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平和な国 2003/1/11
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「あーあー、日本て国は平和だよなー」
見かけよりも低い声で、「少女」は呟いた。右肘をついてあごを乗せ、左手はクリームソーダのストローをもてあそぶ。
ふう、と溜息をついて、ストローに口をつける。
暖房のよく効いたところなので、冬にも関わらず冷たいものがおいしい。子供向けなのか女の子向けなのか、やたらと派手に飾り付けられたアイスクリームをつつく。
うんざりとしたかおで自分のはいているプリーツスカートをちらりと見る。はあ、と深く溜息をついた。
「何でこんなカッコ」
加藤俊哉。れっきとした、高校生男子である。
しかし今は、近くの高校の女子セーラー服を着ている。線の細い体つきや顔から少し見たくらいではばれないだろうが、万が一ばれたら、変態、とでも叫ばれかねない。
「ま、いいけどね」
新しく入ってきた客に視線を向け、ストローから手を離す。左手は、即座にかばんの下を探った。手のひらに収まるくらいの黒い塊を取り出す。
小型消音銃、ってほんとかよ?
違えば、すぐに俊哉はつかまるだろうか。いや、逃げ切れる自信はある。――じゃあ、いいか。
さすがに飲みかけのジュースをどうにかするのは無理だろうが、どうせ指紋もDNAも警察には記録されていない。この先に何かへまをしない限りは大丈夫だろう。
頬杖をついたまま、俊哉はさっき入ってきた客に銃口を向けた。そちらには一度、短く視線を向けただけ。
「…っ」
店内にかかっている曲がひときわ大きくなったところで、引き金を引く。
標的のうめきも小さな銃の音も、どうにかそれに隠れた。その際も頬杖はついたままで、銃はほとんど手のひらに隠れている。反動にも、微動もしなかった。
「あっつー」
言って、ストローを持つ。撃ったことで熱を帯びている銃は、かばんの中に入れた。
俊哉がその店を出たのは、きっちりクリームソーダを飲み終えてからだった。業務用の笑顔で値段を告げる店員に、目も合わさずにお金を払う。店を出たところで、「さっきの子一人でさみしー」という声が聞こえた。
客に聞こえちゃ失格だろう。
苦笑して、そのまま俊哉はトイレに向かった。服を着替えて、この後は諒一と待ち合わせだ。今回の報告と、中華バイキング。諒一と食べ放題に行くのは、これで二度目だった。
「あ、涼一さんだ」
どうせ俊哉のかばんについている盗聴機で聞いていただろうのに、三軒ほど離れた店の前に諒一が立っていた。ガラスに映った顔が、目線で挨拶をする。
俊哉は肩をすくめた。
「…この格好見に来たんだろうなあ、絶対」
はあ、と溜息をつく。
俊哉の標的の死が報じられたのは、翌日の新聞でのことだった。
見かけよりも低い声で、「少女」は呟いた。右肘をついてあごを乗せ、左手はクリームソーダのストローをもてあそぶ。
ふう、と溜息をついて、ストローに口をつける。
暖房のよく効いたところなので、冬にも関わらず冷たいものがおいしい。子供向けなのか女の子向けなのか、やたらと派手に飾り付けられたアイスクリームをつつく。
うんざりとしたかおで自分のはいているプリーツスカートをちらりと見る。はあ、と深く溜息をついた。
「何でこんなカッコ」
加藤俊哉。れっきとした、高校生男子である。
しかし今は、近くの高校の女子セーラー服を着ている。線の細い体つきや顔から少し見たくらいではばれないだろうが、万が一ばれたら、変態、とでも叫ばれかねない。
「ま、いいけどね」
新しく入ってきた客に視線を向け、ストローから手を離す。左手は、即座にかばんの下を探った。手のひらに収まるくらいの黒い塊を取り出す。
小型消音銃、ってほんとかよ?
違えば、すぐに俊哉はつかまるだろうか。いや、逃げ切れる自信はある。――じゃあ、いいか。
さすがに飲みかけのジュースをどうにかするのは無理だろうが、どうせ指紋もDNAも警察には記録されていない。この先に何かへまをしない限りは大丈夫だろう。
頬杖をついたまま、俊哉はさっき入ってきた客に銃口を向けた。そちらには一度、短く視線を向けただけ。
「…っ」
店内にかかっている曲がひときわ大きくなったところで、引き金を引く。
標的のうめきも小さな銃の音も、どうにかそれに隠れた。その際も頬杖はついたままで、銃はほとんど手のひらに隠れている。反動にも、微動もしなかった。
「あっつー」
言って、ストローを持つ。撃ったことで熱を帯びている銃は、かばんの中に入れた。
俊哉がその店を出たのは、きっちりクリームソーダを飲み終えてからだった。業務用の笑顔で値段を告げる店員に、目も合わさずにお金を払う。店を出たところで、「さっきの子一人でさみしー」という声が聞こえた。
客に聞こえちゃ失格だろう。
苦笑して、そのまま俊哉はトイレに向かった。服を着替えて、この後は諒一と待ち合わせだ。今回の報告と、中華バイキング。諒一と食べ放題に行くのは、これで二度目だった。
「あ、涼一さんだ」
どうせ俊哉のかばんについている盗聴機で聞いていただろうのに、三軒ほど離れた店の前に諒一が立っていた。ガラスに映った顔が、目線で挨拶をする。
俊哉は肩をすくめた。
「…この格好見に来たんだろうなあ、絶対」
はあ、と溜息をつく。
俊哉の標的の死が報じられたのは、翌日の新聞でのことだった。
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