おとぎばなし

来条恵夢

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しんでれら 2005/6/25

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「シンデレラ、ゆかが汚れてるわ!」
「はーい」
「シンデレラ、私のドレスどこ? 紫のやつ」
「はいはい」
「シンデレラー、金のネックレスどこー?」
「はいはいはい」

 質素な格好をした少女は、それなりに重い掃除用具一式を肩にかつぎ、義母や義姉たちの間を走り回っていた。
 猫が上がりこんで泥で汚れた床を拭き、暖炉の上で毛づくろいをしていた猫の足の裏をぬぐう。
 上の義姉のドレスは、かび臭さを払うために陰干ししており、下の義姉のネックレスは、金具が壊れているからと、本人が修理に出していた。
 実質的にこの家を取り仕切っているシンデレラが、もしもいなくなれば、義母たちが無事に生活をこなせるのかは怪しい。どうにもずぼらな人たちなのだから。

「ネックレスを受け取ってきますから、姉さまたちは食事をなさっていてください。スープ皿は出してあります」
「ええ、まだおなかも減ってないわよ?」
「これから、ドレスを着てお化粧をするんですよ。今食べなければ、パーティー会場でしか食べる機会がありません。いいんですか、王子様にがっついていると思われて」
「それは駄目!」
「それじゃあ、出てきます。妙な人が来ても、入れないでくださいよ」

 掃除用具を目に付きにくい隅に置き、埃避ほこりよけにかぶっていた布やエプロンを外す。
 いかにも下働きといった格好に、娘たちを先に行かせた義母が、まゆを寄せた。

「あなたも、もう年頃なのだし、もっと相応の格好をなさいな。今日の夜会も、本当に行かなくていいの?」
「だから、苦手なんです。着飾るの。気にしないで、楽しんできてくださいね」

 そう言って、身軽に家を後にする。

 あの人たちが来てくれて良かった、と思う。
 早くに母を亡くし、一年のほとんどを商業で留守にする父で、シンデレラは一人だった。住み込みの召使でも雇えばいいようなものだが、家事が趣味のせいで、いたところでやることがない。
 あの人たちのおかげで、家はずいぶんとにぎやかになった。世話を焼く相手がいることも、嬉しかった。 
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