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その日、コルビン家では近衛騎士が率いる王国騎士が突然訪問した。
「何だね、君たちは……」
「王家直属近衛騎士隊副長並びに、王国騎士団第一隊である。コルビン伯爵の娘、ハイデリシア嬢は毒物混入容疑の為本日捕縛した。
よって貴殿らにも同行願う。同時に家宅捜索も行うので了承する様に。
これは勅命書だ。確かめられよ」
「ど、毒物……?!何を馬鹿な、」
「貴方、何事ですの?」
突然の騎士隊の訪問に、驚く伯爵当主オデールに、屋敷の奥から出てきた妻マリーデリアが足早に近付く。夫が愕然とした表情で見つめる書類を、横から覗き込んだ。
「……!!なんて事……!」
一瞬で顔を青ざめさせたマリーデリアは、ふらりと足をふらつかせるが、彼女を支えたのは真っ白になった夫でも、いつも付き従う侍女でもなかった。
「伯爵、ご婦人。このまま御同行願いますぞ」
冷たい瞳で見下ろす、鍛え上げられた騎士であった。
取調べは速やかに行われた。
ハイデリシアは黙秘を貫こうとしていたが、部屋から出て来た小分けの袋や茶葉に混入された異物を目の前に並べられると、観念したかの様に項垂れて何とも身勝手な言い分を自白し始めた。
曰く、子爵の娘が王妃に選ばれたのなら次は自分でも良いはずである。
曰く、自分も陛下を1人の男性として愛しているから、選ばれるはずである。
曰く、王妃の側役は側妃に選ばれる事があり、もし側妃が王妃よりも先に懐妊すれば、王妃に入れ替われるはずである。
まだまだ途中ではあるが、その発言と証拠だけでも十分に処罰はできそうであった。
伯爵の妻マリーデリアは、常日頃愛らしく育った娘を持て囃し、「将来は王子様に見染められるかもね」と話しかけていた。
伯爵は何かにつけて娘を王城へと連れて上がり、「あわよくば目につかせられれば」という大きすぎる野心を抱いていたのは、王城勤めの間では知られた話であった。
1度目のアシェリードの結婚に「なぜ子爵家如きが」と憤る物の、仕方なく無難な婚約者を宛てがい次代へと目を向けようとした矢先に前王妃の死去が報じられた。
諦めた野望の火が燻り、既に王妃が新たに立てられた後にも関わらず再燃してしまったようだった。
素知らぬ顔で薬草師を抱えたのは伯爵。
娘からの「温室の菊科のあの植物を処理した物を送ってほしい」という要望に、何も言わずに応じたのは妻のマリーデリアであった。
「なんともまぁ絵に描いたぼた餅に、さもありつこうなどと思えた物ですわねぇ」
調書の紙を呆れた顔で読みながら溜息を吐いたのは、欲しくもない本物のぼた餅を掴んでしまったクリスティーナである。
彼女は調書の紙から顔を上げて、執務机でこめかみを揉むアシェリードを見やった。
「いや、これは私の過ちが影響して居るから……」
「そう言えば、婚約者の騎士はどうしたのかしら」
「結婚話が進まず、不思議にはとは思っていたようだ。今回の件が万が一うまく行けば白紙撤回で切り捨てる気だったようだ」
切り落とされるどころか、勝手に切り落ちていってしまわれた婚約者一家に、何と言えば良いのか。取り敢えずその騎士は巻き添えを食わなくて良かったと言うべきだろう。
「スノウの件は……」
「私が煩わしく思う対象を先に排除して、閨で囁くつもりだったと言ったらしい。“貴方様を思って……”とな」
「……この国の極刑って何でしたっけ陛下?」
ホホホと書類で口元を隠しながら微笑むクリスティーナに、アシェリードは「まぁ落ち着いてくれ」と宥めにかかる。
「全て未然に防げたといえども、王族に危害を加えた罪は重い。財産没収、身分剥奪の上で国外追放となるだろう」
「薄着で森深くに放置する刑が有れば即実行しましたのに……」
口を尖らせムゥっと唸るクリスティーナの目は、割と本気の色である。因果応報を望むクリスティーナに、「考えておこう」とアシェリードは苦笑した。
「何だね、君たちは……」
「王家直属近衛騎士隊副長並びに、王国騎士団第一隊である。コルビン伯爵の娘、ハイデリシア嬢は毒物混入容疑の為本日捕縛した。
よって貴殿らにも同行願う。同時に家宅捜索も行うので了承する様に。
これは勅命書だ。確かめられよ」
「ど、毒物……?!何を馬鹿な、」
「貴方、何事ですの?」
突然の騎士隊の訪問に、驚く伯爵当主オデールに、屋敷の奥から出てきた妻マリーデリアが足早に近付く。夫が愕然とした表情で見つめる書類を、横から覗き込んだ。
「……!!なんて事……!」
一瞬で顔を青ざめさせたマリーデリアは、ふらりと足をふらつかせるが、彼女を支えたのは真っ白になった夫でも、いつも付き従う侍女でもなかった。
「伯爵、ご婦人。このまま御同行願いますぞ」
冷たい瞳で見下ろす、鍛え上げられた騎士であった。
取調べは速やかに行われた。
ハイデリシアは黙秘を貫こうとしていたが、部屋から出て来た小分けの袋や茶葉に混入された異物を目の前に並べられると、観念したかの様に項垂れて何とも身勝手な言い分を自白し始めた。
曰く、子爵の娘が王妃に選ばれたのなら次は自分でも良いはずである。
曰く、自分も陛下を1人の男性として愛しているから、選ばれるはずである。
曰く、王妃の側役は側妃に選ばれる事があり、もし側妃が王妃よりも先に懐妊すれば、王妃に入れ替われるはずである。
まだまだ途中ではあるが、その発言と証拠だけでも十分に処罰はできそうであった。
伯爵の妻マリーデリアは、常日頃愛らしく育った娘を持て囃し、「将来は王子様に見染められるかもね」と話しかけていた。
伯爵は何かにつけて娘を王城へと連れて上がり、「あわよくば目につかせられれば」という大きすぎる野心を抱いていたのは、王城勤めの間では知られた話であった。
1度目のアシェリードの結婚に「なぜ子爵家如きが」と憤る物の、仕方なく無難な婚約者を宛てがい次代へと目を向けようとした矢先に前王妃の死去が報じられた。
諦めた野望の火が燻り、既に王妃が新たに立てられた後にも関わらず再燃してしまったようだった。
素知らぬ顔で薬草師を抱えたのは伯爵。
娘からの「温室の菊科のあの植物を処理した物を送ってほしい」という要望に、何も言わずに応じたのは妻のマリーデリアであった。
「なんともまぁ絵に描いたぼた餅に、さもありつこうなどと思えた物ですわねぇ」
調書の紙を呆れた顔で読みながら溜息を吐いたのは、欲しくもない本物のぼた餅を掴んでしまったクリスティーナである。
彼女は調書の紙から顔を上げて、執務机でこめかみを揉むアシェリードを見やった。
「いや、これは私の過ちが影響して居るから……」
「そう言えば、婚約者の騎士はどうしたのかしら」
「結婚話が進まず、不思議にはとは思っていたようだ。今回の件が万が一うまく行けば白紙撤回で切り捨てる気だったようだ」
切り落とされるどころか、勝手に切り落ちていってしまわれた婚約者一家に、何と言えば良いのか。取り敢えずその騎士は巻き添えを食わなくて良かったと言うべきだろう。
「スノウの件は……」
「私が煩わしく思う対象を先に排除して、閨で囁くつもりだったと言ったらしい。“貴方様を思って……”とな」
「……この国の極刑って何でしたっけ陛下?」
ホホホと書類で口元を隠しながら微笑むクリスティーナに、アシェリードは「まぁ落ち着いてくれ」と宥めにかかる。
「全て未然に防げたといえども、王族に危害を加えた罪は重い。財産没収、身分剥奪の上で国外追放となるだろう」
「薄着で森深くに放置する刑が有れば即実行しましたのに……」
口を尖らせムゥっと唸るクリスティーナの目は、割と本気の色である。因果応報を望むクリスティーナに、「考えておこう」とアシェリードは苦笑した。
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