ソールレイヴ・サガ

kanegon

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●新たな海賊王

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「海賊王に、俺は、なった!」
 岩の上に立った男が兜を脱いで高らかに宣言した。男が連れてきた取り巻きの海賊たち、目出し兜を被ったヴァイキングたちが歓呼の声を挙げる。それは、この民会の場に集まった地元の男たちの間にも広まっていった。意味をなさなかった喜びの声はやがて、「オーラヴ王、オーラヴ王」と新たな王を讃える連呼へと変わっていった。
 ソールレイヴもまた、男たちの熱狂に染まって、背伸びしながら必死にオーラヴ王の名を繰り返し叫んでいた。
 新たな王。それは、これからの新しい時代の始まりを告げるものだ。さながら神々の黄昏の後の荒れ果てた大地から、若い新緑が芽生え始めるように、この先の未来に対して漠然とではあるけれども良いことが起こるような気がしてきた。ソールレイヴは十六歳という若さで張りつめた胸の高鳴りを押さえられなかった。
 岩の上のオーラヴ王が片手を挙げた。まるで、巫女が聴衆に対して静聴を求める時のように、男たちの歓呼の声は干潮のように引いていった。
「俺は、あの、女好きハーコン侯をこの手で倒した。雪と森と峡湾(フィヨルド)の国ノルウェーの新たなる支配者に、俺はなったのだ」
 またも男たちの間から「おお」と歓声が立ち昇った。オーラヴ王の取り巻きの荒くれ者たちの声につられて、ではない。地元の男たちの間から、自ずと発生したのだ。その声は大きかったが、短くすぐに消えた。皆、オーラヴ王の次の言葉を待つ。
「女の尻ばかり追いかけてまともな統治をしていなかったハーコン侯とは違い、俺は、ハラルド蓬髪王の血を引く正統なノルウェー王として、より強大な国にして行くことを宣言する」
 ソールレイヴも他の男たちも、胸を高鳴らせながらオーラヴ王の演説を聴いている。
「行く行くは、勇士の国ウホルノの全てを支配下に置くようにも、なってみせる」
 聴衆の男たちは一転して、怪訝そうな表情でお互いに顔を見合わせた。勇士の国ウホルノとは、聞き覚えの無い地名だったのだ。
 しかし、身近な人々から若き賢者と呼ばれているソールレイヴは、知識があった。
「勇士の国ウホルノとは、スカンジナヴィアのことだよ。オーラヴ王は、いずれスカンジナヴィアを統一するって言っているんだよ」
 ハシバミ色の瞳を輝かせたソールレイヴの言葉に、隣に立っていた男が反応した。
「それってつまり、スウェーデンを支配するってことか」
「そうだね。スカンジナヴィア統一ってことは、そうだろと僕は解釈するね」
 スカンジナヴィア。スカンジナヴィア!
 ソールレイヴの立っている位置を起点として、スカンジナヴィアという地名が波紋のように民会参加者の間に広がっていく。それを見計らって、オーラヴ王が言葉を継ぐ。
「海賊王として力での支配地域拡大を行うのは当然として、政治的手法も使う。戦士はただ戦いが強いだけでは駄目だ。詩を詠むことにも長けていなければならない。それと同じことだ」
 オーラヴ王の力強い演説は更に続く。
「俺は、この秋の民会において、この地の者たちから新たなノルウェー王として承認されたら、スカンジナヴィアの北辺を更に北へ、北東へ海岸沿いに進んで行く。そちらでも民会を開き、俺をノルウェー王として承認させ、忠誠を誓ってもらう。本当に雪と氷しか無くて、漁師も詩人も誰一人住んでいないようなソグンの地の北の果てまで、ノルウェーの版図を拡大するのだ」
 ソグンもまたスカンジナヴィアの別称である。スカンジナヴィアは北東から南西に向かって伸びている、細長い形をしている大きな半島だ。その長い北辺をノルウェーの支配下として組み込もうとしているのだ。
「そのためには拠点が必要だ。王の権威を象徴し、また、峡湾の民たるヴァイキングの行商人が集まり交易を行うことができる、そして軍船が多数集結することができて補給や修理をすることができる、そんな新たな町を造成し、そこを新しい首都とする」

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