私だけの神様

帳ツキミ

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Episode01「かみさま」

04◇人間として

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◇◇◇

再び目を覚ますと、窓の外には夜空に瞬く星が輝いていた。
どうやら結構な時間眠り込んでしまったらしい。

「……あれ、私……」

体を起き上がらせようとした時、自分がいつの間にかパジャマを着ていることに驚いた。
……着替えた覚えはないのだけれど……。

そこで改めて部屋の中を見渡した。

すると、違和感に気が付く。朝見た時と内装が違う…、気がする。
形は似てるけど家具も内装に合わせて変わっているように思えた。

「おはよう」

聞き覚えのある声にぱっと声がした方へ顔を向ける。
そこにはベッドの足元のあたりに腰を下ろし微笑む少年がいた。
手元には分厚い本。読書…していたのかな。

「体調はどう?」

聞かれる言葉があまりにも普通過ぎて思わず首を傾げてしまう。

体調? なんで? 私……どうしたんだっけ。………………そうだ。そういえば私は―――――っ!?

「――ッ! ごめんなさ、……私! あ……の……!……えぇと……」

慌てて飛び起きて、頭を下げる。

そういえば私、食事の途中で眠っちゃったんだった…!それにスープは? ちゃんと飲めたのだろうか?

「あー大丈夫、気にしないで」

……けれど彼は何でもないように笑っているだけだった。
私が困惑気味に見つめると、くすりと笑ってこちらに近づいてきた。

「お腹いっぱいになったでしょ?」
「え…………、はい……それはもう……。…………あの、それで……私どれくらいの間寝ていたんですか……?」

私のその問いに、彼は笑顔のままこう言った。

「んー、1日半くらいかな? あれは、そういう食事だから」
「そういう…食事…?」
「キミ、いったいどんな生活していたらあんな体になるの?内側、もうボロボロ。普通は病院で何年も入院したっておかしくないレベルだったよ」
「…!」

少年の発言に、思わずビクッと体を震わせる。

「…それ、は…」

まるで、首元をつままれたような気分だった。

そう、私は…逃げ出してきたのだ。あの、白い檻から。
…もう嫌だった。まるで無理やり生かされているような薬漬けの日々。薄っぺらい笑顔と言葉を並べる白衣の人たち。

…………今更のように湧き上がってくる苦渋の日々と恐怖がじわりと滲み出てくる。そんな様子を見兼ねたように、彼の手がそっと頬に触れた。

「大丈夫、怖がらないで」

(…………この声だ。あの時も私はこの声を聴いてひどく…安心したんだ。まるで…神様に出会えたような…そんな感覚)

「……もう、嫌です…。私、死にたかった。もう、あんなのは嫌だった……っ 毎日毎日副作用で眠れなくて、いっぱい吐いて、薬は増えてく一方で…っ」

あんなのは、人間の生き方じゃなかった。
涙が、両目からこぼれる。ぼたぼたと、こぼれるたびにシーツにシミを作る。

そうだ。私は…死に場所を探していたんだ。誰にも見つからずに、私が「人らしく」終われる場所を…探していた。
そして…、この少年に出会った…。
(あれ… でも私… 眠って…いた…?)
少年の暖かな手が、私の頬を包みゆっくりと顔を上げるように傾けた。

「……人は、嫌かい?」
「…あなたは…一体、なに……?」

彼の瞳には、何もかもを見通すかのような不思議な輝きがあった。

「俺は魔法使い。……さぁ目を閉じて? …治療の時間だ」

そうしてまた口付けをされた。……不思議と抵抗しようとは思わなかった。
ただ彼に言われるままに、私は彼の目を真っ直ぐに見据えたまま静かに目を閉じた。
すると、内側からなにか重いものが晴れていくような、整えられていくような…不思議な感覚を覚えた。

「あ、んぅ……っ」

そして、唇が離れたかと思うと同時に体が…ビクビクと痙攣する。呼吸が…荒くなる。
思わず、少年の肩にしがみつく。

「は、ぁ…っ? なに、これ… こわい、あぅ…っ」
「…今、君の体は俺の魔法で内側から作り替えられているんだよ。でもただそれだけ… これも一種の副作用かな」
「ふく…さよう…」

体が熱い、胸が苦しい、震えが止まらない…でも、私が今まで受け止めてきた副作用とは全然違う。甘く、しびれる…。

「君が望めばいつでも治せるんだけどね? でも、これは必要なことで、やるべきことだと思ってる。だから今日一日はこのまま過ごす。いいよね?」

私の体をベッドに横たえて、彼が優しく髪を撫でてくれる。その仕草に……なぜだか無性に安心してしまう。
こんなのはダメだと分かっているのに……。

「や、ぁ……」

ふるふると首を横に振り、少年の首にぎゅう…と抱き着く。ダメだとはわかっていても、今は彼の熱が欲しかった。
無意識に、私の体が…欲していた。

肌に彼の服の布地がこすれると、全身がビクンっと震える。だけど、離れたくない。離れられなかった。
すると彼は少し困った顔をしながらも、再び私を抱きしめ返してくれた。

「さ、もう少しお休み。君が落ち着くまで一日中こうして…そばにいるから」

そう耳元でささやくと、少年はちゅっと私の耳たぶに優しく口づけをする。
すると体の奥の方からじんわりとした暖かいものが広がるような心地になった。

(どうしてだろう……とても落ち着く……。この人……優しいだけじゃない……)

私はもう、あの白い世界へは戻りたくはなかった。この温もりを知ってしまったらもう…戻れない……きっと……。
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