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しおりを挟むスティラと共に上着を脱いで手を洗ったスノウは、その後ろについて暖炉の前の人集りへと足を進めた。
皆、温かな笑顔で輪の中心に目を向けている。その輪にスティラが入って行き、話し始める。
輪の外側でポツンと所在なさげにスノウが留まり、ラケルが「スノウ?」と心配げな顔を向ける。
「あ、スノウ!見てみて赤ちゃんだよー!」
「ちっちゃい赤ちゃんが来たよー」
ロブとナットがスノウに気付いて声をかけると、みんなが一斉にスノウを見た。
「スノウもこっち来いよ」
「見てみて~」
暖かく迎え入れてくれる言葉に、不安はスッと小さくなっていった。足を一歩踏み出したところで、切り裂く様な声が響いた。
「まぁぁぁぁ!!まぁまぁまぁまぁ!」
その者は、口元に手を当てながらも大きく目を開いてスノウを見つめていた。
びくりと肩を跳ねさせたスノウは、思わずぬいぐるみをキュッと抱きしめる。
「どうしたのその子!スティラさんの子?!」
スティラは呆れながら「馬鹿タレ」と返して大きな声をあげた人物に紹介する。
「訳あって預かってる子だよ。スノウ。そのお世話しているラケルとテディ。暫くうちに居るからね。スノウ、これが兄弟達の母親マーヤと父親のエーブラさね」
紹介されたマーヤとエーブラは愕然としたように目を大きく見開き、口はポッカリと開けてスノウを見つめていた。
スノウは不安になりながらも片手で髪をくしゃっと掴む。
「あ、あの。スノウ……です。初めまし、て」
なんとか挨拶の言葉を口にすると、マーヤとエーブラは何事かを呟き始めた。
「母さん、スノウは一緒に薬草摘みに行くんだよ~」
「仲良しなんだよ~」
強張った顔に気付いたのか、ロブとナットがスノウの横に並んで笑いかける。少しホッとしたスノウが表情を和らげると、「ぎゃっ」という変な音が聞こえた。
「マーヤ落ち着け」
「おおおお落ち着いていられますかっ!こぉぉんな可愛い子がいるなんてー!」
「ま、マーヤ、他所様の子供だからっ」
「あのぬいぐるみどう言うこと?可愛いんだけど、白いセーターがワンピースってすんごく可愛い~~!」
「う、うん。ごめんねスノウちゃん、うちのやつ、念願の娘が生まれなくてさ。娘渇望症真っ最中なんだ」
「?は、い……?」
興奮冷めやらぬといった様相で顔を真っ赤にして興奮する、栗毛の髪を編み込んで片側に流したマーヤを抑えるようにがっしりと抱きこむ体格のいい金茶の髪のエーブラに、「やれやれ」と呟いたスティラがマーヤの背をパシリと叩いた。
「荒い鼻息をお止めっ!スノウが怖がってるだろ」
「あらやだ、ふふふ。ごめんなさいねスノウちゃん」
「すまん、スノウちゃん。ヨロシクな」
スノウは目を瞬かせて、2人へとコックリと頷き返す。
「さぁスノウもこっちに来な」
スティラに声をかけられ、マーヤに「見てあげて」と微笑まれて促され、スノウは緊張も程よく解れた状態で話の中心へと足を進めた。
そこには籠に入れられ布に包まった小さな赤子が収まっていて、周りから覗き込まれる顔に反応してか「あー」と口を開けたりしている。
「わぁ……」
初めて生まれたばかりの赤子を見たスノウは、まじまじとその存在を見つめた。
柔らかそうな頬、二重なのが見て取れるぱっちりとした目と灰色がかった瞳。小さな鼻と唇。髪の毛はまだふわふわとしたものが少ししか無い。お包みから出た小さな手が宙を彷徨い、焦点の合わない瞳があちこちへと動く。
スノウが背を優しく押されて一層近くから覗き込むと、赤子はスノウの影を捉えたのかスノウへと目が向けられた。
何処か恐れてしまいそうな、触れてはいけない気がしていたスノウは小さく息を飲んで身を引こうとした時だった。
「あー、あー」
サラリと肩から溢れて近くで揺れた黒髪が目についたのか、赤子はそれを掴んで満足そうな声をあげた。
「あ、あのっ」
「ふふ、気に入っちゃったのかしらね~。まだハッキリとは見えてないんだけど、スノウちゃんの髪は気に入ったみたいよ」
「気に……?」
マーヤに聞き返そうとした時、ツンっと掴んだ髪を楽しげに揺らしている赤子を目に入れスノウはじんわりと胸の真ん中が暖かくなっていくのを感じた。
ここに居ても良いんだと言われているようで、スノウは嬉しくて自然と涙が込み上げてきてしまう。
それを溢さないように、必死に笑顔を作って落ちないように頑張ったのだった。
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