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似ている顔 2011/4/1
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「パラレルワールドって知ってるか?」
「パラ…?」
唐突な耳慣れない言葉に、突然すぎてオウム返しすら満足にできない。
「パラレルワールド。並行世界って書いたりもするな。世界は今俺たちがいるこの一つだけじゃなくって、並行して、たくさんあるんだってやつ。例えば俺がお前と知り合いですらなかったり、逆に、恋人になってたり、俺が女の世界もあったり?」
「何それ」
「まあ、そういう説があるんだよ。小説とかでは結構見るけど、実際にも真面目に研究してる人いるかもな? SFとかって、結構実際にある研究を元に膨らませてるんだしさ。俺はそのへん、よく知らないけど」
「ふうん、そうなんだ」
「そうなんだよ」
話しながら、私たちはお互いを見ない。私はじっと写真を見ていたし、声の向きから、こちらを見ていないことも判る。
きっと優しさなんだろうなと、今こうやって妙な話を振ってきたことすらも含めて、思う。こいつの優しさはいつだって、回りくどすぎて逆に真っ直ぐだ。なんて恥ずかしいヤツ。
「そうやって考えるとさあ、ちょっと面白いよな。俺ではないんだろうけど俺が、別のところにいて、こっちでメチャクチャへこんでてもそっちではお気楽に元気いっぱいかもしれないとかさ」
「腹立ちそうだよ、あたしが苦労してる分向こうがいい目見てるんじゃないの、とか」
「うわー心狭いなお前。いいじゃんそこは上から目線で。俺のおかげでそんだけ幸せでいられんだぜそっちの俺、みたいな」
「ええ? それって上から目線? ていうか、じゃあ、いいことあったら別のあたしのおかげなの?」
「そこは自分のおかげでいんじゃね?」
「いい加減ー」
「当たり前だ。こんなの真面目に考えたら、悟り開けるっつの」
「それは何か違うと思う」
まるで空き時間に、何もすることがなくてただ喋っているような会話。だからこそ、喋っていられるのだろう。
「違うかあ?」
「違うよ」
「…まあ、それは置いといて」
こほんと、小さな咳払い。話が横道に逸れすぎない。そこは、ああ男の子だな、と思う。女の人同士の話だと、結構、どうしてこんな話になったんだった?という飛躍が多い。しかも、それを気にしない。むしろ、それを楽しんでいるのだから。
そもそもとりとめのない会話に筋道を立てようとする時点で、違う生き物だなあと思う。
「パラレルワールドがあったとすると、だ」
「はいはい」
「俺がいなくなってもそっちでは何の問題もなく生きてるかもしれない」
ああ、馬鹿だなあ。本当に。
「ないよ」
「あったとしたら、だ」
「あっても、そっちのあたしはこっちのあたしとは違うんでしょ。あんたはあんたじゃないし、大体、会いにも行けないのにいたからってどうなるの」
「どっか遠くで生きてて、ただ会えないだけなんだって、もしかしたらもう一生会わないかもしれないけど、でもきっとどこかで生きてんだって、そう思うだけでも」
「ないよ」
そっか、と呟きが落ちる。そっかそうだよなあ、と続いた声は、明るさが空々しかった。
短い沈黙を置いて、ごめん、ときた。俺、そろそろ行くわ、と、立ち上がる音と気配がする。
「またな」
「うん」
やっぱりあたしは写真を見たままで、どうしてこういう写真って黒縁にしちゃうんだろうなあ、ああそっか他の色にしたらただの写真立てじゃない、などと間の抜けたことを思った。
からり、と襖の開く音がする。
「ねえ」
「…何?」
「あんたがいなくなったときは、思い出すよ。あの馬鹿どうやってか、えーと…」
「パラレルワールド?」
「うん。そっちに行っちゃったんだろうな、って。馬鹿だから絶対、帰る方法考えてなくってそのままになっちゃったんだろうなーって、思っとくよ」
「何でそう、お前の中の俺評価って馬鹿前提なんだよ?」
「だって馬鹿だし」
ふ、と笑う。
きっとその笑顔はこの写真にそっくりで、だからあたしは、意地でも振り返れない。だって、それは今のあたしには残酷すぎる。
あの人じゃないあの人がそこにいるなんて。
「俺が馬鹿なら、兄貴も馬鹿だったよ。今ごろ、戻る方法探してるんだろ」
「そこまで言い張るなら、そういうことにしといたげてもいいよ」
「すっげー上から目線」
そうして、今度こそ出て行った。
「本当に、そうだったらいいのにな」
ぽつんと、呟きがこぼれる。そんなことはないんだろうけど、もしもそうだったらいいのに。それは、すべてが嘘だったらいいのに、と、願うのに似ていた。
「パラ…?」
唐突な耳慣れない言葉に、突然すぎてオウム返しすら満足にできない。
「パラレルワールド。並行世界って書いたりもするな。世界は今俺たちがいるこの一つだけじゃなくって、並行して、たくさんあるんだってやつ。例えば俺がお前と知り合いですらなかったり、逆に、恋人になってたり、俺が女の世界もあったり?」
「何それ」
「まあ、そういう説があるんだよ。小説とかでは結構見るけど、実際にも真面目に研究してる人いるかもな? SFとかって、結構実際にある研究を元に膨らませてるんだしさ。俺はそのへん、よく知らないけど」
「ふうん、そうなんだ」
「そうなんだよ」
話しながら、私たちはお互いを見ない。私はじっと写真を見ていたし、声の向きから、こちらを見ていないことも判る。
きっと優しさなんだろうなと、今こうやって妙な話を振ってきたことすらも含めて、思う。こいつの優しさはいつだって、回りくどすぎて逆に真っ直ぐだ。なんて恥ずかしいヤツ。
「そうやって考えるとさあ、ちょっと面白いよな。俺ではないんだろうけど俺が、別のところにいて、こっちでメチャクチャへこんでてもそっちではお気楽に元気いっぱいかもしれないとかさ」
「腹立ちそうだよ、あたしが苦労してる分向こうがいい目見てるんじゃないの、とか」
「うわー心狭いなお前。いいじゃんそこは上から目線で。俺のおかげでそんだけ幸せでいられんだぜそっちの俺、みたいな」
「ええ? それって上から目線? ていうか、じゃあ、いいことあったら別のあたしのおかげなの?」
「そこは自分のおかげでいんじゃね?」
「いい加減ー」
「当たり前だ。こんなの真面目に考えたら、悟り開けるっつの」
「それは何か違うと思う」
まるで空き時間に、何もすることがなくてただ喋っているような会話。だからこそ、喋っていられるのだろう。
「違うかあ?」
「違うよ」
「…まあ、それは置いといて」
こほんと、小さな咳払い。話が横道に逸れすぎない。そこは、ああ男の子だな、と思う。女の人同士の話だと、結構、どうしてこんな話になったんだった?という飛躍が多い。しかも、それを気にしない。むしろ、それを楽しんでいるのだから。
そもそもとりとめのない会話に筋道を立てようとする時点で、違う生き物だなあと思う。
「パラレルワールドがあったとすると、だ」
「はいはい」
「俺がいなくなってもそっちでは何の問題もなく生きてるかもしれない」
ああ、馬鹿だなあ。本当に。
「ないよ」
「あったとしたら、だ」
「あっても、そっちのあたしはこっちのあたしとは違うんでしょ。あんたはあんたじゃないし、大体、会いにも行けないのにいたからってどうなるの」
「どっか遠くで生きてて、ただ会えないだけなんだって、もしかしたらもう一生会わないかもしれないけど、でもきっとどこかで生きてんだって、そう思うだけでも」
「ないよ」
そっか、と呟きが落ちる。そっかそうだよなあ、と続いた声は、明るさが空々しかった。
短い沈黙を置いて、ごめん、ときた。俺、そろそろ行くわ、と、立ち上がる音と気配がする。
「またな」
「うん」
やっぱりあたしは写真を見たままで、どうしてこういう写真って黒縁にしちゃうんだろうなあ、ああそっか他の色にしたらただの写真立てじゃない、などと間の抜けたことを思った。
からり、と襖の開く音がする。
「ねえ」
「…何?」
「あんたがいなくなったときは、思い出すよ。あの馬鹿どうやってか、えーと…」
「パラレルワールド?」
「うん。そっちに行っちゃったんだろうな、って。馬鹿だから絶対、帰る方法考えてなくってそのままになっちゃったんだろうなーって、思っとくよ」
「何でそう、お前の中の俺評価って馬鹿前提なんだよ?」
「だって馬鹿だし」
ふ、と笑う。
きっとその笑顔はこの写真にそっくりで、だからあたしは、意地でも振り返れない。だって、それは今のあたしには残酷すぎる。
あの人じゃないあの人がそこにいるなんて。
「俺が馬鹿なら、兄貴も馬鹿だったよ。今ごろ、戻る方法探してるんだろ」
「そこまで言い張るなら、そういうことにしといたげてもいいよ」
「すっげー上から目線」
そうして、今度こそ出て行った。
「本当に、そうだったらいいのにな」
ぽつんと、呟きがこぼれる。そんなことはないんだろうけど、もしもそうだったらいいのに。それは、すべてが嘘だったらいいのに、と、願うのに似ていた。
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