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翌日、アトリが復帰した。
頭部の打撲だったので、念のためにカウンセリングを含めて、長めに休みを申しつけていたのだ。
「ご心配をおかけいたしました」
申し訳なさそうに謝罪を口にしたアトリに、クリスティーナはうんうんと頷いた。
「貴女も無事で本当に良かったわ。もう大丈夫?ふらついたりはしないのかしら」
「はい、お医者様にもお墨付きをいただきました。……その、スノウ様を守れずに申し訳ございませんでした」
「それはもう良いって言ったでしょう?次は対策を練るから」
「対策を……ですか?」
「ふふ、ミラ、持って来てちょうだい」
「はい、直ぐに」
ミラはクリスティーナの指示に従い部屋の隅のチェストを開けて小箱を持ってくると、それを王妃の執務机の前に立つアトリに手渡した。
「?これは」
「開けてご覧なさい」
受け取った長方形の小箱の蓋を開けると、中には華奢なチェーンのブレスレットとチャームが2つ入っていた。
「私の紋章の入ったチャームと、魔石の入ったチャームよ。紋章は王妃付きの身分証としても利用できるし便利でしょ?」
「そんな、勿体ない……」
「物理攻撃無効と異常状態無効、引っ張って外すとサイレンが鳴って、足止め効果効果で催涙ガスか諸々噴出しちゃうの。取り扱いには注意してね?」
「は、はい」
特別身分証兼宝飾品の授与は主人の信頼を置く者としての印でもあり、側仕えの栄誉でもある。
それに感動したアトリだったが、物騒な機能がふんだんに盛り込まれた、可愛らしいチャームに血の気が引いた顔で微笑みながら慎んで受け取り壁際で控えているミラの隣へと下がった。
「慣れれば大丈夫ですよ、アトリ。普段は袖の下に隠すことを勧めますが」
同情めいた瞳でアトリを見つめたミラが、小声で言い添える。
「催涙ガス……諸々の部分が気になります、ミラ様」
「知らぬが仏と言います」
「成程……」
壁際の話し合いなど耳に入っていないクリスティーナは、やっとできた隙間時間にウキウキで欲しいものリストの進捗具合に目を通し始める。
もうすぐスノウを迎えに行ける事に、胸躍らせながら。
頭部の打撲だったので、念のためにカウンセリングを含めて、長めに休みを申しつけていたのだ。
「ご心配をおかけいたしました」
申し訳なさそうに謝罪を口にしたアトリに、クリスティーナはうんうんと頷いた。
「貴女も無事で本当に良かったわ。もう大丈夫?ふらついたりはしないのかしら」
「はい、お医者様にもお墨付きをいただきました。……その、スノウ様を守れずに申し訳ございませんでした」
「それはもう良いって言ったでしょう?次は対策を練るから」
「対策を……ですか?」
「ふふ、ミラ、持って来てちょうだい」
「はい、直ぐに」
ミラはクリスティーナの指示に従い部屋の隅のチェストを開けて小箱を持ってくると、それを王妃の執務机の前に立つアトリに手渡した。
「?これは」
「開けてご覧なさい」
受け取った長方形の小箱の蓋を開けると、中には華奢なチェーンのブレスレットとチャームが2つ入っていた。
「私の紋章の入ったチャームと、魔石の入ったチャームよ。紋章は王妃付きの身分証としても利用できるし便利でしょ?」
「そんな、勿体ない……」
「物理攻撃無効と異常状態無効、引っ張って外すとサイレンが鳴って、足止め効果効果で催涙ガスか諸々噴出しちゃうの。取り扱いには注意してね?」
「は、はい」
特別身分証兼宝飾品の授与は主人の信頼を置く者としての印でもあり、側仕えの栄誉でもある。
それに感動したアトリだったが、物騒な機能がふんだんに盛り込まれた、可愛らしいチャームに血の気が引いた顔で微笑みながら慎んで受け取り壁際で控えているミラの隣へと下がった。
「慣れれば大丈夫ですよ、アトリ。普段は袖の下に隠すことを勧めますが」
同情めいた瞳でアトリを見つめたミラが、小声で言い添える。
「催涙ガス……諸々の部分が気になります、ミラ様」
「知らぬが仏と言います」
「成程……」
壁際の話し合いなど耳に入っていないクリスティーナは、やっとできた隙間時間にウキウキで欲しいものリストの進捗具合に目を通し始める。
もうすぐスノウを迎えに行ける事に、胸躍らせながら。
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