地球と地球儀の距離

来条恵夢

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はじまりの手紙 2002/10/12

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『 拝啓

 こんにちは、ご無沙汰しています。園の方はどうですか? 私はまあ、無事です。

 <中略>

 突然ですが、今度理事長になることになりました。何でもやると祖父が言うので学校が欲しいといったところ、本当に作ってしまいました。
 全く、金持ちという人種はわかりません。
 その上、詳しいことはわからないだろうということで、実質上、ほとんどの事務などをこなしてくれる秘書をつけてくれました。なんだかよくわからない人です。
 まあ、それは置いといて。
 「好き勝手やっていい」という言葉に遠慮なく、好き勝手やっています。とりあえず学費を、収入に比例して設定しようと思っています。多少の赤字は小遣いでまかなえると言うから、一般人をなめていると思いませんか?
 …とにかく、そういうことなので、もし誰か、進学したい子がいるなら連絡をください。多分、全学費免除でない限り、この学校の学費が一番安いと思います。
 一応入試試験はありますが、勉強したいんだったら、落ちることはないと思います。

 それでは。また、遊びに行きます。 

 敬具 』


 南は、ペンを置いて手を伸ばした。り返った背に押されて、椅子が悲鳴を上げる。
 封筒に目をやると、表の向いたそれには、送り先として「百合丘園ユリオカエン」と書かれていた。その裏には、送り主としてミナミの名前。
 皆見ミナミ南だなんてふざけてる、と、初めに知ったとき、呆れるしかなかった。

 少し前まで、南も百合丘園にいた。
 生まれてすぐに両親を亡くした南にとって、そこが家だった。それでも、最長でも高校を出るまでしかいられない。今年で高校卒業の南も、次の春には出て行くはずだった。里親を得るのではなくて、一人暮しという形で。
 そこに現れたのが、祖父だった。信じられないような金持ちで、企業家で。祖父の元にいくつもりもなかったのに、気付けばこうしてここにいる。

 椅子を回して、部屋を見渡してみる。
 広い部屋に、大きなベッドと机。母が読んでいたという本の詰まった、大きな本棚。欲しいと言ったら、最新のパソコンも運び込まれた。今までは考えられなかった贅沢だ。その上、学校がほしいといったら作って。

 ――信じらんない。

 他人にしか思えない「祖父」。園長先生や園の先生たちの方がよっぽど、親近感がある。あの園には、間違いなく南の「家族」がいた。

「あーあー…」

 机に突っ伏して、溜息をつく。そして唐突に、頭を上げる。

 ――そっちが好きにやるなら、あたしだってそうさせてもらうわ。

 南は手紙を丁寧に折りたたむと、封筒に入れて、しっかりと封をした。
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