私だけの神様

帳ツキミ

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Episode01「かみさま」

06◇私だけの神様

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あなたは、まるで…神様だった。

私にとって、私だけの…神様。

毎晩祈り続けていた。
「どうかわたしを助けてください」って…。
そんなことは、無意味だって思いながらも…祈ることをやめられなかった。

それが、今…叶おうとしているんだ。

「…人でなくても、いい、です。ただ私は、一人が嫌でした。苦しいのが嫌でした。だから、生きることから…逃げたかった、だから…死――」

そこまで言いかけた時、まるでその続きは言わせないとでも言うように彼の唇で塞がれてしまう。

「ん…っ、ふ、う…」

涙が止まらない。でもこれは…悲しい涙じゃなかった。
うれしくて、うれしくて、たまらなかったんだ。

私は、ようやく救われた。

ずっと一人で苦しみながら生きていくものだと思っていた。
だけど、こんな風に救い出してもらえたんだと…………私は初めて理解することができたのだ。

「ごめんね……。でも、君に生きて欲しかったんだ。たとえ人でなくなったとしても」

再び、今度は触れるだけの優しいキス。けど、そんな彼の表情は今にも泣きだしそうなほど歪んでいた。

「…君を見かけた時、君の寿命を知って…気が付いたら…君を抱きとめていた。なぜだろうね、今まで人間に関心なんて持ったことはなかったのに… まるで、君の心の叫びが聞こえるようで…迷いはなかった」

ぎゅうっと私を抱きしめる手に力が籠る。その手が少し震えていることに気が付いて私は安心させるかのようにそっと彼の手を握り返す。

すると、彼の方もそろそろと私の背中に手を回して抱きしめてくれる。

「俺は……神でもなんでもない、魔法も万能ではないんだ。……今の君は、着々と人ではなくなってきてる。この治療がすべて終わった時、君は…魔女になるだろう。もう、人の世界には戻れない。それでも…それでも、いいの?」

私は黙り込むとこくりと無言で首を縦に振る。私は、この人と一緒に生きたいと思った。
ただそれを選んだ。それのどこが悪いのか分からなかったから。

(私には何もなかった……。親はさじを投げ、薬漬けで苦しむ私を見ようともしなかった。これから先の未来も……あのままならきっと絶望のそこに沈む一方だったと思う。でも…)

それなら、それが「人間らしい生き方」だっていうなら、化け物だっていい。魔女だって構わない。…この人の隣で生きてみたい。そう、心から思えたんだ。

私は、何も言わず少年の唇に自分の唇を重ねる。驚いた顔をした彼だったけど、すぐに目を閉じて私の腰を抱くと優しくベッドの上に押し倒した。

何度も何度も繰り返される甘い接吻に私は溺れていった。

私は……私は幸せになれると思った。
ずっとこの先も、こうして幸せな日々を過ごしていけるって思ったんだ。

根拠も何もない、でもそんなものはもう…どうでもいいとさえ思えた。
この人のことが…好きになっていたんだ。

この人が私を救ってくれた。

だから、この人が望むなら私は何者にだってなってやる。

私は……この人の為なら、なんだってできる。

……だから、お願い。神様、どうか私からもうなにも奪わないでください。


を、奪わないで。
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