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それぞれの事情 2004/4/19
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「流、映画見に行かない?」
「いいよ。で、今度は何?」
放課後の、部室。
映画研究会(制作部)の部室は乱雑極まりなかったが、二年前、一人の新入部員が入って以来、それなりの清潔さと秩序を持つようになっていた。
そこで二人は、卒業制作の台本候補を読んでいたところだった。他にも二人、同様のことをしている部員がいる。
「これなんか面白いかと思うけど。三流アドベンチャー」
「いや、じゃなくて」
近くの映画情報誌を取って、広げる卓真に、コメディーの台本を手にしたまま、紅葉は手を振った。
「何が目的? 誰に引き合わされる?」
「何だよそれ、まるで俺が企んでるみたいに」
「へえ、じゃあ今までのは企んでなかったのか? 元の彼女とお茶したり、断ったのにつきまとってきてた女の子と会ったり、挙げ句の果てには許嫁候補とまで会ったり。あれは?」
「いや…まあ、そりゃあ少しは…」
口ごもる卓真を睨み付けて、やっぱり、と、紅葉は息を吐いた。しかし、本当に怒っている風ではない。
「別に誰に会わせられようといいけどさ、どうせなら、ちゃんと彼女つくってその子に頼めよ」
「彼女には頼めないだろ、こんなこと」
「…私は何だ」
「流なら、多分何があっても平気だろう?」
「逆恨みして刺されたら、毎日メロン入りの果物詰め合わせ持って見舞いに来るように」
本気とも冗談とも着かない口調で言いつける。
紅葉は何気なく、卓真の眼鏡を取り上げて、かけてみた。度がきつくて、すぐに外すことになった。
「眼悪すぎだぞ、お前」
そんなことを言いながらも、てきぱきと待ち合わせの日時を決めていく。慣れた行動だった。
「リュウってさ、天然だよな」
台本候補で声が卓真と紅葉のところまで届かないよう気遣いながら、壮太は、隣の一人に囁きかけた。
壮太たちの位置から見て、楽しそうに、慣れた様子で休日の約束をする二人は、何も知らなければ恋人同士に見える。
紅葉は和的な美人で、卓真もそう見栄えは悪くないので、余計にそう見えるのだろう。ぴったりのカップルだ、と。
しかし現実には、紅葉は今のところ、恋人づくりには興味がないようだった。
「タクが二人きりで、自分から遊びに誘う女の子なんて、自分だけなんて気付いてないんだろーな」
「まあ、そういう奴だから」
「それにしても鈍いよなー」
やれやれと溜息をつく壮太は、他校に年下の彼女がいる。人は見掛けに依らないものだ。
「あ、もう一人鈍いのが来た」
そう言って、開けっ放しの戸口の向こうに見えた友人に、壮太は手を振った。
「みててばればれなのに、自覚がないってとこが大鈍だよなー」
からからと、壮太は笑った。
その隣で、一人は黙々と台本を選んでいた。これが、この学校で最後の映画製作。頼りはないが信頼できる友人たちに恵まれ、それが作れるのだ。
ある意味、一番恋愛沙汰に縁がないのは、一人と言えるだろう。
「いいよ。で、今度は何?」
放課後の、部室。
映画研究会(制作部)の部室は乱雑極まりなかったが、二年前、一人の新入部員が入って以来、それなりの清潔さと秩序を持つようになっていた。
そこで二人は、卒業制作の台本候補を読んでいたところだった。他にも二人、同様のことをしている部員がいる。
「これなんか面白いかと思うけど。三流アドベンチャー」
「いや、じゃなくて」
近くの映画情報誌を取って、広げる卓真に、コメディーの台本を手にしたまま、紅葉は手を振った。
「何が目的? 誰に引き合わされる?」
「何だよそれ、まるで俺が企んでるみたいに」
「へえ、じゃあ今までのは企んでなかったのか? 元の彼女とお茶したり、断ったのにつきまとってきてた女の子と会ったり、挙げ句の果てには許嫁候補とまで会ったり。あれは?」
「いや…まあ、そりゃあ少しは…」
口ごもる卓真を睨み付けて、やっぱり、と、紅葉は息を吐いた。しかし、本当に怒っている風ではない。
「別に誰に会わせられようといいけどさ、どうせなら、ちゃんと彼女つくってその子に頼めよ」
「彼女には頼めないだろ、こんなこと」
「…私は何だ」
「流なら、多分何があっても平気だろう?」
「逆恨みして刺されたら、毎日メロン入りの果物詰め合わせ持って見舞いに来るように」
本気とも冗談とも着かない口調で言いつける。
紅葉は何気なく、卓真の眼鏡を取り上げて、かけてみた。度がきつくて、すぐに外すことになった。
「眼悪すぎだぞ、お前」
そんなことを言いながらも、てきぱきと待ち合わせの日時を決めていく。慣れた行動だった。
「リュウってさ、天然だよな」
台本候補で声が卓真と紅葉のところまで届かないよう気遣いながら、壮太は、隣の一人に囁きかけた。
壮太たちの位置から見て、楽しそうに、慣れた様子で休日の約束をする二人は、何も知らなければ恋人同士に見える。
紅葉は和的な美人で、卓真もそう見栄えは悪くないので、余計にそう見えるのだろう。ぴったりのカップルだ、と。
しかし現実には、紅葉は今のところ、恋人づくりには興味がないようだった。
「タクが二人きりで、自分から遊びに誘う女の子なんて、自分だけなんて気付いてないんだろーな」
「まあ、そういう奴だから」
「それにしても鈍いよなー」
やれやれと溜息をつく壮太は、他校に年下の彼女がいる。人は見掛けに依らないものだ。
「あ、もう一人鈍いのが来た」
そう言って、開けっ放しの戸口の向こうに見えた友人に、壮太は手を振った。
「みててばればれなのに、自覚がないってとこが大鈍だよなー」
からからと、壮太は笑った。
その隣で、一人は黙々と台本を選んでいた。これが、この学校で最後の映画製作。頼りはないが信頼できる友人たちに恵まれ、それが作れるのだ。
ある意味、一番恋愛沙汰に縁がないのは、一人と言えるだろう。
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