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セカイノオワリ 2007/12/27
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青い空には雲ひとつなく、とても晴れやかに、気持ち良さそうに晴れ渡っていた。初冬の寒気も日差しに緩和されて、結構心地いい。
――こんな世界なんて滅びたらいい。
唐突に浮かんだ思いに、ぎょっとして、でも次に納得した。ああ、うん、そんなものかも知れない。
「今、何考えた?」
右手側から声がした。しっくりと耳に馴染む。
ちらりとそちらを見ると、あたしによく似た顔の主が、一段高くなった縁に腰掛けている。その背面は強いて言うならば空気で、うっかりバランスを崩そうものなら、落下するだろう。
屋上からの転落死。校舎の屋上は勿論立ち入り禁止なのだけど、鍵を拾って入ったというのは、学校側の管理不備になるのだろうか。だとしたら、少し気の毒だ。
「こんな世界なんて滅びたらいい」
「へえ」
心に浮かんでいた言葉をそっくり声に出すと、彼は、興味深げな声を返した。
そちらを向くと、にやりと、人の悪そうな笑みが浮かんでいると判る。似たような顔なのに、こんな表情が似合うってどうだ。
「手っ取り早い世界の滅ぼし方を教えてやろうか?」
「例えば?」
「飛び降りればいい。死んでしまえば、世界は終わるだろう?」
「世界の中心は私だ、って?」
「人間は、自分を通してしか世界を認識できないものさ。極論、思い描いている世界なんて代物は、自分の中でだけつくられたもの。それなら、自分が終われば、必然、世界も終わる」
軽やかに、日常会話には微妙に出てきそうにない単語や言い回しをぽんぽんと使ってくる。それでも脳内変換に戸惑わないのは、慣れか。
もし彼があたしの想像の産物だったりすれば、この光景は、結構シュールかもしれない。一人で会話をしている。もっとも、よく似た顔が並んでいるのもシュールだ。
深々と、溜息が落ちた。
「あのさ? 暇つぶしに、妹を自殺に導かないでくれる?」
今はテスト期間中の放課後で、試験と三者面談を組み合わせるなんていう思い深い学校側の決定により、あたしは時間をもてあましていた。勉強をすればいいのに、なんとなくそれも手につかない。
多分、そんな憂鬱加減があんなことを思わせた。面倒でしんどくて、ぱかりと突然に世界に終止符が打たれれば、何も考えなくていいから楽なのにとか、多分、そんな思考の末に。
でも、別段死にたいわけではなくて。その上、あと一週間で世界が滅びるなんて言われれば、あたしは目一杯自分の生と世界の存続を望むのだろうし。
睨みつけた先で、一つ年長の兄は、ふふんと鼻で笑った。
「付き合ってやってるだけありがたく思え」
「自分だって、面談までの時間つぶしの癖に。勉強しろ、馬鹿兄」
「世界を終わらせようと目論んでる身内を置いてか? 後々後ろ指を差されることになるのは厭だぞ」
「思ってないっての」
ふん、と目を逸らし、ぼんやりとする。ああ、何だかのどかだ。
だから――のどかなまま、全てが終わればどれだけ幸せだろう。
――こんな世界なんて滅びたらいい。
唐突に浮かんだ思いに、ぎょっとして、でも次に納得した。ああ、うん、そんなものかも知れない。
「今、何考えた?」
右手側から声がした。しっくりと耳に馴染む。
ちらりとそちらを見ると、あたしによく似た顔の主が、一段高くなった縁に腰掛けている。その背面は強いて言うならば空気で、うっかりバランスを崩そうものなら、落下するだろう。
屋上からの転落死。校舎の屋上は勿論立ち入り禁止なのだけど、鍵を拾って入ったというのは、学校側の管理不備になるのだろうか。だとしたら、少し気の毒だ。
「こんな世界なんて滅びたらいい」
「へえ」
心に浮かんでいた言葉をそっくり声に出すと、彼は、興味深げな声を返した。
そちらを向くと、にやりと、人の悪そうな笑みが浮かんでいると判る。似たような顔なのに、こんな表情が似合うってどうだ。
「手っ取り早い世界の滅ぼし方を教えてやろうか?」
「例えば?」
「飛び降りればいい。死んでしまえば、世界は終わるだろう?」
「世界の中心は私だ、って?」
「人間は、自分を通してしか世界を認識できないものさ。極論、思い描いている世界なんて代物は、自分の中でだけつくられたもの。それなら、自分が終われば、必然、世界も終わる」
軽やかに、日常会話には微妙に出てきそうにない単語や言い回しをぽんぽんと使ってくる。それでも脳内変換に戸惑わないのは、慣れか。
もし彼があたしの想像の産物だったりすれば、この光景は、結構シュールかもしれない。一人で会話をしている。もっとも、よく似た顔が並んでいるのもシュールだ。
深々と、溜息が落ちた。
「あのさ? 暇つぶしに、妹を自殺に導かないでくれる?」
今はテスト期間中の放課後で、試験と三者面談を組み合わせるなんていう思い深い学校側の決定により、あたしは時間をもてあましていた。勉強をすればいいのに、なんとなくそれも手につかない。
多分、そんな憂鬱加減があんなことを思わせた。面倒でしんどくて、ぱかりと突然に世界に終止符が打たれれば、何も考えなくていいから楽なのにとか、多分、そんな思考の末に。
でも、別段死にたいわけではなくて。その上、あと一週間で世界が滅びるなんて言われれば、あたしは目一杯自分の生と世界の存続を望むのだろうし。
睨みつけた先で、一つ年長の兄は、ふふんと鼻で笑った。
「付き合ってやってるだけありがたく思え」
「自分だって、面談までの時間つぶしの癖に。勉強しろ、馬鹿兄」
「世界を終わらせようと目論んでる身内を置いてか? 後々後ろ指を差されることになるのは厭だぞ」
「思ってないっての」
ふん、と目を逸らし、ぼんやりとする。ああ、何だかのどかだ。
だから――のどかなまま、全てが終わればどれだけ幸せだろう。
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