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2007/4/6
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国は、政によって動かされる。これは、そんな宮権をめぐっての聖俗入り乱れた諍いの物語――などでは、ない。
「やったぞ、飛雲!」
そう叫んで、この邸の主人は駆け込んできた。
朝は丁寧に撫で付けられ、束ねられていた髪は乱れ、まさか宮城から駆けてきたはずもないが、服もはだけ、息が弾んでいる。だが、祖母が西域の出だったという名残の薄色の瞳だけは逆に、恋人を見つけた色情魔のように輝いていた。
「飛ばされた、えーっとどこだ、済寧、雲南、龍場? まあいい、追って書状が来る。とにかく、この鬱陶しいところを離れられるぞ!」
「済寧と雲南と龍場って、全然違うじゃねーか。離れすぎだ。つか、左遷で喜ぶなんざ、中華広しと言えども、あんたくらいのもんだろーぜ」
「うん、雇い人に面と向かってそんなことを言う使用人も、君くらいだろう。さあ、用意を頼むよ」
「アンタさ、そんなに役人が厭ならやめちまえば?」
「何を言うんだ、飛雲。私は別に、役所の仕事は嫌いではないよ。そもそも、役所でだけ使う学問の才しかない私が、それ以外のどこで雇ってもらえると言うんだ」
「威張るな。あー、面倒くせェ」
こちらは主人とは違い、非の打ち所のない身なりをした碧い目の少年は、唯一口調だけはぞんざいに、てきぱきと算段を立てながら室を移ってしまう。歩きながらも、他の使用人に指示まで出して。ご苦労様。
そして、幸が薄そうなくせにいつも幸せそうな主人は、私に笑いかけた。
「君はどうする? 一緒に来てもらえると嬉しいんだけどね」
「にゃお」
さてどうするかなと、私は応えた。
登場するのは、権力階層の下の上から中の中辺りにいる木っ端役人と、それに仕える少年、天界の住人かと見まがうような、美猫。その外には、たくさんの人たちや妖、時には本当の天界の住人。
――つまりは、そんな話だ。
「やったぞ、飛雲!」
そう叫んで、この邸の主人は駆け込んできた。
朝は丁寧に撫で付けられ、束ねられていた髪は乱れ、まさか宮城から駆けてきたはずもないが、服もはだけ、息が弾んでいる。だが、祖母が西域の出だったという名残の薄色の瞳だけは逆に、恋人を見つけた色情魔のように輝いていた。
「飛ばされた、えーっとどこだ、済寧、雲南、龍場? まあいい、追って書状が来る。とにかく、この鬱陶しいところを離れられるぞ!」
「済寧と雲南と龍場って、全然違うじゃねーか。離れすぎだ。つか、左遷で喜ぶなんざ、中華広しと言えども、あんたくらいのもんだろーぜ」
「うん、雇い人に面と向かってそんなことを言う使用人も、君くらいだろう。さあ、用意を頼むよ」
「アンタさ、そんなに役人が厭ならやめちまえば?」
「何を言うんだ、飛雲。私は別に、役所の仕事は嫌いではないよ。そもそも、役所でだけ使う学問の才しかない私が、それ以外のどこで雇ってもらえると言うんだ」
「威張るな。あー、面倒くせェ」
こちらは主人とは違い、非の打ち所のない身なりをした碧い目の少年は、唯一口調だけはぞんざいに、てきぱきと算段を立てながら室を移ってしまう。歩きながらも、他の使用人に指示まで出して。ご苦労様。
そして、幸が薄そうなくせにいつも幸せそうな主人は、私に笑いかけた。
「君はどうする? 一緒に来てもらえると嬉しいんだけどね」
「にゃお」
さてどうするかなと、私は応えた。
登場するのは、権力階層の下の上から中の中辺りにいる木っ端役人と、それに仕える少年、天界の住人かと見まがうような、美猫。その外には、たくさんの人たちや妖、時には本当の天界の住人。
――つまりは、そんな話だ。
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