18 / 95
昔日に向かう 2003/4/23
しおりを挟む
「食わねえのか? へばってもしらねえぞ?」
三十前後ほどの体格に恵まれた男は、軽い調子でそう言って炒め物の皿を連れの前に押し出した。
連れは、立つと男とは頭の一つや二つ分は身長が違うだろう。まだ十代に見える少年だった。
少年は、鋭い目つきで男を睨みつけた。
「それどころじゃないだろう」
「飯食うよりも大切なことなんて、そうないぜ? 何をするにも、食って寝てなきゃ動けねえって」
肉団子の揚げ物を口に放り込んだ男を、少年がますます険しい顔つきで睨みつける。
「お前、状況を判っているのか?」
「判ってなきゃ、こんなとこいねえっての」
「よく平気でいられるな。つぶされた小国の末の王子なんて押し付けられて、よくもまあ」
ふっと、力が抜けたように遠くを眺めて言う「王子」に、男は口の端を持ち上げて笑った。
「平気なんかじゃないさ。親父を目の前で殺されて、ずっと育った家屋敷も全部燃やされたんだぜ? でもな、いかにも「つらいんです」ってなカオしてみな? 完璧だろ」
「は?」
「完璧につらい人。冗談じゃないっての。人から同情を買うためならともかく、自分が自分を哀れんでどうするよ? 逆だ。側だけでも明るくしなきゃもたねえよ」
もうひとつ肉団子をつまんで、口に放りこむ。
少年は、しばし唖然と男を見つめていたかと思うと、箸をつかんで皿に伸ばした。そんな様子を見て、男は微笑した。
国に住む者は一人残らず顔見知りと言っても言えないほどでないほどに小さい国だったが、一応、少年は主君直系の子だった。国が滅ぼされ、三人いるうちの二人の兄も生き延びているとはいえ、男には敬うべき対象だった。
それでも敬語を使いもしないのは、男自身、国や家族など一切合財を失った混乱があることも確かだが、少年の兄である第一王子と友人付き合いをしていて、少年のことを生まれたときから知っていたためでもあった。
己の命と引き換えに少年を託した友人と父のためにも、男にはここで立ち止まるつもりはなかった。
王家の復興を目指すことは望まなくても、追っ手から逃れて平穏な生活を。せめてそれだけが、男にできることだった。
「そうそう、食えるときに食っとけ。何が起きるかわかんねえんだからな」
三十前後ほどの体格に恵まれた男は、軽い調子でそう言って炒め物の皿を連れの前に押し出した。
連れは、立つと男とは頭の一つや二つ分は身長が違うだろう。まだ十代に見える少年だった。
少年は、鋭い目つきで男を睨みつけた。
「それどころじゃないだろう」
「飯食うよりも大切なことなんて、そうないぜ? 何をするにも、食って寝てなきゃ動けねえって」
肉団子の揚げ物を口に放り込んだ男を、少年がますます険しい顔つきで睨みつける。
「お前、状況を判っているのか?」
「判ってなきゃ、こんなとこいねえっての」
「よく平気でいられるな。つぶされた小国の末の王子なんて押し付けられて、よくもまあ」
ふっと、力が抜けたように遠くを眺めて言う「王子」に、男は口の端を持ち上げて笑った。
「平気なんかじゃないさ。親父を目の前で殺されて、ずっと育った家屋敷も全部燃やされたんだぜ? でもな、いかにも「つらいんです」ってなカオしてみな? 完璧だろ」
「は?」
「完璧につらい人。冗談じゃないっての。人から同情を買うためならともかく、自分が自分を哀れんでどうするよ? 逆だ。側だけでも明るくしなきゃもたねえよ」
もうひとつ肉団子をつまんで、口に放りこむ。
少年は、しばし唖然と男を見つめていたかと思うと、箸をつかんで皿に伸ばした。そんな様子を見て、男は微笑した。
国に住む者は一人残らず顔見知りと言っても言えないほどでないほどに小さい国だったが、一応、少年は主君直系の子だった。国が滅ぼされ、三人いるうちの二人の兄も生き延びているとはいえ、男には敬うべき対象だった。
それでも敬語を使いもしないのは、男自身、国や家族など一切合財を失った混乱があることも確かだが、少年の兄である第一王子と友人付き合いをしていて、少年のことを生まれたときから知っていたためでもあった。
己の命と引き換えに少年を託した友人と父のためにも、男にはここで立ち止まるつもりはなかった。
王家の復興を目指すことは望まなくても、追っ手から逃れて平穏な生活を。せめてそれだけが、男にできることだった。
「そうそう、食えるときに食っとけ。何が起きるかわかんねえんだからな」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
灰墟になった地方都市でペストコントロールやってます 世界に必要な3つのこと (仮)
@taka29
ライト文芸
発症すると深層心理のエネルギーが異形に変じて野放図に暴れ回る奇病、その世界的な大流行から20年。物語は北陸のとある地方都市から始まる。
小料理屋はなむらの愛しき日々
山いい奈
ライト文芸
第5回ほっこり・じんわり大賞にて、大賞を!受賞しました!ありがとうございます!( ̄∇ ̄*)
大阪の地、親娘で営む「小料理屋 はなむら」で起こる悲喜こもごも。
お客さま方と繰り広げられる、心がほっこりと暖まったり、どきどきはらはらしたりの日々です。
賽の河原の拾い物
ミドリ
ライト文芸
ちょっぴり隙の多いおかっぱ女子高生・篠原小春。
三年前に事故に遭い、隣家の朗らか系イケメンの幼馴染み・勝田春彦と共に臨死体験をする。賽の河原の小石と共に帰還した小春は、他人のオーラが視える体質になってしまう。
だが何故か春彦のオーラだけは視えず、小春は春彦と過ごすことを気楽だと感じていた。
そんなある日、かなり邪魔で眩しいオーラを視えなくしてくれる必須アイテムの伊達眼鏡を、近隣の高校に通う通称王子こと荒川龍に踏まれて壊されてしまう。弁償してもらいがてら龍に小春の事情を説明すると、興味を示され、また会うことに。
過保護すぎる春彦の制止を聞かず、小春は龍の持つ珍しい白いオーラが気になり、告白されてそのまま付き合い始める。
だが、親友のえっちゃんと遊ぶことも許されず、束縛の強さに我慢の限界が訪れ、別れを決意する。別れ話をあっさり承諾した龍だったが、別れた後も何故か龍は連日小春の前に現れる。
怖くなった小春は、所属する美術部の部長に駅まで送ってもらうことになったのだが、そこに龍が現れて――。
春彦のオーラは何故視えないのか。
龍は何故小春に固執するのか。
謎の解明と共に訪れるラストをお楽しみいただければと思います。
ハピエンです!なろうにも掲載してます。
変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ちゃりんこ
端木 子恭
ライト文芸
関東に住む中学2年生のつむぎ。北海道で一人暮らししている祖母の体調を見守るため、1学期の間だけ二人で暮らすことになった。小学生まで住んでいたところに戻るので友達もいる。行ってみると、春になって体調が良くなった祖母相手にすることがない。
また仲良くなった友達の縁(より)に、市内で開催される6月のママチャリレースに誘われる。メンバーを集めて表彰をめざす、と意気込む。
青い死神に似合う服
fig
ライト文芸
テーラー・ヨネに縫えないものはない。
どんな洋服も思いのまま。
だから、いつか必ず縫ってみせる。
愛しい、青い死神に似合う服を。
寺田ヨネは洋館を改装し仕立て屋を営んでいた。テーラー・ヨネの仕立てる服は特別製。どんな願いも叶える力を持つ。
少女のような外見ながら、その腕前は老舗のテーラーと比べても遜色ない。
アシスタントのマチとチャコ、客を紹介してくれるパイロット・ノアの協力を得ながら、ヨネは日々忙しく働いていた。
ある日、ノアの紹介でやってきたのは、若くして命を落としたバレエ・ダンサーの萌衣だった。
彼女の望みは婚約者への復讐。それを叶えるためのロマンチック・チュチュがご所望だった。
依頼の真意がわからずにいたが、次第に彼女が受けた傷、悲しみ、愛を理解していく。
そしてヨネ自身も、過去の愛と向き合うことになる。
ヨネにもかつて、愛した人がいた。遠い遠い昔のことだ。
いつか、その人のために服を縫いたいと夢を見ていた。
まだ、その夢は捨ててはいない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる