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しおりを挟むクリスティーナの指示を受けて近衛騎士達が部屋を下がっていくと、アシェリードとクリスティーナの2人だけになった。
シンとした空気を先に破ったのは、重厚な椅子から立ち上がったアシェリードだ。
執務机を回って備えられていた長椅子に腰掛けるクリスティーナの隣へと腰を下ろしたアシェリードは、クリスティーナの手を掬い取りキュッと包んで握り込む。
「クリスティーナ……昨夜はすまなかった」
「いえ、私も勢いで……言いすぎましたわ」
「君には情けないところばかり見せてしまっているな」
「外面が装えているのであれば、幾らでも情けなくとも構いませんわ。人ですもの」
「っ、すまない。ありがとう……クリスティーナの言う通り、あの子に罪はない。一国の王として、そろそろどうするか考えなければならないな」
「えぇ……私も考えております。まずはこの件を片付けてからに致しましょう」
「クリスティーナ……」
目を細めて愛おしげに妻を見つめるアシェリード。しかし空気に流されない……読めないのがクリスティーナである。
「さ・一先ずお風呂に致しますわ!アトリの様子も見に行かなくては。流石に徹夜はキツいです。陛下も調査の指示と公務を並行して行っていたのでしょう?無理なさらず早くお休みくださいませ」
すっくと立ち上がると、さっさと部屋を立ち去る勢いで扉へと向かって行く。
流石のアシェリードも、徹夜捜索明けの妻に何も言うことができず。
「……分かった」
がっくりと肩を落として、勇ましい妻の背中を見送ったのであった。
入浴を済ませてアトリの見舞いに出向き、クリスティーナは王妃の寝室で1人考え込む。
白雪姫は改案された広く知られているストーリーと、原案とある。勝手に広く知られている方だと思っていたが、もしかしたら原案の方なのかもしれないと、思い始めていた。
しかし、蓋を開けてみれば小人は子供だったし、もうすぐ8人兄弟(妹?)予定だし、魔女は魔女でも薬学の権威である森魔女様だった。
ストーリーに出てこない第3のファクターである“誘拐犯”が出てきた時点で、話が変わってきてしまっている…………いや、そもそもクリスティーナの中身が前世日本の庶務課に勤めるお局予備軍であったあたりで初っ端から逸脱していると言えるのだが。
「う~~ん、これはもうストーリーとか言ってる場合じゃないわね」
強制力やストーリーから脱却して平和に美幼女とキャッキャウフフしたかったのだが、そうも言っていられない状況である。
クリスティーナはストーリーを一旦頭から排除して、目的を定める事にした。
「スノウたんをいじめる奴はぶっ飛ばぁ~す!よっしっ!!」
これだ!と満足そうに頷き、明日から早期解決に向けて英気を養うべく夢の世界へスタートダッシュを決めた。
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