転生令嬢の危機回避術の結果について。

ユウキ

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「やったわ。こうして少しずつ彼の方の近くに……。分かっているわ。あの婚姻は仕方のないものだったのだもの。すぐに私を選んでくれるはずだわ」


その言葉を聞く者は誰もいない。
王城の与えられた一室で彼女はうっそりと微笑み、今日届けられた木箱の蓋を開ける。
その中には生家の心配りあふれる品々と、彼女が頼んだ品が綺麗に仕分けられて入っている。

一つの袋を取り出して中身を小さな小袋に分け入れると、衣装棚の中の衣類の下へと隠し、一つを袖口へと入れ込んだ。

戸を閉じて「ふふっ」と可憐な笑みを溢すと女は部屋から出て行った。




クリスティーナは辟易していた。


「クリスティーナ、今日は絵画の飾られている回廊に行こう。市井の競技会で優勝を勝ち取った作品が増えるのだ」
「そうですか、それはご一緒したいですわ」


休憩のたびに誘われるのは良い。
少々趣味に没頭したい時間が削られるだけなのでまだ何とか我慢できるのだが、こうもバカップルよろしく一部の隙もなく密着して練り歩くと言うのは地味に精神を削っていく。

睦言の如く顔を寄せ合い小声で囁き合うのも実に面倒くさいものである。

この上を行こうと思うと、「ダーリン❤︎」「ハニー⭐︎」なのか?いや、古いか?などと迷走させながらアシェリードとの時間を過ごしていた。

しかしそろそろそれも終いであろう時期が来たのだ。


「アシェリード様、調査は……」
「あぁ、ある程度は。一部だけだったようだ」
「そう……じゃそろそろ?」
「そうだな」


心底ホッとしながらクリスティーナは絵画の飾られていた回廊を抜けて、王妃の執務室近くの部屋に入る。


「まだ春は遠いが陽が温かで良いな。クリスティーナ、お茶にしようか」
「はい。貴女、準備をお願いね」

「はい」


一旦部屋を下り近くにある給湯室へと下がった彼女を見送り、クリスティーナは隣に座るアシェリードへと微笑んだ。



お湯を取りに行き、ティーワゴンを引いて戻った彼女は、再び室内に足を踏み入れた。
仲睦まじそうに話す国王夫妻を横目に、慣れた手つきでお茶の準備をする。

もう数度行った。慣れつつあるが緊張を強いられる行為だ。女は慎重に不自然さが出ないように温められたポットの蓋を開けて茶葉を入れる時に、袖口に仕込んだ細長い袋の口を開けてサラサラと同じような葉を入れて蒸らす。
ここだけクリアできれば、後は茶器などの準備だけで済む。

僅かに片端の口角が上がるのを見た者は居ないのだろう。

十分に蒸らした茶葉を使い、熱い紅茶を淹れると毒見役がチェックを行い、楽しく談笑する夫婦の前へと置くことができる。

自然な動作で全てを行うと、クリスティーナが「ありがとう」と言って、お気に入りだと言うティースプーンをほんの少し砂糖を入れた後にくるくるとカップの中で躍らせる。

にっこりと微笑んだクリスティーナは、そのティースプーンを楽しげに見つめると、音もなく置いた。



「 捕 縛 」


一瞬何を言って居るか分からずに、視線を向けた瞬間だった。
女は強い衝撃を受け、気がつけば絨毯の上にうつ伏せで抑えられ、後ろ手に拘束されていた。



「なっっ、なにをっっ!」



混乱する頭をどうにかあげると、背後には近衛騎士が拘束を行なっているのが見えた。ハッハと短くなる息で絨毯に顔を擦りながら方向を変えると、この国の女性のトップの座に座る王妃が立ち上がりその美貌を凍らせる様な凍てついた瞳で女を見下ろしていた。



「さて、証拠は揃っていてよ?ハイデリシア」
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