4 / 10
3.
しおりを挟む
難しい顔をした父と王妃の横顔をチラと盗み見て、この後に起こる展開に頭が痛くなる思いだ。
廊下が騒がしくなり、扉が開くと先に兄上含む五人が連れてこられた。
緊張感なくワイワイと騒ぐ面々の顔には、陛下がいるからか、少しの緊張とやり終えた達成感に高揚している。
……騒がしいな。
暫くして、ゴーダイル侯爵にエスコートされたユリアンナも現れた。父に向かって綺麗に礼を尽くす姿は、雑多な中にもかかわらずとても美しい。
「ふん、今更取りすましてももう遅い!即刻」
「黙りなさい」
「は、母上っしかし」
「黙りなさい」
「っ、はい」
「ユリアンナ嬢、頭を上げて。この度は愚息が迷惑をかけました。侯爵と共に、こちらへ座りなさい」
「ありがとう存じます」
またもや騒ぎそうになる兄弟達を、王妃陛下は冷たい一瞥だけで黙らせた。
ゴーダイル侯爵とユリアンナが椅子へ座ったことで、話し合いが始まった。因みに五人は立たされたままで、俺は当事者ではないので、父の斜め後方で傍観の構えだ。
「まず、婚約破棄の件だが、王家有責での破棄か、又は白紙撤回として望むものを用意したいと思うのだが、如何だろうか侯爵?」
「そうですね、娘のことを考えると、破棄より解消でしょうが、既にあのように宣言されては……」
「そうだな。愚息が済まんかった」
「なっ!父上、何故我らが“有責”となるのです?!」
「あの女がマーガレットを!」
「わ、わたしは謝ってもらえればそれでっ」
割り込むように騒いだ五人に、謝罪を口にしていた父はピタリと固まり、国王の謝罪に慌てていたゴーダイル侯爵は「は?」と五人を睨みつけた。
「おい、貴様らに発言を許可したか?」
「……父上っっですが、元はと」
「私的な場ではあるが弁えよ。何度も言わすな愚か者めがっ」
迫力のある喝を入れられた五人は、震え上がって口を閉じた。
「……陛下。面倒ですし先に彼方から片付けましょう」
「そうだな。頼む」
王妃様は、パシッと扇を掌で打って鳴らすと、五人へ向けて口を開く。
「貴方達の常日頃の態度は、各所から報告が上がっています。今更弁明は不要です。その上で発言なさい。いいですね?」
じっとそれぞれの顔を見た王妃様は、頷く面々を見て続けた。
「まずスヴェルトとユリアンナ嬢の婚約は、王家からの打診で侯爵家に申し入れました。
来年には婚姻を結ぶために、色々と準備していたのですが……あなた方は王家が、陛下が取り決めたことに異を唱えて、あまつさえ貴族が集まる夜会の場で晒して踏みにじり、切り裂いた。
陛下と私の費やした時間を、子息風情が無駄にしてどんな気分かしら?」
廊下が騒がしくなり、扉が開くと先に兄上含む五人が連れてこられた。
緊張感なくワイワイと騒ぐ面々の顔には、陛下がいるからか、少しの緊張とやり終えた達成感に高揚している。
……騒がしいな。
暫くして、ゴーダイル侯爵にエスコートされたユリアンナも現れた。父に向かって綺麗に礼を尽くす姿は、雑多な中にもかかわらずとても美しい。
「ふん、今更取りすましてももう遅い!即刻」
「黙りなさい」
「は、母上っしかし」
「黙りなさい」
「っ、はい」
「ユリアンナ嬢、頭を上げて。この度は愚息が迷惑をかけました。侯爵と共に、こちらへ座りなさい」
「ありがとう存じます」
またもや騒ぎそうになる兄弟達を、王妃陛下は冷たい一瞥だけで黙らせた。
ゴーダイル侯爵とユリアンナが椅子へ座ったことで、話し合いが始まった。因みに五人は立たされたままで、俺は当事者ではないので、父の斜め後方で傍観の構えだ。
「まず、婚約破棄の件だが、王家有責での破棄か、又は白紙撤回として望むものを用意したいと思うのだが、如何だろうか侯爵?」
「そうですね、娘のことを考えると、破棄より解消でしょうが、既にあのように宣言されては……」
「そうだな。愚息が済まんかった」
「なっ!父上、何故我らが“有責”となるのです?!」
「あの女がマーガレットを!」
「わ、わたしは謝ってもらえればそれでっ」
割り込むように騒いだ五人に、謝罪を口にしていた父はピタリと固まり、国王の謝罪に慌てていたゴーダイル侯爵は「は?」と五人を睨みつけた。
「おい、貴様らに発言を許可したか?」
「……父上っっですが、元はと」
「私的な場ではあるが弁えよ。何度も言わすな愚か者めがっ」
迫力のある喝を入れられた五人は、震え上がって口を閉じた。
「……陛下。面倒ですし先に彼方から片付けましょう」
「そうだな。頼む」
王妃様は、パシッと扇を掌で打って鳴らすと、五人へ向けて口を開く。
「貴方達の常日頃の態度は、各所から報告が上がっています。今更弁明は不要です。その上で発言なさい。いいですね?」
じっとそれぞれの顔を見た王妃様は、頷く面々を見て続けた。
「まずスヴェルトとユリアンナ嬢の婚約は、王家からの打診で侯爵家に申し入れました。
来年には婚姻を結ぶために、色々と準備していたのですが……あなた方は王家が、陛下が取り決めたことに異を唱えて、あまつさえ貴族が集まる夜会の場で晒して踏みにじり、切り裂いた。
陛下と私の費やした時間を、子息風情が無駄にしてどんな気分かしら?」
201
お気に入りに追加
1,386
あなたにおすすめの小説

彼女(ヒロイン)は、バッドエンドが確定している
基本二度寝
恋愛
おそらく彼女(ヒロイン)は記憶持ちだった。
王族が認め、発表した「稀有な能力を覚醒させた」と、『選ばれた平民』。
彼女は侯爵令嬢の婚約者の第二王子と距離が近くなり、噂を立てられるほどになっていた。
しかし、侯爵令嬢はそれに構う余裕はなかった。
侯爵令嬢は、第二王子から急遽開催される夜会に呼び出しを受けた。
とうとう婚約破棄を言い渡されるのだろう。
平民の彼女は第二王子の婚約者から彼を奪いたいのだ。
それが、運命だと信じている。
…穏便に済めば、大事にならないかもしれない。
会場へ向かう馬車の中で侯爵令嬢は息を吐いた。
侯爵令嬢もまた記憶持ちだった。

生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。

眠りから目覚めた王太子は
基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」
ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。
「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」
王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。
しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。
「…?揃いも揃ってどうしたのですか」
王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。
永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

過去に戻った筈の王
基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。
婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。
しかし、甘い恋人の時間は終わる。
子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。
彼女だったなら、こうはならなかった。
婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。
後悔の日々だった。

瓦礫の上の聖女
基本二度寝
恋愛
聖女イリエーゼは王太子に不貞を咎められ、婚約破棄を宣言された。
もちろんそれは冤罪だが、王太子は偽証まで用意していた。
「イリエーゼ!これで終わりだ」
「…ええ、これで終わりですね」

婚約破棄でお願いします
基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。
「君は、そんな人だったのか…」
王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして…
※ギャグかもしれない

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる