台風の目(仮)

来条恵夢

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道草

2-2

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「――シュム、だな?」 
「え、そう思ったから来てくれたんじゃなかったの? 何、ただのナンパだった?」 
 シュムがリードしてくれるのだが、体格差のせいで、何度も足を踏みそうになる。よくも、軽やかに踊れるものだ。 
「はじめはそうだと思った。ただ、あの話し方を聞いて、ちょっと自信がなくなってた」 
「あー、あれ。アズの結婚式に出ようと思ったのが間違いだったんだよね。考えてみれば、国王だよ? 王様急死して、即位と結婚式がほぼ同時だったからね。堅苦しいものになること請け合いなのに、うっかりしてて。城に行ったら、軟禁してみっちり仕込まれた」 
 おおやけにせずとも、王妃となる人の身内だという情報は、何処からともなく伝わる。だから、みっともない失態をするなと、それはもう、不眠不休で教え込まれたものだ、と言う。そう言うだけで辟易とした様子に、よほどだったのだろうと推測するしかない。そのとき、カイは傍にいなかった。 
「それで、これは何がどうなってるんだ?」 
「カイ」 
 踊りながらも、じっと見つめられ、何事かと思う。しかしシュムは、ふうっと、情けない教え子を見るかのように、溜息をついた。 
「訊くだけじゃあ、色々なものを見落とすよ?」 
「…人の魔術だとかまやかしだとかいったものは、お前の担当だ」 
「そういった決めつけは、良くないと思うよ。なんでそう、嫌がるかな」 
 くるりと回転してから、踊る人たちの輪から離れようと、壁際に引っ張って行く。凝った刺繍のスカートが、ふわりと空気をはらんだ。 
 人の扱う魔術全般は、何をどうこういったものではなく、苦手だ。カイらがつかうものと、人のそれとは、根本で大きく異なる。カイにはどうと指摘できないが、デルフォードに言わせると、呼吸か走るかの差だとのことだ。わかったような、わからないような例えだ。 
「でもまあ、これは確かに、あたしの領分だろうね。カイは、面識どころか話も聞いてないだろうし」 
「何か知ってるのか?」 
「ありがとう、いただきますわ」 
「…変わり身が怖い」 
「失礼な」 
 給仕がグラスを差し出し、それに応じたシュムに、ぼそりと呟く。シュムも、給仕に聞こえないよう小声で、不満を伝える。 
 お仕着せの給仕が去り、二人の手に葡萄色の液体が残されると、シュムは、躊躇することなくグラスを傾けた。このくらいの量で酔うはずもないのに、なめるような飲み方に、首を傾げる。 
 しかし、その疑問を口にするよりも先に、白銀色の仮面がカイを向いた。 
「ねえカイ、ちょっと、火でも起こしてみて」 
「は?」 
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