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黄世楊1
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余雪は遠のく意識の中で、負ぶわれた背中から伝わる呼吸を感じた。
その穏やかな呼吸に合わせて、自らの浅く細い呼吸が落ち着いていく。
幼い頃、もう歩けないと駄々を捏ねて永芳の背中に負われた時と同じだった。
──兄さん、無事だったんだね……
張り詰めていた緊張が解けた余雪は、自分より小さな背中に体を預けて意識を失った。
目覚めた時、あたりは真っ暗だった。
どこかの山小屋のようだが、暗過ぎて何も見えない。外では虫の鳴き声や獣の遠吠えが響いている。
起きあがろうとしたものの、ふらついてもう一度床に倒れ込んだ。意識していなかった傷の痛みが突如として現れ、苦しさで息が詰まる。
「気が付いたか」
手燭の灯りとともに、部屋の奥から一人の老人が現れた。起きあがろうとする余雪を手で制して、その体の横に腰を下ろす。
その姿に、余雪はぎょっとした。
白髪混じりの髪も髭も伸び放題で、着ているものはぼろぼろだった。薄明かりに浮き上がるその姿は妖魔か幽鬼のようにも見えたが、ずんぐりした体型に恐ろしさはなかった。
──こんな汚ねえおっさんと兄さんを間違えたのか……
余雪は痛みを堪えながら、老人を見た。
見た目は異様だが、呼吸法から飛鶴派の先輩だろうということはわかった。そして、その呼吸法一つとっても、永芳はおろか任家杰にも劣らない実力であることは明白だった。
余雪はよろよろと体を起こして抱拳した。
「……飛鶴派の、先輩と…………お見受けします。このような……挨拶しかできず、申し訳……ございません……」
息を切らしながら、余雪は掠れた声を絞り出した。
「無理しなくてよい。横になってゆっくり休め」
老人は手を払う仕草をして、余雪へ寝るように指示した。
余雪は礼儀に気を遣う余裕もなく、バタンと床に倒れ込むと、意識を失うように再び眠った。
次に目覚めた時は夕刻だった。
どれだけ日数が経っているかもわからない。
胸の傷には布が巻かれていた。痛みはあるが、命に支障がある様子はなかった。
あの時は確かに、魔教の剣が寸分違わず心臓を貫くかと思えた。
内力のこもった一撃を向けられて避ける暇もなかったが、余雪の胸に突き刺さる寸前に、僅かに軌道がずれたように感じた。
おそらく、あの老人が小石か何かを咄嗟に剣にぶつけたのだろう。
「起きたか」
音もなく部屋に入ってきた老人へ、余雪は起き上がって礼をしようとするが、手で押し留められた。
「腹が減っているだろう」
老人は余雪の前に、ドンッと腕を置いた。
生臭い匂いに顔を顰めて中を覗き込むと、どす黒い血が並々と注がれていた。
「お前は随分血を失ったから、それを飲むといい」
いいわけないだろう! と叫びたいものの、気力がない余雪はしゃべることもままならない。しかも相手は飛鶴派の大先輩で、命の恩人である。
余雪は震える手で腕を掴むと、何の血かわからないものを息を止めて飲み干した。
その穏やかな呼吸に合わせて、自らの浅く細い呼吸が落ち着いていく。
幼い頃、もう歩けないと駄々を捏ねて永芳の背中に負われた時と同じだった。
──兄さん、無事だったんだね……
張り詰めていた緊張が解けた余雪は、自分より小さな背中に体を預けて意識を失った。
目覚めた時、あたりは真っ暗だった。
どこかの山小屋のようだが、暗過ぎて何も見えない。外では虫の鳴き声や獣の遠吠えが響いている。
起きあがろうとしたものの、ふらついてもう一度床に倒れ込んだ。意識していなかった傷の痛みが突如として現れ、苦しさで息が詰まる。
「気が付いたか」
手燭の灯りとともに、部屋の奥から一人の老人が現れた。起きあがろうとする余雪を手で制して、その体の横に腰を下ろす。
その姿に、余雪はぎょっとした。
白髪混じりの髪も髭も伸び放題で、着ているものはぼろぼろだった。薄明かりに浮き上がるその姿は妖魔か幽鬼のようにも見えたが、ずんぐりした体型に恐ろしさはなかった。
──こんな汚ねえおっさんと兄さんを間違えたのか……
余雪は痛みを堪えながら、老人を見た。
見た目は異様だが、呼吸法から飛鶴派の先輩だろうということはわかった。そして、その呼吸法一つとっても、永芳はおろか任家杰にも劣らない実力であることは明白だった。
余雪はよろよろと体を起こして抱拳した。
「……飛鶴派の、先輩と…………お見受けします。このような……挨拶しかできず、申し訳……ございません……」
息を切らしながら、余雪は掠れた声を絞り出した。
「無理しなくてよい。横になってゆっくり休め」
老人は手を払う仕草をして、余雪へ寝るように指示した。
余雪は礼儀に気を遣う余裕もなく、バタンと床に倒れ込むと、意識を失うように再び眠った。
次に目覚めた時は夕刻だった。
どれだけ日数が経っているかもわからない。
胸の傷には布が巻かれていた。痛みはあるが、命に支障がある様子はなかった。
あの時は確かに、魔教の剣が寸分違わず心臓を貫くかと思えた。
内力のこもった一撃を向けられて避ける暇もなかったが、余雪の胸に突き刺さる寸前に、僅かに軌道がずれたように感じた。
おそらく、あの老人が小石か何かを咄嗟に剣にぶつけたのだろう。
「起きたか」
音もなく部屋に入ってきた老人へ、余雪は起き上がって礼をしようとするが、手で押し留められた。
「腹が減っているだろう」
老人は余雪の前に、ドンッと腕を置いた。
生臭い匂いに顔を顰めて中を覗き込むと、どす黒い血が並々と注がれていた。
「お前は随分血を失ったから、それを飲むといい」
いいわけないだろう! と叫びたいものの、気力がない余雪はしゃべることもままならない。しかも相手は飛鶴派の大先輩で、命の恩人である。
余雪は震える手で腕を掴むと、何の血かわからないものを息を止めて飲み干した。
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