下りて、何か食べられるものを掻っ払ってこようかと思案した。

 ──いや、そんなことをしたら、兄さんに叱られる……

 思い直した余雪は、仕方なく木の実や草を食べながら山を下りた。






 道場があった場所は、見渡す限り全てが灰となっていた。
 燃え殻を踏み締めながら、自分が暮らしていた名残りが僅かでも残っていないか、焼け跡を隅々まで探す。
 何度も往復し、夕陽が辺りを赤く染めるのに、ようやく我に返った。
 自分の影だけが、焼け跡に長く伸びている。
 誰もいない、何もない周囲を見回して、余雪はようやく自分が一人ぼっちになってしまったのだと実感した。

 余雪はみなしごではあるが、福州では同じ境遇の浮浪児たちと一緒に暮らしていたし、飛鶴派に入門してからも、多くの同門と共同生活を送ってきた。
 何より、どんな時でもそばにいて守ってくれた永芳が、今はもういない。

 余雪は焼け跡に膝をつくと、炭で汚れるのも構わず黒い地面に蹲った。
 噛み締めた唇から、嗚咽が漏れる。
 泣き崩れる余雪の声を聞く者は、誰もいなかった。
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